160年越しの新発見。アカエイは1種類じゃなかった!? 水中カメラマン・堀口氏もコメント
日本の海で潜っていると、アカエイの姿を目にする人は多いのではないだろうか。その“見慣れた存在”が、実は長年にわたって複数の種として混同されてきた。そんな事実が、長崎大学の研究によって明らかになった。
見慣れたアカエイに潜んでいた違和感
アカエイは、江戸時代にドイツ人医師・博物学者であるシーボルトらが採集し、オランダに送った6個体の標本をもとに、1841年に新種として記載された。学名は「Hemitrygon akajei」。以来、日本の海で見られるエイとして、長くこの名で知られてきた。
しかし、長崎大学の山口敦子教授らの研究により、有明海には見分けが難しいほど姿形がよく似た複数種のアカエイ属魚類がいることがわかった。さらに論文に記載された絵を精査すると、現在「アカエイ」と呼ばれている個体とは異なる特徴をしており、「Hemitrygon akajei=アカエイ」なのか疑問が生じた。そこから長崎大学の研究チームは2003年から20年以上にわたる調査を続けてきた。
「私たちが見てきたアカエイ」はどの種か
研究の鍵となったのが、オランダのNaturalis自然史博物館に保管されているアカエイの模式標本だ。調査の結果、保管されている標本には複数種が混在しており、しかも基準とされたレクトタイプ(その種の名前を決める“基準標本”)は特徴の出にくい幼魚だった。
そこで研究チームは、幼魚を含む多数のアカエイ属魚類を詳しく比較し、これまで一括りにされてきたアカエイの分類を整理した。その結果、現在一般に「アカエイ」と呼ばれている種が学名「Hemitrygon akajei」であることを確認すると同時に、別の新種「アリアケアカエイ」、学名「Hemitrygon ariakensis」の存在が明らかになった。
実は、この“違和感”は、研究者だけでなく、海の現場で生きものを撮影を続けてきた水中カメラマン・堀口和重氏の目にも、確かに映っていた。
【堀口氏コメント】
ここ数年、鹿児島でアリアケアカエイの撮影を続けてきました。見た目は一般的なアカエイとほとんど変わらなかったため、当初は同じ種類だと思っていました。
ところが、生態について長崎大学の山口敦子教授にお話をうかがったところ、実は別種であることを教えていただきました。特徴的な尾鰭の形も、アカエイとは異なることがわかり、これまで感じていた小さな違和感が、少しずつ腑に落ちていきました。
3年前、「早く名前をつけないといけませんね」とおっしゃっていたのを思い出し、正式な報告を受けたときには、素直にうれしい気持ちになりました。
このアリアケアカエイは行動もとても興味深く、現在も撮影を続けています。今後、どこかで皆さんに発表できればと思っています。
――水中カメラマン・堀口和重

堀口氏が鹿児島で撮影したアリアケアカエイ(写真:堀口和重氏)
見分けにくいからこそ、名前を持つ意味
アカエイとアリアケアカエイの外見は酷似しているが、尾の裏側の皮褶の色や腹側の鰓孔付近の横溝など、明確な違いがある。水中で一瞬すれ違うだけでは気づきにくい差異だが、名前が与えられたことで、それらは「意味のある違い」として認識できるようになった。
今回の成果は、生物多様性の正確な理解に貢献するだけでなく、今後の海洋資源管理や保全を考えるうえでも重要な基盤情報となる。

