メタリコンスチールタンクがサイドマウントに不向きな理由とは

サイドマウントでのダイビング(提供:石井隆)

11月になりました。
日が短くなり、朝も冷え込みますね。
だんだん海の水温と気温が逆転してきました。

11月といえば感謝。
アメリカではサンクスギビングデー、日本では勤労感謝の日。

良く似ていますが内容は微妙に異なるようです。
サンクスギビングデーは収穫に感謝する日、勤労感謝の日は勤労と生産を国民で感謝する日。

どちらかにバレンタインデーでチョコを貰った感謝は含まれるのでしょうか?
来年は感謝したいです!

スチールタンクとサイドマウントダイビング

さて、今回は具体的なサイドマウントダイビングの楽しみ方として、日本で潜る際、無視する事のできないメタリコン処理されたスチールタンクでの潜り方をお話いたします。

まず始めに、タンクの違いについて復習しておきましょう。

日本では主にアルミタンクとスチールタンクの2種類のタンクがあります。
そして、スチールタンクはメタリコン処理が施されている/いないの2種類があります。

メタリコン処理とは亜鉛を溶射し、表面の耐久性を向上させたものです。
よく表面がグレーになったスチールタンクを目にする事が多いと思います。

他にも、メタリコン処理をしていないタンク(獅子浜やIOPで目にするfaberと書かれたタンクです)もありますが、ここではメタリコン処理のタンクで話を進めたいと思いますね。

まず、アルミタンクはタンク自体の重さは空気容量を同じとした場合、スチールタンクよりも重いです。
ですが、アルミ合金の方がスチール(鉄)よりも比重が軽いため、水中では軽くなります。

そのため、空気を消費すると、空気の比重が軽くなり、スチールタンクでは全体の比重が空気の消費分よりも重いため、タンク自体の浮力の変化はありません。

ところが、アルミタンクは空気の比重が軽くなると、アルミタンク全体の比重を超えてしまうため、タンク自体がプラス浮力に変化します。

よく、アルミタンクを使った時にダイビング後半浮き気味になると思います。
それは充填された空気量の減少により、アルミタンクの比重が軽くなるからです。

スチールタンクとメタリコン塗装されたスチールタンク(提供:石井隆)

そして水中でも軽い、という特性がサイドマウントにアルミタンクが適している理由です。

ではスチールタンクはどうでしょうか?

先にもいいましたが、空気が消費されても、タンクの比重が重いため、浮力の変化はありません。
そして水中の比重もさほど変化なく、重く感じるでしょう。

この水中での比重変化が少ないのがスチールタンクの特徴です。
そして、この重いタンクをコントロールする事がサイドマウントダイビングでの重要な課題となりうるのです。

メタリコンスチールタンクでの潜り方

では、実際にどのようにスチールタンクをコントロールすれば良いのでしょうか?

まず、スチールタンクのメリットとして浮力の変化がありません。
そのため、タンクは常にマイナス浮力です。
そこで、腰のDリングの位置かお尻のプレートの位置を最初に調整します。

そして、タンク下部に止めるクリップの位置も調整が必要です。
クリップの長さもとても重要。
アルミタンクに比べてスチールタンクは短いです。

適切な位置にタンクバンドを巻こうとしても、タンク本体に巻けない場合があります。
私はスチールタンクのタンクブーツにキツめにタンクバンドを巻き付け、バルブからクリップの位置がアルミタンクと変わらぬようにアレンジしています。

また、タンクを留めるバンジー(ゴム紐)の強度も変えなければなりません。
水中での比重はアルミタンクよりも重いです(正確にはアルミタンクよりも浮力がありません)。

タンク上部は胸元に、タンク下部は腰にくるように調整します。
もちろん、タンクは可能な限りダイバーと水平になるようにします。
これらのコンフィグ(器材構成)を作る事によって、スチールタンクでもサイドマウントダイビングが可能になります。

ただ、ここで注意してもらいたいのは、BCの浮力です。
もともとアルミタンク使用を前提で作られているBCが多いからです。

そのため、日本特有のメタリコンスチールタンクのダブルに対して、十分な浮力を確保できていないBCもあります。
そこはまず、自分が使用するBCの浮力を確認しましょう。

サイドマウントでのダイビング(提供:石井隆)

適切なコンフィグと適切な浮力の確保、ウエイトバランス、姿勢の維持等をコントロールできればメタリコンスチールでも十分にサイドマウントを楽しむ事ができます。

メタリコンなら無理してサイドマウントで潜る必要はない

では、シングルタンクの場合はどうでしょうか?

アルミタンクであれば問題なかったウエイトバランスも、メタリコンスチールだととても厄介です。

何もしなければ、タンクを抱えている左側に身体が傾くでしょう。
そのため、タンク装着の反対側(通常は右側)にバランスを取る為にウエイトを装着しなければなりません。

例えば、メタリコンスチール10Lの場合、6kgは反対側に着けなければなりません。
12Lの場合は8kgは必要でしょう。

ドライスーツであればまだマシですが、これがウエットスーツだととんでもないオーバーウエイトになります。
(私の場合、フォースエレメントの5mmのウエットスーツだと2kgなので、4kg以上のオーバーウエイトになります!)

