ナンヨウマンタ? それとも、リーフオニイトマキエイ?

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皆さんは「サバヒー」という魚をご存じだろうか。
竹富南の海中でガイドさんにこの魚を紹介されたとき、パパもんは、思わず「で、和名は何ですか」と聞いてしまった。

サバヒーって、てっきり「グルクン」だとか「イラブチャー」みたいな沖縄名だと思ったからだが、実は図鑑にも堂々と「サバヒー」で掲載されている、れっきとした和名なのだ。
(正確にはネズミギス目サバヒー亜科サバヒー科サバヒー属サバヒー。しつこいくらいにサバヒーだね。)

しかしこのサバヒー、実は日本語でもないらしい。
Wikiによると、もともとは閩南語、つまり中国福建省南部の言葉で、この魚の両目が脂肪性の膜で覆われていることに由来する「塞目魚(閩南語でサバヒーと発音する)」から転じたものだそうだ。

と、ここまでの話は前振りである。

2008年にアンドレア・マーシャルを中心とするオーストラリアの海洋生物研究者たちが、これまでオニイトマキエイ(学名 Manta birostris、通称マンタ)と呼ばれてきた魚に、実は2種が混在していると学会で発表した
従来からの学名 Manta birostris は、石垣の「マンタスクランブル」などで普通に見られるマンタと異なる、より大型の種であることが判明したのである。

その結果、学名 Manta birostris と Manta alfredi に正式に分けられることになった。

英語では前者にGiant Manta Ray、後者にReef Manta Rayという呼称が与えられ、それが普及してきているようである。
その結果、沖縄あたりで見られ、日本の水族館で飼われている「マンタ」は、新しい学名の Manta alfredi に分類が移動したのだが、問題はその標準和名である。

長らくこの研究に従事してきた研究者たちが論文のなかで
「リーフオニイトマキエイ」という呼称を提案したにもかかわらず、
国内で「マンタ」を飼育する沖縄の美ら海水族館と大阪の海遊館、
東京のエプソン品川アクアスタジアムの三水族館は協議の末、
勝手に「ナンヨウマンタ」という和名をつけてしまったのである。

■2種の見分け方については「スキューバダイビング.jp」(当時)に詳しい
オニイトマキエイとナンヨウマンタの違い・見分け方 | オーシャナ

「リーフオニイトマキエイ」と「ナンヨウマンタ」の二つともが標準和名として提案されているのだから、「イラブチャー」と「ブダイ」というわけにはいかない。

常識的に考えてパパもんはこう思う。

1) 水族館側の方が後出しジャンケンなのは明らか
2) 英名として定着しつつあるReef Manta Rayとの親和性も高いのであるから、
「リーフオニイトマキエイ」の方に分がある

「リーフ」という言葉も、外来語ではあるがもはや日本語に定着した語だし、少なくとも水族館側が主張しているような「ナンヨウマンタ」の名前に「サンゴ礁の島嶼地域を意味する『南洋』をあてた」なんてデタラメな説明よりまともだ。

そんな意味など、どの辞書にも載っていないし、何よりもこの「南洋」という表現には、ある種の植民地主義的な蔑視の臭いがする。

しかし学術論文など限られた人しか読まないのに対して、水族館には毎日のように多くの人が訪れ、そこで掲げられている表示名の影響力は甚大だ。
実際にパパもんが会ったことのあるダイバーさんの多くが「ナンヨウマンタ」の方を使っているように思う。

こうした混乱を避けるためにも、日本魚類学会は魚類の新標準和名候補名の公表前流布行為の抑制に関する提言を行っているのだが、オーストラリアの研究者、柏木先生にも確認してみた。

柏木先生は2007年にパパもんが与那国で撮影しYou Tubeにアップしていたマンタの映像を見て、「これは石垣なんかにいるものと異なる、より大型の外洋性で低温耐性も高いオニイトマキエイ“Manta birostris”に間違いない」と連絡を下さり、論文中でも小笠原以外では日本でも稀な目撃例として紹介してくださった方だ。

柏木先生の説明では学名の場合には先取権の原則があるものの、\r\n和名には規約がなく、「標準和名は誰が決定するのか」という問いに答えがないそうである。

となると最終決着はすべての図鑑やガイドブックが究極の権威としてよりどころとする『日本産魚類検索 全種の同定』の改訂版がどちらを採用するかにかかってくる

それまでのあいだはこの二つの「標準和名」が併存することになるが、政治学者でもあるパパもん、この問題は「ミャンマー」か「ビルマ」かという問題にちょっと似ているように感じる。

かつてはこのどちらの国名を用いるかということが、\r\nその人の政治的立ち位置を表示するリトマス試験紙的な役割をもっていた。
軍事独裁政権など断じて認めないという立場の人は、彼らが何と言おうと「ミャンマー」という呼称を使わず「ビルマ」と言い続けたものである。

いまだにログブックに「マンタ2枚」とか書き続けている意識の低いパパもんであるが、これからは反省して、「リーフオニイトマキエイ2匹」としっかりと記すことにしたいと思う。

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