『THE RESCUE 奇跡を起こした者たち』 洞窟ダイバーによる命懸けの救出劇を描いたドキュメンタリー

洞窟内に閉じ込められた少年たちを救うため、命懸けで救出作戦を行った洞窟ダイバーの姿を描いたサスペンスフルなドキュメンタリー映画『THE RESCUE 奇跡を起こした者たち』が2月11日(金)より全国で順次公開される。それに先駆けて試写会に参加してきたオーシャナ編集部セリーナが本映画の見どころをお伝えする。

2018年、世界中が注目したタイの洞窟事故

2018年6月23日、タイ・チェンライにあるタムルアン洞窟。地元のサッカーチーム12人とコーチ1人の計13人が練習終わりに洞窟散策を中に急な豪雨に襲われる。洞窟内の水かさがみるみる上昇。洞窟の入り口は水没し洞窟内に閉じ込められるという事故が発生した。このニュースは世界中から注目を集め、日本でも連日報道された。

本作はこの事故の舞台裏を捉えたドキュメンタリー映画。2年に渡り丁寧に関係者への取材を行い、すでにいくつかある同じ題材の映画やドラマ以上に、リアリティさを追求。監督は『フリーソロ』で、2019年アカデミー賞長編ドキュメンタリー賞を受賞したエリザベス・チャイ・ヴァサルヘリィとジミー・チン。スリリングで緊迫感に溢れた本作は、2021年トロント国際映画祭で上映され絶賛を博し、観客賞を受賞。本年度のアカデミー賞の呼び声も高い。今回日本の劇場公開に合わせて、素材を4K化したことで、さらに臨場感が増した圧巻の映像になっている。

事故の現場に現れた思いがけないヒーロー。それは洞窟ダイバー

少年たちの生存は絶望的と思われていたが、洞窟の入り口から約5km入った場所で発見され、世界中は歓喜に沸いた。少年たちのいる場所まで、水没した箇所をダイビングで通り抜けなければならず、タイ海軍特殊部隊米軍特殊部隊に加えて各国から応援が入り数千人が集まったが、洞窟ダイビングは死のリスクが高く、特殊技能が必要となる。通常のダイビングとは異なり、浮上しても水面に出ることはできず、水が濁ると自分がどこにいるのかもわからなくなる。救出どころか救助隊への二次災害も懸念されていた。

なかなか進まない救出活動。そこで世界各地から集められたのは、民間の洞窟ダイバーたちだった。元消防士のリック・スタントン、ITコンサルタントのジョン・ボランセン、建設技師のジェイソン・マリンソン、医師のリチャード・ハリス。彼らを中心に決死の救出作戦が始まった。

これまで明かされなかった87時間分のタイ海軍の秘蔵映像や関係者のインタビュー映像により、危険と隣り合わせの状態でさまざまな困難に立ち向かい、まるで綱渡りのような決死の救出作戦に挑んだ民間ダイバーたちの人間性や勇気、団結力にスポットを当てながら、事故の全貌を描いている。

危険と隣り合わせの洞窟ダイビングでスキルよりも必要な能力とは

「洞窟ダイビングにおいて必要なことは高いスキルよりもメンタルの力です。水中洞窟という環境は、光も空気も無い、狭く閉鎖的な場所。何かアクシデントがあっても、ほとんどは潜降開始した地点まで戻らないと空気のある水面へ戻れないので、恐怖心が先行します。ちょっとしたアクシデントでもパニックになってしまうことも少なくありません。また、器材も特殊なものが多く、一般に販売されている器材だけでは環境の特殊さに適用できないため、足りないときは市販のものに少し手を加えたり、自作したりすることもあります。

そんなシビアな洞窟ダイビングの魅力とは、ときどき遭遇できる『美しい神秘の地下空間』。この世のものとは思えないような素晴らしい世界が広がっています。」と洞窟探検家・一般社団法人日本ケイビング連盟会長・吉田勝次氏は話す。

監督が伝えたい“人間性”の物語

本作のテーマは「不可能な救助」だが、実際には「道義的責任」についての映画だ。もし誰かを救出する技術を持っている場合、自分自身が危険にさらされてもそれを実行する責任があるのだろうか?これは、私たちが持つ人類共通の“人間性”についての物語でもあるのだ。

