伊豆の春に現れる「海藻の森」を潜る|平沢・大瀬崎で見るガラモ場と磯焼け問題
春から初夏にかけて伊豆の海の浅場を覆いつくす「海藻の森」。西伊豆の人気ダイビングポイント「平沢」と「大瀬崎」に出現した海藻の森を、ガイドや水中映像撮影などで精力的に活動する長谷川潤さんに取材・レポートしていただきました。海や陸の適切な環境を維持するために海藻が担っている役割や、海藻が消失する現象「磯焼け」についての解説もあり!

海藻の森で潜るスキンダイビングツアーのゲスト(2026年5月17日 平沢)
はじめに
ここ数年、環境問題に関するニュースなどで取り上げられることが多くなった海藻。世界各地で、気候危機(地球温暖化)が原因と考えられる海藻の大規模な減少が確認されており、これにより、自然環境に対して海藻が担う役割の大きさがあらためて注目されているのです。海藻の群落である「藻場」が急激に消失していく現象をあらわす「磯焼け」という用語も、ここ数年でだいぶ一般に知られるようになりました。しかし、そんな状況もなんのその!西伊豆では海藻が繁茂し、海中に見事な「森」が出現していたのです!!
この記事では、人気ダイビングポイント「平沢」と「大瀬崎」で撮影した写真と動画をふんだんに使って海藻の森の魅力をお伝えしつつ、自然環境における海藻の役割や磯焼けのメカニズム、そしてなぜ海藻の森が磯焼けの影響を受けないのか(正確には「受けていないように見えるのか」)、について解説したいと思います。
海藻の森「ガラモ場」、その役割とは?

マメタワラの森で泳ぐムツの群れ(2026年5月17日 平沢)
高密度に茂った海藻の間を縫うように魚の大群が泳ぎ抜けていく…そんな光景が延々と続く西伊豆・平沢の海。この海藻は「マメタワラ(豆俵)」というホンダワラ科に属する海藻の一種で、日本沿岸の代表的な大型海藻の一つです。
通常1~2m程度まで成長し、枝分かれが多く、球形の気胞(浮き袋)を持ちます。これが「豆」のように見えることからこの名前が付いたそうです。岩礁に付着して生育し、「ガラモ場」と呼ばれる海藻の森を形成します。

マメタワラの森で泳ぐメバルの幼魚(2026年5月24日 大瀬崎)
この「ガラモ場」は、多くの魚や甲殻類(エビ・カニの仲間)の隠れ家・産卵場として重要な役割を果たしています。マメタワラを含むホンダワラ科の森は、アワビやサザエ、魚の子どもたちの生育場所―いわゆる「海のゆりかご」であり、沿岸生態系を支える重要な場所なのです。
そして、ガラモ場を含む海藻藻場は、他にも次のような重要な役割を担っています。
海水中の二酸化炭素を吸収して気候危機(地球温暖化)を抑止
海藻は植物なので、「光合成」を行い、海中のCO2(二酸化炭素)を吸収し、生物が生きていくのに必要な酸素を海中に供給します。このため気候危機(地球温暖化)を食い止める役割を持っていると言えます。藻場を中心としたこのような生態系は「ブルーカーボン生態系」と呼ばれています。
水をきれいにする
海藻は、自身が生きて行くために必要な塩分を取るために海水を吸収し、その海水をきれいにして放出するため、水質浄化の役割を担っていると考えられています。
海藻藻場は、このように海や陸の環境を良い状態に保つために重要な役割を担っていて、海の生物たちにとっても、人間の暮らしにとっても、なくてはならない存在なのです。
この先は、僕が平沢と大瀬崎で見てきた素敵な「森」の風景を、写真と動画でお楽しみください!
西伊豆・平沢の「海藻の森」
平沢(静岡県沼津市)は、駿河湾の最奥部に近い内浦湾の沿岸にあります。湾の奥にあるため外洋のうねりの影響を受けにくく、穏やかなダイビングスポットとして知られています。

エントリー口(船着き場)付近に群れるムツの幼魚(2026年5月17日 平沢)
ダイビングボートの発着場になっている浮桟橋から海中にエントリーすると、海藻が刈り取られた船の通路の全体に、細長くて茶色っぽい魚・ムツ(幼魚)が大群をなしていました。

