奄美大島のホエールウォッチング&スイム2021年。親子クジラの物語を追う

沖縄へ向かうフェリーが、海面を滑るように進んでいく。さざなみに反射する太陽は暖かく、昨日まで全身で感じていた冬の厳しさは、もうそこにはない。水平線にザトウクジラのブローを探すが、視界に入るのは船から逃げるように飛ぶトビウオばかりだ。

今朝、まだ真っ暗なうちに奄美大島を出発した。今は徳之島と沖永良部島のちょうど真ん中くらい。夕方には沖縄本島に着くだろう。

今年も1ヶ月間、奄美大島でザトウクジラを追いかけながら過ごした。いつもどおり、楽しいことも辛いこともあった。

特別びっくりするようなエピソードはないが、今年の奄美大島とクジラにまつわる思い出を、写真と共にいくつか振り返りたい。

2頭のザトウクジラが並んで海に潜り込む様子

奄美大島瀬戸内町からザトウクジラに出会う旅へ

今年は1月下旬から2月下旬までの約一か月間、奄美大島南部に滞在した。お世話になったのは、瀬戸内町のダイビングショップ、アクアダイブコホロだ。

奄美大島では、奄美クジラ・イルカ協会で定められたルールのもと、協会加盟店同士が協力し合ってホエールスイムを行っている。ここ数年、島内でホエールスイムツアーを開催するショップも増えてきており、奄美のホエールスイムはどんどん盛り上がってきていると言っていいだろう。

アクアダイブコホロの船長・太田健二郎さんは、まだ奄美大島にやってくるザトウクジラが少なかったころから観察をし続け、約10年前にホエールスイムを始めた。まさに、奄美大島ホエールスイムの草分け的存在の一人である。

そんなアクアダイブコホロの船に乗り、1月はちょうど一週間海に出た。

様々なドラマを想像させるザトウクジラ

ホエールスイムに取り組んでいると、毎日と言っていいほど頻繁に「親子クジラ」というキーワードが出てくる。シンガーやペア、メイティングポッドなど、よく見られるクジラの雌雄の組み合わせのタイプ(※1)はいくつかあるが、「親子」という言葉が持つパワーは圧倒的。クジラを見つけてしばらく観察し、それが親子(母子)クジラだとわかった時、船上にいる皆の顔が一気に明るくなる。

母が子を育てる姿には、種別を超えて胸を打つなにかがあるのだろう。僕自身も親子クジラを見ていると、色んなストーリーを想像してなんだかほんわかしてしまう。赤ちゃんクジラが人間に興味を示して近寄ってくることもあり、それも親子人気を支える要因の一つであるように感じる。

奄美大島のホエールスイムは、1月初旬から3月末までの約3ヶ月間がシーズンになる。これまで「親子クジラはシーズン後半の方が多い」という話をよく聞いていたし、僕自身もそういう傾向があるものだと思っていた。

寄り添って泳ぐ親子クジラ

ここで少し、ザトウクジラの繁殖について触れておきたい。

ザトウクジラは世界中に棲息しているが、僕たちが国内で出会えるザトウクジラ、つまり北半球に棲息していて日本近海に回遊してくるザトウクジラに限定して話を進めようと思う。

夏の間、ロシアやアラスカ、アリューシャン列島などの冷たい海でたっぷり餌を食べて栄養を蓄えたザトウクジラは、冬になると沖縄や奄美大島、小笠原諸島などにやって来る。国内のホエールウォッチングやホエールスイムが冬季のみ、だいたい1~3月に限定されているのはそのためだ。

冬の間、ザトウクジラたちは餌も食べず、交尾や出産、子育てなどの繁殖活動に励む。雄と雌が集まれば、そこにドラマが生まれないはずがない。

戦いに敗れ一人トボトボと去っていく雄。まとわりついてくる雄達を振り払うかのように狂い飛ぶ雌。実際のところ何が起こっているのかわからないことが多いが、そんな風に色々想像させてくれるのが、ザトウクジラ観察の面白いところでもある。

