「青」のない海の世界を表現。初の写真集出版に合わせ個展も開催、水中写真家・上出俊作氏へインタビュー

沖縄を拠点に活動する水中写真家・上出俊作氏が写真集『陽だまり』を2022年6月1日に発売する。写真集は現在予約も受付中。また、写真集発売に合わせ、6月3日より写真展「陽だまり レンズ越しに見つめた10mmの海」も東京と大阪で開催するという。

オーシャナでも数年前から記事を執筆してくれている上出氏。自身初となる写真集刊行・個展開催と聞きつけ、インタビューをしてきました!

写真集刊行と個展開催のきっかけ

オーシャナ編集部(以下、――):初めての写真集、おめでとうございます! 写真展も、個展としてギャラリーで開催されるのは初めてでしょうか。

上出俊作氏(以下、上出氏)

そうですね。関東では「琉球酒房 菜酒家 FU-KU」さんで個展や合同展をさせていただいていましたが、今回は、東京のギャラリーでの初めての個展です。

――いつから企画されていたんですか?

上出氏

去年の春くらいからです。以前からそろそろ写真展をやらないとなとは思っていたのですが、写真集も作りたかったので今回一緒に行うことにしました。

――そろそろ、というのは?

上出氏

2016年から水中写真家として活動を開始して、ありがたいことに作品のファンになってくれたり、セミナーに参加してくれたり、応援してくれる人が増えてきました。なので、改めて世の中から一人の写真家として認識してもらうためには、東京で個展をするということが、今のタイミングで必要なステップではないのかなと。また、ダイビングの世界にいる人だけでなく、より多くの方に自分の作品を見ていただきたいという気持ちもあります。

――今回の写真展を行う「富士フイルムフォトサロン」は立地もよく、一般の方もたくさんいらっしゃるギャラリーだと伺いましたので、ぴったりですね。

上出氏

はい。色々ギャラリーを見て、ここがいいなと思いましたし、水中写真家の先輩である越智隆治さんや岡田裕介さんがこの場所をおすすめしてくれて。若手向けの公募展もあると教えてくれたので、応募したところ審査に通り、ここで実施できることになったんです。

「青」のない海の世界を表現した作品たち

――今回、写真展も写真集もマクロの作品のみと伺いました。どういったテーマがあるのでしょうか。

上出氏

共通しているのは、青い海の写真ではなくて、小さい生き物たちと彼らが住む世界の色彩を表現していること。みんなが思い浮かべる海の青とは違う、別の世界がありますよっていうのが一つ大きなテーマになります。

――なぜそのようなテーマに?

上出氏

初めての個展なので、自分らしさが出るものにしたかったんです。沖縄が好きで移住したから最初は沖縄をテーマにしたくて写真をセレクトしてみたんですが、どうしてもただのお気に入り集の域を抜けられなくて。でも周りの人に相談する中で、生き物たちの美しさが際立つ、青のないマクロ写真に行きつきました。

自分ではそういう世界が好きで撮っていただけですが、結果的に、それが自分らしさを表すテーマだということにと繋がりました。

――確かに、上出さんの作品は水中と感じさせないような色彩が表現されているイメージがありますね。

上出氏

はい。本来の生き物や背景の色を出したくて、海の青を削ぎ落としています。自分にとって色はとても大事なので、写真集に関しては全カット本機色校正を行いました。印刷するとなかなか自分の思った色が出ないこともあるといいますが、幸いなことに綺麗に表現ができていました。

※本機色校正:実際に使用する印刷機、紙、インキを用いて出力したものを確認すること

――なぜ色へこだわりが?

上出氏

水中って見たことない色がたくさんあるじゃないですか。たとえば陸上で赤い生き物の写真を撮ってこいって言われてもそんなに撮れないと思うんです。でも水中は赤い生き物もいれば、他にもいろんな色のバリエーションが簡単に撮れて、それが一つの水中写真の楽しさなのではないかなと。海の魅力も伝えたいですが、それ以上に水中写真が好きだから、水中写真のそういうおもしろさが伝わったら本望です。

――なるほど。他に写真集でこだわった点はあるのでしょうか。

上出氏

装丁を今までの水中写真集とは違うものにしたくて、工夫をしています。デジタルでも写真を見ることができ、写真集も作れるような今の時代に物を作るっていう意義は考えなくちゃいけないと思っているので、ただ写真をまとめたものにはしたくない。手に取った時に何か感じてもらえると良いなと思っています。温かみというか、たとえば飾ってもらうとか、生活に寄り添えるものができたらいいなと思っています。

――出来上がりが楽しみですね。

上出氏

購入してくれた方をびっくりさせたいですね。

「小ささ」をリアルに感じてもらう写真展

――写真展の作品は写真集からセレクトされたのですか。

上出氏

そうですね。ただ、写真展は30点と枚数も限られているので、よりテーマを絞っています。写真集の中にはイバラカンザシなど一般の人が見ても何かわからないものや、マクロといっても数センチあるような生き物の作品も入っていますが、写真展は1cmに満たない生き物のみです。

――なぜより小さな生き物にフォーカスしたのでしょうか。

上出氏

僕たちダイバーは当たり前のように5mmとか数ミリ単位の生き物を撮影していますが、普通の人たちはその写真を見てまさかそんなに小さいとは思わないよねっていう話を富士フイルムの担当者としていて。その驚きポイントが伝えられたら面白いんじゃないかなと思ったんです。

――写真展だと写真が大きくなるので、その小ささを伝えるのは難しいのでは…!?