ムツ(幼魚)の群れ(2026年5月17日 平沢)

あたり一面ムツ(幼魚)だらけ!(2026年5月17日 平沢)
平沢はとにかくムツが多い!
ムツの成魚は70cmにもなる大型魚で、重要な食用魚でもあります。幼少期は浅瀬の岩礁域や藻場で群れて暮らしますが、成長すると深場(50~500m)に移動します。平沢の海藻の森は、ムツの子どもたちの保育園的な役割を担っているようです。ちなみに次章で紹介する大瀬崎では、ムツは1匹も見られませんでした。

ボラ(2026年5月17日 平沢)
平沢では、体長60センチほどの大きなボラもよく見かけました。ボラたちは特定の場所をぐるぐる回って泳いでいるように見えました。ボラたちに、この場所がお気に入りの理由を聞いてみたい気がしました。

海藻の先端部分に集まるドロメの幼魚(2026年5月17日 平沢)
海面に浮いて折れ曲がっているマメタワラの先端部分を見ると、もじゃもじゃした海藻の中に、縞模様のある体長2センチほどの細長い魚が群れているのが見えます。ハゼ科の魚「ドロメ」の幼魚です。
ちなみに成魚は約8~12センチ。幼魚はこのように水面近くに群れて暮らしていますが、成魚になると浅い海の底で単独で生活するようになります。
「平沢編」のラストは、まとめの動画をお楽しみください!動画後半に出てくる海藻「アントクメ」については、「磯焼けと海藻の森について」の章でご説明いたします。
西伊豆・大瀬崎の「海藻の森」
大瀬崎(静岡県沼津市)は、初心者から上級者まで楽しめる大人気のダイビングスポット。「湾内」「外海」「先端」の3つのポイントがあり、「湾内」では穏やかな環境で生物観察を楽しみ、「外海」や「先端」では迫力ある大物や群れに会うことができます。また、日本一深い湾である駿河湾(最大深度2,500m)に面しているため、深海の珍しい生物に出会う可能性もあります。

「カケアガリ」で群れるキンギョハナダイ(2026年5月24日 大瀬崎)
大瀬崎の海藻の森は、「湾内」の浅場と砂地の間にある、「カケアガリ」と呼ばれるゆるやかな海の石垣の近くに繁茂しています。カケアガリには様々な種類の魚が群れていて、色鮮やかなキンギョハナダイも見られました。

ネンブツダイ(2026年5月24日 大瀬崎)

ネンブツダイ(2026年5月24日 大瀬崎)
大瀬崎の海藻の森は、平沢と同じマメタワラのガラモ場です。「森」の中でまず出会ったのはネンブツダイ。海藻の上に群れていたり、隙間に入り込んでいたり…いたるところで目につきます。

メバル(幼魚)(2026年5月24日 大瀬崎)
海藻の森への依存度が最も高そうなのがメバルの幼魚たち。前述のキンギョハナダイやネンブツダイ、後述のスズメダイやタカベは、海藻の森が無い時期にも同じ場所に定住していますが、このサイズのメバルの幼魚は、他の季節には見られない気がします。

ミズホハタンポ(幼魚)の群れ(2026年5月24日 大瀬崎)
海藻がびっしり付着したガイドロープの下には、夜行性のミズホハタンポと思われる魚の幼魚が群れていました。メバルの幼魚も混ざって泳いでいます。

ネンブツダイとスズメダイ(2026年5月24日 大瀬崎)

タカベ(幼魚)の群れ(2026年5月24日 大瀬崎)
スズメダイや体長10センチほどのタカベの幼魚もたくさん群れていました。これらの魚は海藻がない時期にもカケアガリの周囲で群れているので、海藻の森の住民、というわけではなさそうですが、タカベのサイズは普段見るよりも若干小さいような気がしています。
「大瀬崎編」も、ラストはまとめの動画をお楽しみください!
磯焼けと海藻の森について
磯焼けって何?
さて、ここで昨今話題になっている「磯焼け」について解説したいと思います。
磯焼けとは、本来は海藻が豊富に生えている岩礁域で、大型海藻(コンブ、カジメなど)が著しく減少または消失し、海が「砂漠化」する現象です。日本では年間約2,000ha(東京ドーム427個分!)もの藻場が消失していると言われています。