正直な話、ウエットスーツを着て、メタリコンスチールで潜る事はお勧めできません。

私は真鶴や伊豆の色んな場所をメタリコンスチールで潜ってみました。
江の浦、福浦、北川、井田、雲見などなど。
東北は宮城でも潜りました。

ドライスーツであればさほど問題はありませんが、ウエットスーツでは、バランス等で苦労しました。
タンクに浮力体を取り付けたりもしました。

例えば、お風呂に使うマットを切ってタンクバンドで留めたり、ランニング等で使用するキャメルバックにダンプバルブを付け、それをバンジーでタンクに留めたりもしました。

いろんな方法を試しましたが、どれもコンフィグやダイビングそのものを複雑にしてしまい、あまりお勧めできません。

サイドマウントでのダイビング(提供:石井隆)

いろんな苦労をしてきて気づいた事は「別にサイドマウントでなくても良いのでは」と当連載を真っ向から否定するような結論に至ったのです(笑)。

つまり、ドライスーツであればサイドマウントのメリットを生かしてシングルタンクでも楽しむ事ができます。

ですが、ウエットスーツだと、オーバーウエイトになり、ウエイト調整やバランスがとてもシビアになります。

特にオーバーウエイトはサイドマウントの楽しみもそうですが、それよりも浮力の確保の問題につながる恐れもあります。

サイドマウントのメリットも生かせますが、別のデメリットも発生します。
そこで考える必要があるのです。
このダイビングを安全に楽しむための選択とは、と。

海や装備によってサイドマウントを楽しもう

サイドマウントは熟練すればする程快適になり、とても楽しいダイビングです。
ですが、万能ではありません。
すべてのダイビングに変わり得るものではないのです。

そこで以前もお話ししましたが、すべてダイバー自身の選択となります。

例えば、ウエットスーツのシーズンは富戸のようにアルミタンクが使える場所ならサイドマウントで。

江の浦で潜るなら通常のBC(バックマウント)で、というようにポイントや季節で変えても良いと思います。

サイドマウントを始めたからといって、すべてのダイビングをサイドマウントで潜る必要も義務もありません。
自分にあった楽しみ方で良いと思っています。

ちなみにメタリコン処理がされていないスチールタンクはメタリコンスチールタンクよりも扱いは楽です。

メタリコンスチールタンクよりは浮力があり、アルミタンクより浮力はありません。
タンクの反対側に着けるウエイトは2kgですみます。

ただ、アルミタンク同様、残圧に対する浮力の変化が発生しますので、ウエイト調整には一工夫必要ですが。

サイドマウントでのダイビング(提供:石井隆)

さて、メタリコンスチールタンクを使ったサイドマウントダイビングのお話でしたが、いかがだったでしょうか?

日本の環境を考慮したらとても重要な事だと思います。
ただ、重ねて言いますが決して無理しないでください。

メタリコンスチールの比重に、使用するBCの浮力が対応できなければサイドマウントで潜るべきではありません。

テクニカルダイバーの中には使用するタンクに併せてBCやコンフィグを変更する方は多数います。
皆、タンクに併せて浮力等のバランスや安全に注意しているからです。

次回はサイドマウンでのボートダイビングについてお話しさせていただきたいと思います。

今回の冒頭ネタはついに何も思い浮かばず、嫁さんに助けを求めました。
いけませんね、反省しています。

何でこうなってしまったかは自分では知る由もありません。
ただ、最後まであきらめずに信念(?)を貫き通そうと思います!

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writer
PROFILE
40近くになり、家族で行ったグアム旅行、そこで嫁さんに体験ダイビングを勧められ初ダイビング。
その時の担当インストラクターに「ダイビングうまいねぇ。始めてみれば?」と言われてその気になる。

帰国後、地元のダイビングショップの門を叩き、ダイバーとなる。
この時40歳。

その後、調子に乗ってインストラクターまで一気に取得、

大手ダイビングショップで非常勤インストラクターとして勤務するも、もっとダイビングは自由で良いのでは?と考え始め、そんな中テクニカルダイビングに出会う。

自分の求めていたのはこれかもしれないと勘違いし、IANTDの小さな巨人・豊田聡氏(現PADIテクニカルダイビングアドバイザー)からテクニカルダイビングを教わる。

近年、サイドマウントダイビングを知り、その自由なスタイルに魅了され、ドンドン妄想はエスカレート。

終いにはサイドマウントを極めたいと、これまた大きな勘違いをし、オーシャナ執筆でおなじみの夜の帝王・田原浩一氏に「サイドマウントがうまくなりたいから教えてください!」と無茶な要求でケーブ系のトレーニングを始め、現在に至る。

 そんな訳でダイビング経験年数は6年(2013年11月現在)、経験本数は1500本(2013年12月現在)のお調子者若輩ダイバーです。

私は他のオーシャナ執筆者の方々のような著名人ではありません。
一人のダイバーの目線でサイドマウントの魅力をお伝えできればと思っています。

より安全に、より自由に、より楽しく。
レクリエーションサイドマウントダイビングはその可能性を秘めていると信じています。

是非、皆様の生暖かい目で今後もご支援いただければ幸いです。

主な資格等
■IANTD Normoxic Trimix インストラクター
■IANTD Trimix CCR Diver
■IANTD Trimix Diver
■IANTD Technical Wreck Diver
■PADI OWSIインストラクター MSDT
■PADI テックサイドマウントインストラクター
■PADI テックディープインストラクター
■日本テレビ系「いのちのいろいろ」映像提供多数
■小田原ダイビングスクール非常勤インストラクター
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