「映画館から出たとき『自分にも同じ選択ができるか?』と自問自答してもらいたい。人々は忍耐と決意によって、普通は乗り越えられないような困難を克服し、偉大なことを成し遂げられる。その姿を見て、観客の皆さまが感動することを願っています」と監督らは話す。

編集部セリーナ、鑑賞を終えて

地球上で誰も見たことがない景色が広がっているであろう水中洞窟。この魅惑的な地を潜るには、死をも覚悟しなければならないほどの危険が伴う。なぜリスクがあるにも関わらず、洞窟ダイバーは冒険を辞めないのだろう。本作では、洞窟ダイバーの事故における活躍の一部始終はもちろん、予想以上に洞窟ダイビングに挑むまでのバックグラウンドや、モチベーション、インスピレーションなども描かれていた。

また、個人的に興味深かったのは、視覚効果(VFX)を駆使し、3Dで描いたリアルな再現映像と、洞窟の規模や複雑さ、危険性、そしてダイバーがどれだけの距離を移動したのかをよりわかりやすくするために3D マップで表現していたこと。洞窟内にいるダイバーの姿はまるで宇宙にいるかのように神秘的。危険も伴うが、それ以上に魅力的な洞窟ダイビングを想像させる美しい映像だった。

ダイバーなら、洞窟ダイバーが使う特殊な器材に注目してもおもしろいだろう。ぜひ劇場に足を運んでみてはいかがだろうか。

洞窟ダイバー本人が出演

本作は、事故当時の映像と実際に活躍した洞窟ダイバー本人へのインタビュー映像でストーリーが進んでいく。主な出演者は以下の4名。

リック・スタントン (元消防士、洞窟ダイバー)

英国・ウェストミッドランスズ消防局で消防士として勤務していたが、彼が最も時間を費やしたのは趣味の洞窟潜水だった。彼は40年もの間、世界中の洞窟を探索し、独自のスキルを着実に身につけ、最も困難な洞窟の救助・復旧ミッションに呼ばれるような立場になった。

ジョン・ボランセン (IT コンサルタント、洞窟ダイバー)

イギリスの洞窟探検家かつ洞窟ダイバーであり、過去20年以上に渡って洞窟探検に携わってきた。安全に探索するための呼吸システムや地図作成システムを設計、構築。世界各地で数多くの洞窟救助に携わっている。

ジェイソン・マリンソン (建設技師・洞窟ダイバー)

世界中の水中洞窟で30年以上の経験を持つ洞窟探検家。2010年、2011年、2013年にスペインで行われた潜水距離の世界記録を達成した国際的なダイビングチームのリーダーを務めた。少年たちが発見された後に現地入りした。

リチャード・“ハリー”・ハリス (医師・洞窟ダイバー)

南オーストラリアのアデレードで、麻酔、ダイビング、航空医 療救助の分野で活躍。同僚と共に、16時間以上のダイヒングで、水深245mの洞窟や水深150mの難破船を探検してきた。 

『THE RESCUE 奇跡を起こした者たち』

■監督、プロデューサー:エリザベス・チャイ・ヴァサルヘリィ
直近では、ロッククライマーのアレックス・オノルドを親密かつ淡々と描いた『フリーソロ』を監督・製作し 2019 年アカデミー賞長編ドキュメンタリー賞を受賞した。
■監督、プロデューサー:ジミー・チン
ナショナル ジオグラフィックの写真家であり、プロの登山家、スキーヤーでもある。 20 年以上にわたり、最先端のクライミングやスキー登山などの遠征に参加しなが ら、7つの大陸を旅し続けた。ジミーは、妻のチャイ・ヴァサルヘリィと共同で映 画製作と監督をしている。
■公開日:2022年2月11日(金・祝)より新宿武蔵野館ほかにて全国順次公開
■上映時間:107分

映画『レスキュー奇跡を起こした者たち』公式ウェブサイト

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PROFILE
0歳~22歳まで水泳に没頭し、日本選手権入賞や国際大会出場。新卒で電子部品メーカー(広報室)に入社。同時にダイビングも始める。次第に海やダイビングに対しての想いが強くなりすぎたため、2021年にオーシャナに転職。ライターとして、全国各地の海へ取材に行く傍ら、フリーダイビングにゼロから挑戦。1年で日本代表となり世界選手権に出場。現在はスキンダイビングインストラクターとしてマリンアクティビティツアーやスキンダイビングレッスンを開催。
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