徳之島でオンライン会議をしながらホエールスイムにチャレンジしたら大当たりした話

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鹿児島県は奄美群島に属する徳之島(とくのしま)。2021年に奄美大島、沖縄県北部とともに世界自然遺産に認定されたこの徳之島近海では、毎年12〜3月にかけて野生のザトウクジラを見ることができる。夏場にロシアやアラスカなど寒い海で餌を食べ栄養を蓄えたザトウクジラたちは、繁殖のために南西諸島や小笠原諸島周辺の温かい海にやってくるのだ。

このクジラをひと目見ようと、ホエールスイムにチャレンジしてきた。半日という短い時間、荒れ気味の海、そしてオンライン会議という決して良い条件とはいえないホエールスイムだったが、親子クジラに会うことに成功!その一部始終をお届けしたい。

なぜホエールスイムとオンライン会議

私が徳之島に訪れたのは2月半ば。水中カメラマンで水中探検家の広部俊明氏と沖縄本島北部の本部港からフェリーに7時間半揺られ徳之島へ。もともと別の取材目的で5日間滞在の予定だったのだが、帰りのフェリーが時化で徳之島に寄港できず延泊をすることに。1日延泊で帰ろうにも、帰る予定だった次の日からオンライン会議の予定を詰めていたため、フェリーでの移動を避けなければならず、結局追加で5日間の延泊を決意。ただ、せっかく徳之島にいるのだからもう少しネタを拾って帰りたい。そんな思いからなんとかオンライン会議の合間を縫ってホエールスイムに参加したのが背景だ。スケジュール的に参加できそうなのは1日半。しかし1日はまたまた時化でホエール船が出ず、たった半日のホエールスイム参加となったのだ。果たしてクジラは見られるのか。

徳之島行きのフェリー

徳之島行きのフェリー

ここで一度ホエールスイムの流れをご説明しよう。取材をさせていただいた徳之島で唯一ホエール船を出している「マリンサービス海夢居(かむい)」では、ホエールサーチクルーズといって、まずクルーザー上からクジラを探す。そこで見つけたクジラの性格や出会った時の状況など一定の条件が揃い、船長の鈴木竜爾(りゅうじ)氏からOKが出たら、海に入ってクジラを観察する。クジラが見えなくなったら船に上がりまた探し、海に入る。これを繰り返すのだ。

マリンサービス海夢居 鈴木船長

マリンサービス海夢居 鈴木船長

なので、「1時間くらいあれば、会議が終わる頃にちょうどクジラも見つかってスイムできるだろうし、最高のスケジュールじゃん!」と安易に考えた私はオンライン会議とホエールスイムの両立を決行したのだ。

ホエールスイムとオンライン会議本番
濃い半日の始まり

ホエールスイムの当日は少々海が荒れており、クジラを探せる範囲は限られるが、前日の雨から天気は回復し視界は良好だ。8:30に島の南に位置する面縄(おもなわ)漁港に集合し、鈴木氏からブリーフィングを受けて乗船するとちょうど会議が始まる時間となったので、ウエットスーツ姿で船室で一人オンライン会議に参加。電波もまったく問題なく、スムーズに進む。

スマホをイヤホンで繋ぎながらウエットスーツに着替える

スマホをイヤホンで繋ぎながらウエットスーツに着替える

しかし30分ほど経ったあたりだろうか、船室の外が急に騒がしくなる。「クジラ出ている!」と船室に広部氏が呼びにくる。鈴木氏もマイクを使ってクジラのいる方向や様子を実況する。こうなるともう会議どころではない。

船室を飛び出しスマホのカメラをクジラのいる方向に向け、会議が一転、ホエールウォッチングのライブ配信へと早変わり。オーシャナ社員一同、オンラインホエールウォッチングにワクワクだ。徐々に近づき、水面にクジラの姿やブローが見える。そして1度目のスイムOKの合図。私は海に入りたい気持ちを抑え、「まだこのあとチャンスはある」とスイマーを見送り会議へと戻った。

クジラのブロー

クジラのブロー

会議のみで終わる可能性?
都合よくはいかない海況

上がってきたスイマーたちの楽しそうな姿を避けるように、船室でスマホを見つめ会議に集中する。そしてまた10分ほど経った頃だろうか、2度目のスイムのチャンスが近づく。「まだ会議終わってない…でも2回目だしこの後もチャンスはあるはず…」そう考えていたところ、「海が荒れているし、少し早めに帰港するかも」ということを耳にした。