上出氏

その工夫は当日のお楽しみです(笑)。少しお話しすると、実物大でプリントしてルーペで見てみたらどうかなーとかデザイナーさんとお話ししたりしています。子ども連れの方もいらっしゃるような場所なので、お子さんにも楽しめるような仕掛けをしたいなと。

――写真展ってただ大きく写真をプリントして展示するだけじゃないんですね!

上出氏

一番大きいサイズだと横は1mくらいのものをつなげて展示する予定ですが、全体的な空間作りはデザイナーの方に相談しながら進めています。アクリル板を使って透明感を出してみようかとか。僕のイメージというか方向性としては、格好良いというよりも楽しいとかあったかい空間が作れたらいいなと。

――まさに“陽だまり”を感じさせる空間になりそうですね。

上出氏

比較的小さなスペースですが、それを生かして、部屋とかアトリエに遊びにきてもらうような感覚の場所にできたらと思います。

写真展の準備を経て 小さな生き物への向き合い方

――生き物を撮影するときに心がけていることはあるんでしょうか。

上出氏

生き物の魅力が伝わらなかったら、写真家として失格だと思っています。僕のオリジナルの撮り方とか技術は必要なくて、その魅力を100%伝えるために今やるべきことをやるというところでしょうか。それはマクロもワイドも関係ないですね。

――今回のテーマである小さな生き物では、特に意識していることはあるんでしょうか。

上出氏

距離感とか生き物との関係性は気をつけなければいけないと思います。実は写真展がきっかけでこの辺は特に意識するようになりました。変な話、ウミウシとか人間が動かせてしまいますよね。でも写真展に来た子どもから質問された時に、そういう風に写真を撮っているんだよって、言えますか?

――あまり言いたくないですね。

上出氏

もちろんそんなことはしませんが、どうしても小さな生き物たちには寄らないと撮影できないので、少なからずストレスは与えてしまいます。環境意識の高い若い方が増え、SDGsという言葉が一般的になってきた時代に、自分が写真を撮っていく中でそういうことを常に考えていないと、何か間違ったことをしてしまうのではないかという恐怖感みたいなのもあります。いずれにせよ、この写真展が小さな生き物と改めて向き合うきっかけとなりました。

――自然への敬意や自分達の与える影響は忘れてはいけませんね。

上出氏

あと、小さな生き物に向き合うなら、老眼になる前に今のうちにたくさん撮っておかないとと思ってます(笑)。105mmレンズの視点で水中を見ると、全然違う小さな生き物たちの世界に出会うのはやっぱり楽しいです。

――大事なことですね(笑)。今後チャレンジしてみたいことはありますか?

上出氏

テーマを決めて撮影するということはやりたいですね。今回初めてテーマを本気で考えて、そこに向けて撮影していくのがとても楽しかった。自分の生活がすべてそれに向いていくんです。定期的にそういった作品を出していくことは成長につながりますし、自分の内面を深掘るのに必要だと感じられました。

上出氏

また、チャレンジではないですが、作家としての活動を継続していくということが大事かなと思っています。何者でもなかった自分がこういう活動ができるのは、色んな方の応援のおかげです。そういう方々に感謝を伝え、恩返しできるとすれば、作品を通してと水中写真のセミナーという二つしかないと思うので、地道に続けていけたらと思います。

――ありがとうございました。

今回上出氏にインタビューする中で、水中写真を本当に楽しんでいて、その楽しさを伝えたいという想いがとても伝わってきた。そんな上出氏が撮る小さな色とりどりの世界を間近で感じられる写真集は予約販売中。写真展は東京は6月3日(金)~6月23日(木)、大阪では2022年10月7日(金)~10月20日(木)にかけて開催されるので、ぜひ足を運んで「青のない海の世界」を堪能してみては。

上出俊作写真集『陽だまり』

写真集『陽だまり』(2022年6月1日発売)

判型:A4変形 ハードカバー
頁数:112ページ
収録作品:94点
印刷・製本:八紘美術

予約・購入はこちらから
▶︎陽だまりスタジオOnline Store

上出俊作写真展 「陽だまり レンズ越しに見つめた10mmの海」

【東京会場】
■開催期間:2022年6月3日(金)~6月23日(木)
■開館時間:10:00〜19:00(最終日は16:00まで、入館は終了10分前まで) 会期中無休
■会場:FUJIFILM SQUARE(フジフイルム スクエア)内、富士フイルムフォトサロン 東京 スペース3
東京都港区赤坂9丁目7番地3号 東京ミッドタウン・ウェスト1

【大阪会場】
■開催期間:2022年10月7日(金)~10月20日(木)
■開館時間:10:00~19:00(最終日は14:00まで、入館は終了10分前まで)
■会場:富士フイルムフォトサロン 大阪
大阪府大阪市中央区5 大阪市中央区本町2−5−7 メットライフ本町スクエア (旧 大阪丸紅ビル)1F

■入館料:無料
■主催:富士フイルム株式会社
■作品点数:全倍・全紙、カラー、約30点(予定)
▶︎FUJIFILM SQUARE公式ウェブサイト

上出俊作Profile

水中写真家 陽だまりスタジオ代表

1986年東京都出身。大学4年生の冬にダイビングと出会い、卒業後はノボノルディスクファーマ株式会社に営業職として入社。働きながら週末は伊豆、連休は沖縄に通い、ダイビングと水中写真にのめり込む。「沖縄の海の近くに住みたい」という夢が抑えきれなくなり、会社を退職。2014年沖縄本島に移住をする。その後、沖縄県名護市を拠点に水中写真家としての活動を開始。「水中の日常を丁寧に切り取る」というテーマで、沖縄を中心に日本各地の海を撮影し、ダイビングメディアでの執筆活動や写真展等のイベントを通して、水中写真と沖縄の海の魅力を発信し続けている。

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