江の島の海藻藻場(2010年撮影/撮影:武本匡弘)

江の島の海藻藻場(2023年撮影/撮影:武本匡弘)
上の写真をご覧ください。どちらも江の島(神奈川県藤沢市)の同じ地点で撮影された写真です。
2010年に撮影された写真では、「カジメ」という茎の長い褐色の海藻が繁茂していますが、2023年に撮影された写真には、カジメはまったく写っていません。江の島など神奈川の海では、ここ20年ほどで磯焼けが急速に進んでしまっていることが分かります。
では磯焼けは、何が原因で引き起こされるのでしょうか?主な原因は以下の5つが考えられています
ウニによる食害
ムラサキウニ、エゾムラサキウニ、ガンガゼなどが海藻を食べ尽くしてしまいます。気候危機(地球温暖化)によって冬の海水温が上昇し、ウニが冬になっても活発に活動するようになったことが主な原因と考えられています。北海道の磯焼けは、ウニによる食害が最大の理由と考えられています。

ムラサキウニ

ガンガゼ
魚による食害
アイゴ、ブダイ、イスズミ、クロダイなど、植物を主食とする魚が海藻を食べ尽くしてしまいます。気候危機(地球温暖化)によって冬の海水温が上昇し、魚が冬になっても活発に活動するようになったことが主な原因と考えられています。神奈川や伊豆の磯焼けは、ウニよりも魚の食害の影響が大きいと考えられています。

アイゴ

ブダイ

イスズミ

クロダイ
海水温の上昇
気候危機(地球温暖化)による海水温の上昇や海流の変化、それに伴う台風の増加などで海水温が上昇し、海藻が生育するのに適さない環境に変化してしまうことも原因の一つと考えられています。
川の水や砂泥の流入
砂泥の流入で海水が濁ってしまい、光が不足することによって海藻の光合成が不活発になり、海藻の生育を妨げることも原因の一つと考えられています。
栄養塩の不足
川から海に流れ込む栄養塩(硝酸塩、アンモニウム塩、リン酸塩など)が、河川の水質改善などによって減少し、海藻が栄養不足になることも原因の一つと考えられています。

北海道・積丹半島の磯焼け(撮影:2025年9月3日 北海道・積丹町)
こちらは2025年秋に僕が北海道の積丹半島で撮影した磯焼けの写真です。
行けども行けども目に入るのは、白っぽい岩に付着する、おびただしい数のエゾムラサキウニとイトマキヒトデのみ。岩が白っぽくなっているのは、岩が「石灰藻」という石のように固い海藻に覆われているためです。このような「海の砂漠」が、積丹半島沿岸の全域で普通に見られるようになってしまっているのです。
そして、これらのウニは栄養不足の状態で身が薄く売り物にはならないため、漁師さんが採取することもありません。その上ウニは飢餓に強く数ヶ月餌を食べなくても死なないため、ウニが際限なく増え続けてしまっているのだそうです。

エゾムラサキウニとイトマキヒトデ(撮影:2025年9月3日 北海道・積丹町)
ちなみに北海道の磯焼けは、伊豆や神奈川県よりもはるかに早い時期から始まっていて、1960年代後半〜1970年代ごろから積丹半島で磯焼けが顕在化し、2000年の前にはウニがコンブをほぼ食べつくしてしまって、現在のような海中風景になってしまっていたようです。
海藻の森は磯焼けの影響を受けないの?
これまで見てきたように、北海道では数十年前から磯焼けが始まっていて、関東の海でも磯焼けが急速に進行しています。でも、平沢や大瀬崎では、うっそうと茂る海藻の森が出現しています。これは何故なのか、考えてみたいと思います。

