サンゴ礁の未来を守るために 与論島でリーフチェックサミットが初開催

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5月12日、「日本自然保護協会」と「海の再生ネットワークよろん」が与論島で初めての「奄美群島リーフチェックサミット2024」を開催した。このサミットは、世界共通の調査方法で行われるリーフチェックにおいて、各地のサンゴ礁の現状や運営方法の工夫を共有、調査員同士の交流の場の提供、また担い手不足の解消を目的に開催された。当日は、地元の一般町民や島内外の関係者約30人が参加した。

リーフチェックとは?

リーフチェックの様子。毎年海底の同じ場所にメジャーを張り、決められた距離ごとに何があるかを記録していく

リーフチェックとは、世界中で共通の方法で行われるサンゴ礁の調査プログラム。1997年の第1回国際サンゴ礁年に世界中でスタートしたこの調査は、サンゴ礁の健康状態を評価し、環境変化や人間活動の影響を把握することを目的としている。調査方法は、ダイバーやシュノーケラーが実際に海に入り、調査ラインを引き、特定の指標生物や環境要因を観察・記録するというもので、これによりサンゴ礁の状態を科学的に評価し、長期的なデータとして蓄積している。同一方法を取っているので世界各地のデータと比較可能となる。

高度なダイビングスキルが求められるものの、地元のコミュニティやボランティアの方に参加してもらうことで、サンゴ礁保全の意識を高めるという重要な役割も担っている。さらに、この調査結果は、研究者や環境保全団体、行政や民間など活用されればサンゴ礁保全のための具体的な対策のための貴重な資料となる。すなわちリーフチェックは、サンゴ礁を守るためのグローバルな取り組みの一環であり、地域と世界が連携してサンゴ礁の未来を守るための重要なツールであるのだ。

リーフチェックサミットの目的とは?

リーフチェックは西表島では1997年、沖縄本島では1998年、喜界島では2018年、与論島や奄美大島(瀬戸内町)では2000年から実施されている。その他、石垣島、久米島、沖縄本島では勝連半島、泡瀬干潟、恩納村、浦添、そして東京の三宅島など多くの場所で展開されている。

奄美群島では与論島、喜界島、奄美大島でリーフチェックが行われてきている。今回は奄美群島に対象を絞り、喜界島、奄美大島、与論島からリーフチェック関係者が集まり、調査技術や成果の共有、地域へのデータの還元方法、運営方法、後継者の育成方法などについて意見交換を行い学ぶ研修とした。1997年開始以来、初めての試みであり、参加者全員で与論島の海でリーフチェックを行うことにも意義がある。今回が第1回目であり、2回目以降は与論島以外の場所でお互いの現場を視察することを計画している。

サミットの内容

サミットでは、奄美群島各地で行われているサンゴ礁の調査結果や保全活動の取り組みが紹介された。

喜界島サンゴ礁科学研究所・鈴木倫太郎研究員による発表

喜界島サンゴ礁科学研究所・鈴木倫太郎研究員による発表

喜界島サンゴ礁科学研究所の鈴木倫太郎研究員とボランティアダイバー二人は、2018年からの調査結果を報告。440年以上生きているハマサンゴの存在などその価値の高さや、企業や団体の協力を得た保全活動の事例を紹介し、多くの人々がサンゴ礁の環境を理解し、保全に参画できる運営体制の重要性を強調した。

自然保護協会保護・安部真理子主任による発表

自然保護協会保護・安部真理子主任による発表

続いて、奄美大島南部に位置する大島海峡の調査について、日本自然保護協会 保護・教育部の安部真理子主任が発表。リーフチェックを通じて得られたデータを基に、サンゴ礁の現状や調査方法を詳しく説明。また、地元事業者がアンカーによるサンゴの損傷を防ぐために40年前からブイを設置する活動を続けていることなど、瀬戸内海を守る会の工夫を凝らした保全活動の一端を紹介した。
安部氏は、「守ることの第一歩は現状を知ること。地域の人々が数値という客観的な指標を用いて自らが大切にする自然の状態を把握することが重要」と述べ、地域社会の参加を促した。

