「あと10分遅れていたら死んでいたかもしれない」水中で右肺が潰れた危機からの生還(前編)
NAUIのコースディレクターとして長年ダイビング界をけん引してきた村田幸雄氏。
村田氏が育てたインストラクターやガイドは数知れず、インタビュアーの寺山もそんな1人だ。
沖縄県ダイビング安全対策協議会・会長として、安全潜水の普及やドクターヘリの研究にも取り組んできた村田氏だが、平成20年3月15日、潜水事故の当事者となり、皮肉なことに本人がヘリ搬送され一命をとりとめることとなる―――
■村田幸雄
NAUIコースディレクター、DAN酸素インストラクタートレーナー、「国際潜水教育科学研究所」の運営、NPO法人 沖縄県ダイビング安全対策協議会会長。
※詳細プロフィールはこちら
村田 幸雄が書いた記事|ダイビングと海の総合サイト・オーシャナ
■聞き手/寺山英樹
水深10mで、急に呼吸ができなくなった!?
~事故発生からヘリコプター搬送~
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まず、どんな事故だったのでしょうか? 概要を教えてください。
村田
ひと言で言えば、水中で右肺の肺嚢胞が破れたということです。
結果的には右肺が完全に潰れた状態でした。
ダイビング中、通常のレギュレーターでの呼吸をしながら水深10mくらいまで戻ってきたら、突然、口から空気を吸うことができなくなったのです。
一瞬レギュレーターの故障かなと考え、オクトパスに切り替えましたが、吸えません。
パージボタンを押したら空気を吸える感触があったので、パージボタンを押しながらボートの下まで戻り、そこで安全停止をして窒素抜きしてから浮上。
水面にて装具を自分で脱装、スーツの上着まで脱いで船上に上がりました。
以後、水平仰向けの姿勢にて酸素を吸いつつ港まで戻り、浦添総合病院が運航しているU-PITS(ユーピッツ、浦添総合病院の救急ヘリ搬送システム/Urasoe-Patient Immediate Transport System)に連絡してヘリ搬送してもらいました。
その後、4月に右肺を、8月に左肺の肺尖部の部位を握り拳大のサイズの切除手術を受けることになりました。
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水中で右肺が潰れる…。思いがけない事故ですが、水中で自分の身に起きていることがすぐにわかったのでしょうか?
村田
いえ。その時は、まさか肺が潰れているとは思っていませんでした。
肺は痛みを感じないので、圧迫感のある心臓の方を心配しました。
安全停止をしながらも、「どうしたんだろうか?」とあれこれ考えましたが、やはり心臓の拍動に問題でも発生したのかなと考えていました。
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何が起こっているかわからない状況で、原因以外にどのようなことを思っていたのでしょうか?
村田
体内の窒素がどこに飛ぶかわからないので、頭に血栓でもできたらやっかいだなと、チャンバーのこと思いました。
沖縄安全対策協議会(以後、安対協)の活動を通じて、沖縄の医療施設や運用のことは全部わかっています。
その日は土曜の昼で、チャンバーは動かせないかもしれないので、とにかく窒素を排出しなければ、と考えていました。
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呼吸もままならない状況で、船上から、ドクターヘリへ自力で連絡したのでしょうか?
連絡から病院への搬送まで、詳しく教えてください。
村田
自分の携帯電話でスタッフにU-PITSに電話してもらい、自発呼吸が難しかったので替わりに情報を伝達してもらいました。
U-PITSに連絡したら、すぐに前兼久漁港に向かう旨の連絡と、金武地区恩納分遣隊に連絡して救急車の手配もするように指示されました。
救急車には直接船着き場に来てもらうように指示しましたが、ヘリが来たので、臨時へリポートまでダイビングサービスの車で移動しました。
酸素は自分で、毎分15リットルをノンリブリーザーマスクで呼吸しました。
臨時へリポートに着くとヘリが着陸体制になっていました。
メインローターが廻っている状態でヘリに近づく人がいて、パイロットから制止のサインが見えました。
救急車も臨時へリポートに合流。ヘリからストレッチャーが降ろされ、私は自力で起きてストレッチャーに横たわりました。
水着一枚だけでした。
その後、ドクター・ヘリコプターにて、極めて短時間に救急搬送してもらいました。
救急搬送された先は名護市にある北部地区医師会病院です。
3日間はICU(集中治療室)、その後は一般病棟に入院でした。
肺が潰れたままで治療が遅れると、潰れた肺が二度と膨らまなくなってしまう危険性が高くなるので、緊急な治療が必要でした。
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おおよその状況はわかりました。
これまで事故を研究してきた第一人者が事故の当事者になるというのは皮肉なことですが、逆に、専門家ならではの事故記録と報告が残り、予防を考える上で重要な資料になったと思います。ここからは、その資料とお話をもとに、事故予防に活かせる、事故から得た反省や教訓を改めてお聞きしたいと思います。
(後編へ続く)