アントクメ(2026年5月17日 平沢)
まず、海藻の磯焼けへの耐性は、海藻の種類によって大きく異なります。磯焼け耐性は、食害への強さ、生活年限、成長する時期、高水温への耐性など複数の要因で評価できると考えられています。伊豆で見られる(あるいはかつて見られた)代表的な3種類の大型海藻の一般的な傾向をまとめると、次のようになります。
| 項目 | カジメ | アントクメ | マメタワラ |
|---|---|---|---|
| 分類 | コンブ目 コンブ科 |
コンブ目 コンブ科 |
ヒバマタ目 ホンダワラ科 |
| 主な生育水深 | 5~20 m程度 | 1~10 m程度 | 潮間帯下部~5 m程度 |
| 生活年限 | 多年草 | 多年草 | 一年草 |
| 成長する時期 | 通年(特に春〜初夏) | 通年(特に春〜初夏) | 冬〜春 |
| 磯焼けへの総合耐性 | 低い | 中~やや高い | 高い |
| 高水温への耐性 | 低い~中程度 | 中程度 | 比較的高い |
| アイゴなど魚類の食害への耐性 | 低い | 中程度 | 中~やや高い |
| ウニ食害への耐性 | 低い | 中程度 | 中程度 |
| 成長速度 | やや遅い | 中程度 | 速い |
| 攪乱後の回復力 | 低い | 中程度 | 高い |
3種の中で磯焼けへの総合耐性が「低い」とされたカジメは、かつて冬になると伊豆のどこの海でも大規模な藻場が見られていましたが、今ではほとんど見ることがなくなりました。「中~やや高い」とされたアントクメは、以前は冬から春にかけて岩肌が見えなくなるほど繁茂していました。今では大規模な藻場を見る機会は少なくなりましたが、平沢では上記写真のように、まだその姿を見ることができました。
これに対してマメタワラの磯焼け耐性は「高い」と評価され、実際に海藻の森が繁茂している理由が裏付けられました。

ちぎれて「流れ藻」となったマメタワラ(2026年5月24日 大瀬崎)
さらに少し補足すると、マメタワラは、水温が下がって海藻を食べる魚やウニの活動が最も鈍る冬から春にかけて成長するため、これらの生物の食害の影響を受けにくく、また一年草であるため毎年大量の胞子を放出し、多数の幼体が発生して群落を再形成するため、何かの要因で藻場が減少しても、次の年には何ごともなかったかのように海藻の森を作ることが出来るのだそうです。
ではマメタワラの海藻の森は磯焼けとは無縁なのかというと、決してそんなことはありません。
今年や昨年は、伊豆で冬の海水温がしっかり下がったため見事な海藻の森を楽しむことが出来ましたが、主に黒潮の蛇行の影響で冬の海水温が高かった数年前は、海藻の森が大きく育たなかったこともありました。
また現在の西伊豆では、海藻の森は大体7月くらいには消滅してしまいますが、もっと水温が低かった昔は、8~9月頃まで森が残っていた、という話を聞いたことがあります。
つまり、今後も気候危機(地球温暖化)などによって海水温の上昇が続けば、マメタワラの森も衰退あるいは消滅してしまう可能性があるのです。
まとめ

海藻の森で記念写真!(2026年5月17日 平沢)
先日、民放のとあるバラエティ番組で、僕が以前撮影した「海藻の森」の動画が紹介されました。この番組は、磯焼けによる海藻の減少を食い止めるために新しい海藻の養殖方法や食べ方を開発・提案しているベンチャー企業の取り組みを紹介する、という内容。磯焼けの問題を、「海藻グルメ」の話題を絡めるなど視聴者に受け入れてもらいやすい形で紹介する番組構成は、なかなか良いと感じました。
一方でモヤモヤした気持ちも残りました。日本近海に生息する約1500種類の海藻のうち、食用としての価値があるのはほんの数十種類。しかし食用価値が低い海藻も、生態系の中では重要な役割を担っていて、また気候危機(地球温暖化)を抑えるブルーカーボン(CO2吸収源)としての価値も高いのです。
食用価値が高い海藻は養殖技術や保全活動によって生き残ることが出来るかもしれませんが、それ以外の大多数の海藻については、磯焼けに対して有効な保全手段が無い、というのが現状です。これから更に加速していくと思われる磯焼けから、海藻や海の自然環境をどのようにして守って行けば良いのか…海から大きな喜びをもらっている僕らダイバーも、本気で知恵を絞って考え、行動すべき時期に来ていると思います。
マメタワラの海藻の森については、今後も継続的にウオッチし続けて、皆で楽しみながらも、海の環境変化の兆候を見逃さないようにしたいと思います。そして余談ですが、マメタワラは市場には出回ってはいませんが、同じホンダワラ科の「アカモク」と同じような方法で食べられるそうです!機会があったら一度食べてみたい(笑)。




