辺野古・大浦湾を潜る 米軍基地建設が進む海で出会った、奇跡のサンゴ
「生物多様性の宝庫」として知られる辺野古・大浦湾(沖縄県名護市)は、マングローブや数多くの希少なサンゴが生息し、またジュゴン生息地の北限でもあります。しかし辺野古は「世界一危険な基地」と呼ばれる米軍の普天間基地(沖縄県宜野湾市)の移設先に選ばれ、現在は新基地建設に向けた大浦湾の埋め立て工事や軟弱地盤の改良工事が進み、環境悪化の懸念も。今回は、基地建設と自然環境保護の狭間で揺れる辺野古・大浦湾の今を、ガイドや水中映像撮影などで精力的に活動する長谷川潤さんに取材・レポートしていただきました。

大浦湾「チリビシ」のアオサンゴ大群集
僕が辺野古で潜る理由(わけ)

辺野古・大浦湾の米軍基地建設現場

米軍基地建設現場を眺める環境NPOメンバー
2024年12月3日の朝。僕は今回の旅を企画してくださったNPO気候危機対策ネットワークのメンバーと一緒に、車で大浦湾の周囲を走りながら、米軍基地建設に向けた埋め立て工事の現場を見ていました。無数のフロートを繋げて作られた境界線の内側には、大小さまざまな作業船が停泊し、黙々と作業をこなしています。
自分の手が届かない政治の世界で決定がなされ、僕の普段の生活圏から遠く離れた海で着々と進んでいく工事。時折耳にする辺野古のニュースに矛盾や疑問を感じることはありましたが、野次馬の域を出るものではありませんでした。陸上から基地建設現場を眺めているこの時も、どこか非現実な遠い世界の出来事のように感じていました。
しかしその数時間後、大浦湾の海中における「あるサンゴ」との出会いが、僕の辺野古に対するスタンスを大きく変えることになるのです。
「アオサンゴ群集」との運命の出会い

白化現象に耐えながら多くの生物たちを育み続けるアオサンゴ群集①

アオサンゴ群集の間を泳ぐダイバーたち
同日の1ダイブ目にその出会いは訪れました。燦々と降り注ぐ朝の光の下、太さ1~2cmほどの棒状のサンゴ群体が無数にそそり立つ「森」の中で、多種多様な魚たちが群れ泳ぐ…。長さ50m、幅30m、高さ12mという、世界最大級の貴重なアオサンゴ群集が作り出す海中風景は、息を飲むほど荘厳で美しいものでした。このアオサンゴを昔から見続けているベテランダイバーからすると、白化現象によって弱っている姿が痛々しかったそうですが、初めて目にする僕は、環境の悪化に耐えながらもなお神々しいほどの生命力を放っているその姿に、畏敬の念を感じざるを得ませんでした。
そして、
この偉大な海の賢者のことをもっと知りたい。
この先ずっとこのアオサンゴを見守り続けたい。
そんな感情が沸々とわき上がってきたのです。
辺野古の問題が、他人事から自分事に変わったのは、まさにこの時でした。

白化現象に耐えながら多くの生物たちを育み続けるアオサンゴ群集②

アオサンゴ群集の中には、ミドリイシ科の枝サンゴなども散見される

アオサンゴ群集の中のユビエダハマサンゴとネッタイスズメダイ

アオサンゴの間を泳ぐ鮮やかなイエローのネッタイスズメダイ
このアオサンゴ群集は、ダイビングサービスが併設されているホテル「カヌチャリゾート」からボートで3分ほどのダイビングポイント「チリビシ」の一角にあり、大浦湾でエコツアーを開催している「じゅごんの里」代表の東恩納琢磨さんらによって2007年に発見されました。人気ダイビングポイントの中にあるこれほどの巨大群集が、割と最近まで人に知られていなかったことは驚きですが、地元の漁師さんにはその存在が古くから知られていたのだそうです。
ただ、このアオサンゴは、かの有名な石垣島・白保のアオサンゴなどとは似ても似つかない外見をしているため、その希少性・重要性に気付く人がいなかったとのこと。大浦湾には実に約5300種もの生物が生息しており、サンゴだけでも約400種が確認されています。「珍しい生物がいることが珍しくない」という大浦湾の豊かな生物多様性が、結果的にアオサンゴ群集の発見を遅らせてしまったのかもしれません。
動画:アオサンゴの森をゆく December 3, 2024 沖縄 辺野古・大浦湾