中性浮力は不可能? 物理学者が「中性浮力」の正体を実験動画でイチから解説!

「中性浮力って難しい」——そう感じているダイバーは少なくないだろう。なんとなくできてはいるものの、原理まではよくわかっていないという人も多いのではないだろうか。

今回は、物理学者のしろう先生(ダイビング博士)に、中性浮力の仕組みを物理学の視点からわかりやすく解説してもらった。魚のおもちゃとペットボトルを使った実験とあわせて見れば、中性浮力の仕組みが一気に理解できるはずだ。

https://youtu.be/breTYwC8JUg

浮力とは?まずは基本を理解しよう

「中性浮力」を理解するためには、まず「浮力」の仕組みを知る必要がある。

しろう先生によると、浮力とは「水中で物体が受ける上向きの力」のこと。水は深くなるほど水圧が高くなるため、体の上面よりも下面のほうが大きな水圧を受ける。その圧力差によって、上向きの力である浮力が生まれる。

浮力の図解スライド

浮力=自分の体積と同じだけの水の重さ

人間の体は、一般的には水とほぼ同じ密度、あるいはわずかに軽いため、何も装着せずに水へ入ると浮きやすい。そのためダイビングではウエイトを装着し、重力と浮力のバランスを調整して中性浮力を目指している。

浮力と重力が等しくなった時に雨季も沈みもしない状態=中性浮力となる

魚のおもちゃで実験!「重さ」と「体積」の関係

しろう先生が取り出したのは、水槽に浮かべる小さな魚のおもちゃ。このシンプルな実験が、中性浮力の本質を非常によく表している。

魚のおもちゃ

醤油入れに使われている魚の空の容器に色を塗ったもの

空気だけが入った状態 → 浮く

空気だけが入った状態 → 浮く

重りを付けた状態の魚のおもちゃ
重りを付けた状態 → まだ少し浮く
水が8割入った状態の魚のおもちゃ
水を入れすぎて沈んだ魚のおもちゃ
水を入れすぎる → 沈む
水量を調整して適正状態になった魚のおもちゃ
水の量を調整する → 適正ウエイトくらいになる

つまり、魚の内部にある「空気」と「水」の割合を変えることで、浮き沈みが変化するということだ。「重さ」と「体積」のバランスが変わることで浮力が変化している。この考え方は、ダイビングにおける中性浮力の原理そのものである。

ペットボトルを押すと魚が沈む!?
BCDとの関係

続いて登場するのが、「デカルト・ダイバー(浮沈子)」と呼ばれる有名な実験だ。

魚のおもちゃをペットボトルの中に入れてふたを閉め、ボトルを押すと——魚は沈み、手を離すと再び浮かび上がる。

ペットボトルを押すと魚が沈む実験

押すと沈んでいくんですね

なぜこのような現象が起きるのか。ボトルを押すことで内部の圧力が高まり、魚の中にある空気が圧縮されて体積が小さくなる。その結果、浮力が小さくなり魚は沈む。逆に手を離すと空気が膨張して体積が大きくなり、浮力が増えて再び浮上する。

空気の体積と浮力の関係図解

空気が小さくなることで浮力が小さくなる

この仕組みは、ダイバーが使用するBCDと同じ考え方だ。

BCDと浮力の関係

  • BCDを膨らませる=体積が増える=浮力が増える
  • BCDの空気を抜く=体積が減る=浮力が減る

ダイバーが水中で直接コントロールできるのは「体積」である。呼吸とBCDを使って体積を調整することで、浮力をコントロールしているのだ。

なぜ「吹き上がり」や「急降下」が起きるのか

水中で少し浮き始めると、水圧が下がりBCD内の空気が膨張する。すると浮力がさらに増え、さらに浮きやすくなる。この連鎖が「吹き上がり」である。

逆に少し沈み始めると、水圧が高くなってBCD内の空気が圧縮され、浮力が低下する。その結果、さらに沈みやすくなる。これが「急降下」の仕組みだ。

吹き上がり・急降下のメカニズム図解

浮けば浮くほど浮上する 沈めば沈むほど沈下する

つまり、吹き上がりや急降下は単なる操作ミスではなく、物理的な性質によって自然に起こりやすい現象なのである。しろう先生は「中性浮力は物理学的には不安定な状態」と説明する。

「中性浮力は不安定」だからこそ練習が必要

「中性浮力は物理的には不安定な状態です。でも、みなさん実際にはできていますよね。大事なのは適正ウエイトです。ウエイトが重すぎると、中性浮力は取りにくくなります」。

ほんの少し浮いたらBCDの空気を抜き、ほんの少し沈んだら空気を入れる。この細かな調整を繰り返すことで、中性浮力は維持されている。

物理学者でさえ「本来は不安定な状態」と説明する現象なのだから、難しく感じるのは当然のこと。だからこそ、適正ウエイトを身につけ、繰り返し練習することが上達への近道になる。

まとめ

中性浮力の仕組み 5つのポイント

  • 浮力とは、水圧の差によって生まれる上向きの力
  • 中性浮力とは、浮力と重力がつり合った状態
  • ダイバーが調整できるのは「体積」(呼吸とBCD)
  • 吹き上がりや急降下は物理的な連鎖反応によって起こる
  • 中性浮力は本来不安定だが、適正ウエイトと適切な操作によって維持できる

中性浮力は感覚だけで身につけるものと思われがちだが、物理学の視点から仕組みを理解すると、水中で何が起きているのかが明確に見えてくる。

動画では実験の様子を交えながら、さらに詳しく解説している。中性浮力をもう一段レベルアップさせたいダイバーは、ぜひ動画もあわせてチェックしてほしい。

山崎 詩郎(やまざき・しろう)
物理学者・博士(理学)。東京大学大学院理学系研究科物理学専攻で博士号を取得後、日本物理学会若手奨励賞を受賞。現在は東京科学大学理学院物理学系助教として研究・教育に携わる。科学コミュニケーターとして、テレビや映画の科学監修・出演も多数。著書『独楽の科学』で知られる「コマ博士」、SF映画『TENET テネット』の字幕科学監修や『オッペンハイマー』の監訳を務めた「SF博士」としても活躍している。
2022年にダイビングを始めたことをきっかけに、その魅力に没頭。「なぜ浮くのか」「なぜ沈むのか」といったダイビングの原理を物理学の視点から解き明かす連載や講演を行い、「ダイビング博士」として科学的な視点からダイバーのスキルアップをサポートしている。

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