「もしかして、スイムできずに終わる可能性もある…?」

そんなのは嫌だ

そんなのは嫌だ

そうなるとただホエール船で会議に参加しただけの人になってしまう。それでは終われないと思い、「クジラ出そうなのでちょっと抜けます!」とチャットを送り、返事がきたのを確認し、スマホを船室に置きスイムへ。器材を装着し、はやる気持ちを抑え鈴木氏の指示に従いスタッフの朝田氏、さやか氏の後に続いてゆっくり入水した。

ザトウクジラとの出会い
水中の長い長い一瞬

しばらくクジラがどこにいるかわからず辺りをぐるぐる見回していたが、真下に大きな影が。ザトウクジラが10mほど下をゆっくりと泳いでいる。興奮してよくわからなかったが子クジラも隣を泳いでいたよう。見ていた時間はおそらく5分もなかっただろうが、初めて近くで見る大きなその生き物の姿に圧倒され、まるで時が止まっているかのように感じた。

ザトウクジラの親子

やがてクジラは水中に吸い込まれ、顔を水面からあげると船に上がるように指示が。船に上がりしばらく余韻に浸りたかったが、息つく暇もなくスマホを手に取りイヤホンを装着し、何食わぬ顔で会議に再度参加する。会議も終盤。最後の議題が終わり退出前に「クジラ見られました!」と報告し無事に会議を終えた。さあここからが本番。

こうなってからがすごかった。クジラも私の会議が終わるのを心待ちにしていたのか、3回目のスイムが終わると、子クジラが何度もジャンプする姿が船の上から見えた。ブリーチングと呼ばれる大ジャンプだ。母クジラは子クジラの少し後ろを泳いでおり、どうやら見守っているようだった。

ザトウクジラのブリーチング

鈴木氏がクジラの近くまで船を寄せる。お客様に満足のいくホエールスイムを提供できるように、納得がいくまで練習したというその腕は確かなものだ。鈴木氏の合図で飛び込み、さやか氏の向かう方向についていくとすぐに親子クジラが現れた。子クジラはちょうどジャンプから着水したところで、私たちの目の前で体をくねらせ母クジラとともに目の前を通り過ぎていった。

飛び込むクジラ

瞬きをするのも忘れるほどの衝撃とはこういうことかと実感した。

クジラの姿が見えなくなり、水面でみんなでガッツポーズをした時の喜びは一生忘れられないだろう。また、この時エントリー直前に手に持っていたカメラが「メモリーカードの速度が低下している」という表示とともに動作が止まり、撮影ができなかったことも一生忘れられないだろう…。

この後はさらにもう一度スイムを行い、ホエールスイムを終了。港に戻ってもまだお昼前という短い時間だったが、半日とは思えないほどの濃い時間となった。

去っていくクジラも美しい

去っていくクジラも美しい

自然界で、必ずしも見られるわけではないクジラに出会い、パフォーマンスまで見られたのは幸運なことだ。やはり日頃の行いが伝わったのだろう。鈴木氏によると、スイムの際に全員がマナーを守ってクジラを追いかけなかったのも良かったのではないかとのこと。ただ一つ、ホエールスイムとオンライン会議を両立させた上でお伝えしたいのは、「酔い止めは必須」ということだ。このスペシャルな出会いは、自分にもクジラにもストレスフリーでこそ最高に楽しめるはずだ。

取材協力:WHALE ADVENTURE by マリンサービス海夢居
写真提供:広部俊明、マリンサービス海夢居
今回のホエールスイムのレポートは、YouTubeチャンネル「水中探検家広部俊明のWater Wolrd」でも公開予定なのでお楽しみに!
▶︎水中探検家広部俊明のWater Wolrd

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PROFILE
IT企業でSaaS営業、導入コンサル、マーケティングのキャリアを積む。その一方、趣味だったダイビングの楽しみ方を広げる仕組みが作れないかと、オーシャナに自己PR文を送り付けたところ、現社長と当時の編集長からお声がけいただき、2018年に異業種から華麗に転職。
営業として全国を飛び回り、現在は自身で執筆も行う。2020年6月より地域おこし企業人として沖縄県・恩納村役場へ駐在。環境に優しいダイビングの国際基準「Green Fins」の導入推進を担当している。休みの日もスキューバダイビングやスキンダイビングに時間を費やす海狂い。
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