ザトウクジラのひれと飛沫

ザトウクジラの妊娠期間は約1年と言われている。そのため、仮に1月から繁殖行動が盛り上がり、2月に交尾の最盛期を迎えたとすると、出産が一番多いのも2月頃だ。シーズン後半、つまり2月中旬以降に親子クジラが増えるというのは、これまでの観察記録だけでなく、こういった理屈からも説明できる。

話が少し飛んでしまったので、今年1月の奄美大島の話に戻そうと思う。

※1ホエールウォッチングやスイムでみられるクジラの群れの構成や状態にはそれぞれ名称がついている。
・シンガー…求愛行動、雄同士の交信のためなどと言われる「ソング」を歌っている雄クジラ
・ペア…雄クジラと雌クジラのペア
・メイティングポット…1頭の雌を数頭の雄が取り合っている集団

1月、シーズンの始まり
今年は多い?親子クジラ

今年は1月下旬から7日間海に出た。そのうち親子クジラと出会ったのは計5日間。1日に2組の親子を見つけた日もあったので、僕が1週間で出会った親子クジラは全部で6群だ。

これは、1月にしてはかなり多いと思う。船上でも、「今年は1月から親子が多いねー!」と、みんなで盛り上がっていた。

上下に重なり合うように泳ぐ親子クジラ

親子クジラが多ければオールOKという話ではないが、やっぱり嬉しい。来年も1月から親子がたくさんいたらいいな、なんてついつい思ってしまう。

それと同時に、「今多いってことは、逆に3月は少ないのかな…」なんて不安になったりもする。クジラのことをあれこれ想像して嬉しくなったり不安になったり、僕たちは幸せな生き物だ。

先ほどクジラの妊娠期間は約1年と書いたが、11か月という説もあるし、もちろん個体によって幅もあるだろう。しかも、繁殖・交尾の最盛期も2月とは限らないし、年によって違いがあるはずだ。最盛期がいつだろうが、シーズンのスタートと共に交尾を重ねる個体ももちろんいる。

「1月に親子クジラが多かった」と言っても、それ自体僕が短い期間、狭い区域で観察した結果であり、そもそも意味のある数字ではない。でも、クジラのことをあれこれ考えてみんなで話をする、そんな時間が楽しいというのは、少なくとも事実なのだ。

光に照らされて泳ぐ2頭のザトウクジラ

2月、母と子の物語に想いを馳せる

2月は計18日間海に出て、毎日クジラと出会うことができた。ペアやシンガー、ヒートラン(※2)など、様々なクジラたちと出会ったが、せっかくなので、このまま親子クジラの話を続けようと思う。

南の温かい海で出産した母クジラは、しばらく温かい海で子育てを続け、春になると子供を連れて北の海へ向けて旅立つ。僕たちがザトウクジラの観察中に出会う親子クジラの多くが、この「出産から旅立ち」の間の親子だ。

2月も、そんな親子と数多く出会った。

水面近くを泳ぐ親子クジラ

北の海で栄養を蓄えた親子は、水温が下がり始める秋、再び親子揃って南の温かい海に向けて旅立つ…というケースがあることは間違いないが、どの親子もそうなのかはわからない。

ザトウクジラの子供は、一般的には出産後1年以内に親離れすると言われている。
どのタイミングで、どこで親離れするかは定かではないし、おそらく個体によってかなりの違いがあるのだろう。場合によっては、親離れまで1年以上かかる個体もいるのかもしれない。

実際、奄美大島で毎年ザトウクジラを観察していると、一歳児と思われる子供を連れている母クジラをたまに見かける。毎年何度か出会っているので、それほど珍しいことではなさそうだ。なかなか親離れできない子供がいるとしたら、なんだか人間に似ていて微笑ましい。

ちなみに、一歳児と言っても、人間の一歳児とはまるで違う。船上から観察していると、母クジラと見分けがつかないほど、1年で大きく成長している。なので僕たちも、大人のペアだと思って水中に入り、初めて「あれ?」と思うのだ。