海の再生ネットワークよろん・池田香菜事務局長による発表

海の再生ネットワークよろん・池田香菜事務局長による発表

さらに、海の再生ネットワークよろんの池田香菜事務局長は、2000年から与論島で行われている長期的な調査と保全活動について報告。与論島での海中ごみ拾いやサンゴの植え付け、赤土流出を防ぐための植樹活動など、多岐にわたる保全活動とその成果を紹介した。

奄美海洋生物研究会・興克樹会長による発表

奄美海洋生物研究会・興克樹会長による発表

最後に、奄美海洋生物研究会の興克樹会長は、「奄美群島のサンゴを守るため私たちにできること」と題して講話を行った。サンゴをはじめとする奄美群島の貴重な海洋生物、アマミホシゾラフグ、クジラ、ウミガメなどの生態や保全活動について紹介。さらに、地域と連携した自主ルールの設定やデータの集積が重要であると訴え、研究者と地元事業者が協力して保全活動を進めることの意義を強調した。

子ども向けイベントの実施

リーフチェックのシミュレーションを陸で体験

リーフチェックのシミュレーションを陸で体験

サミット当日の開催前の時間帯には、地元の子どもたちを対象にリーフチェックの紹介イベントも開催された。子どもたちは、リーフチェックの方法やサンゴ礁とその海に住む生き物、なぜサンゴ礁が大事なのかなどを学び、陸で調査のシミュレーションを体験。イベント後、多くの子どもたちからは、「楽しかった」、「海の生き物を守りたい」「今度は海に行ってやってみたい」といった感想があがった。

リーフチェックの実施

与論島のリーフチェックの様子

与論島のリーフチェックの様子

サミット翌日の5月13日には、サミット参加者の手で与論島供利(ともり)のリーフチェックを実施した。天候には恵まれなかったものの、与論島の生物多様性豊かな海を見ることができた。参加者からもっとも多かった声は与論島リーフチェックの徹底した安全管理体制だ。与論島のダイビングサービスのみで調査を実施することもあるが、一般ダイバーや琉球大学の学生などビジターが調査を担うこともある。後者の場合は事故が起きないように、各バディに地元のガイドが必ず1名つくほか、船から調査ラインまで案内する係まで配置されていた。

ウミガメもリーフチェックに興味津々でダイバーに近寄ってきた

ウミガメもリーフチェックに興味津々でダイバーに近寄ってきた

調査の結果、底質に関してはサンゴの被度(ハードコーラルの割合)は水深5m付近の浅場で22.5%、深場で51.3%だった。浅場に関しては2019年の14.4%から徐々に良くなり、昨年の21.3%より良くなっている。しかし干潮時には海面からサンゴ礁が出てしまう場所であるため、現在の状態がベストであると考えられる。水深10m付近の深場については2019年の34.4%から大分回復し、良好な状態となっている。
魚類と無脊椎動物についてはチョウチョウウオ、ブダイ、ハタ、ガンガゼ、シャコガイなどが記録されたほか、カンムリブダイが3匹記録された。これはあまり他の調査ポイントでは見られなくなった種類である。

底質の調査結果 2019年~2024年

底質の調査結果 2019年~2024年

底質調査結果(深場) 2019年~2024年

底質調査結果(深場) 2019年~2024年

無脊椎動物調査結果(浅場) 2019年~2024年

無脊椎動物調査結果(浅場) 2019年~2024年

無脊椎動物調査結果(深場) 2019年~2024年

無脊椎動物調査結果(深場) 2019年~2024年

魚類調査結果(浅場) 2019年~2024年

魚類調査結果(浅場) 2019年~2024年

魚類調査結果(深場) 2019年~2024年

魚類調査結果(深場) 2019年~2024年

終わりに

リーフチェックの前の一コマ

リーフチェックの前の一コマ

奄美群島リーフチェックサミット2024は、各地のサンゴ礁調査結果を共有し、調査者同士の交流の貴重な機会となった。今後も彼らを中心に、リーフチェックの活動が継続的に各地で行われ、また他のエリアにも広がっていくだろう。場所によっては一般のダイバーが参加できることもあるので、皆さんもぜひ、サンゴ礁の美しい未来を守るための活動に参加してほしい。

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共催:日本自然保護協会海の再生ネットワークよろん
協力:喜界島サンゴ礁科学研究所

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