手を繋いでいるような親子クジラ

上の写真、右下に写っている2頭は親子だと思われる。この時も、船上から観察している時は「1頭のメスを2頭のオスが取り合っている」と思っていた。

しかし水中に入ってみると、どうも動きが親子っぽいのである。なかなか言葉では説明しづらいが、子供が親に甘えるような、動きがシンクロするような、親子には親子特有の動きがあるように感じている。

潜り込むクジラとその下にいるクジラ

親離れできない子供がいれば、「本当に一人で生きていけるの?」と思ってしまうような子クジラもいる。2月の中旬に出会った下の写真のクジラは、まさにそうだった。

一歳児と言うには、まだ小さすぎる気がする。体のサイズも、5m前後に見え、赤ちゃんからちょっと育ったという感じ。

それでも、真っすぐ北に向かって進んでいた。なんとか餌場にたどり着き、たっぷり栄養をとって、またこの海に帰って来て欲しい。

子クジラ

※2ヒートラン:数頭の雄が1頭の雌を奪い合いながら激しく泳いでいる状態

ザトウクジラが魅せる奄美大島ならではの光景を船上から切り取る

最後に少し、水中以外の話もしたい。

ザトウクジラは、水面でのアクションが豊富かつ激しいため、船上からのウォッチングでも十分満足できる。特に奄美大島は、船上からの撮影が楽しい。クジラの背景に写る島が、なんだかかっこいいのだ。

奄美大島の背景とクジラ

奄美大島のホエールウォッチング&スイムは、比較的島の近くでクジラを探す傾向がある。そのため、船上から撮影する際、背景に島を入れやすい。周りが360°島ということはないので、撮影に対する船長の理解と協力が重要なことはもちろんなのだが。

しかも、奄美大島はいい意味で田舎、つまり自然が豊富で、大自然の中で悠々と泳ぐクジラの姿を表現しやすい。激しいアクションでなくても、ついついカメラを向けてしまう、そんな島だ。いつまでもこの環境を残していけたらと思う。

島とブローするクジラ

4年間、奄美大島でザトウクジラのこと、ホエールスイムのことを学んできた。これからも、この島に通ってザトウクジラを撮影し、学び、皆と感動を共有したい。

ここ数年、ホエールスイムが徐々に一般的になり、奄美大島以外の様々な地域でもツアーが開催されている。それぞれの場所で、皆がお互いを尊重しあいながら、徐々にその地域の個性が出てくればいいなと思う。

僕自身、「クジラと水中で出会う」というのが、サラリーマン時代からの夢だった。初めて夢がかなった時の感動は今も忘れていない。そして毎年必ず、新たな感動がある。

もしかしたら、僕と同じような夢を抱いている方もいるかもしれない。そんな方にとって、この記事が何かのきっかけになれば嬉しく思う。

まだこの後も、ザトウクジラのシーズンは続く。シーズン終盤、各地で色々なドラマがあるだろう。

「春なんて来ないで欲しい」

そう願う僕たちは、少し変わってはいるけれど、幸せな人生を歩んでいる。

取材・撮影協力 アクアダイブコホロ

上出俊作さん
プロフィール

上出俊作

1986年東京都生まれ。2014年、かねてから抱いていた沖縄移住の夢が抑えられなくなり、沖縄本島の名護市に移住。「水中の日常を丁寧に切り取る」というテーマで、沖縄を中心に日本各地の水中を撮影。ブログ「陽だまりかくれんぼ」や写真展などのイベントを通して、水中写真と沖縄の海の魅力を発信し続けている。

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PROFILE
1986年東京都生まれ。
2014年、かねてから抱いていた沖縄移住の夢が抑えられなくなり、沖縄本島の名護市に移住。
「水中の日常を丁寧に切り取る」というテーマで、沖縄を中心に日本各地の水中を撮影。
ブログ「陽だまりかくれんぼ」や写真展などのイベントを通して、水中写真と沖縄の海の魅力を発信し続けている。