サンゴの復活が進まない沖縄本島で、リュウモンサンゴ属の大群落発見
沖縄県恩納村で、リョウモンサンゴ属の大群落地が発見された。
発見したのは、地元ダイビングサービス、ベントスダイバーズのオーナーガイド大原拓君(以後拓ちゃん)。
新たなダイビングポイントリサーチ中に、偶然発見。
「最初にそのポイントを見つけた時には、見渡す限りサンゴの大群落が広がり、タイムスリップして別世界に迷い込んでしまったような不思議な感覚に捕われました。そう、まるで竜宮城に迷い込んでしまったような感じです」と拓ちゃん。
それもそのはず、そのエリアより浅い深度では、サンゴのガレ場や砂地が広がり、こんな状況でサンゴが元気に群生しているとは想像もしていなかったからだ。
「最初は、変わったハゼのいるガレ場でも無いかなと思ってリサーチしていたので、本当にびっくりしました」というそのサンゴ群落の深度は、水深25mからなんと水深45mにまで及ぶ。
拓ちゃんは、ポイントリサーチにより、この他にも水深45mの根で、スミレナガハナダイの一大コロニーなども発見している。
群落の規模の大きさと、深度に「これは、もしかして珍しいのでは」と思い、サンゴ研究の第一人者でもある(財)海洋博覧会記念公園管理財団参与・西平守孝氏に写真を見せたところ、「リュウモンサンゴ属のサンゴと思われるが、採集して、種の同定をする必要がるのでは」とアドバイスされて、一緒にフィールドワークをしてくれる研究者を探した。
一ダイビング業者の立場では、調査の許可を取り付けたり、研究を行なう事などが難しい現状があるからだ。
拓ちゃんの思いに賛同して、一緒に調査を進める協力者になったのが、琉球大学准教授のジェイムス・デイビス・ライマー理学博士。
同准教授はサンゴと同じ、刺胞動物のスナギンチャク研究の世界的な第一人者。
実際に自分自身で潜って、フィールドワークを多く行なうことでも知られている。
ライマー准教授らの琉球大学調査チームは、拓ちゃんとともに、早速、群落の規模を計測し、長さ約130m幅約80mに及ぶ群落であることを確認した。
そして、ocean+αのロケで自分が恩納村に滞在しているタイミングに合わせて、次なる調査となる、群体の採集を行なった。
採集したのは、2株のサンゴ群体。これを持ち帰って、DNA解析を含む同定作業を行なう。
リュウモンサンゴ(Pachyseris)属は、foliosa、speciosa、rugosa、gemmae、そしてinvolutaの5種に分類される。
今回発見されたリュウモンサンゴ属が酷似しているのは、そのうちのfoliosaかspeciosaのいずれか。
日本でも存在が確認されている、同属のspeciosaであるか、あるいは、日本未記録種(国内からの学術的な報告の無い種)のfoliosaであるか、あるいは、そのどちらでも無い種か、あるいは未記載種(世界中でも学術的な報告の無く、名前が無い種)であるかの同定を行なう。
結果が出るのは、今から2ヶ月後くらいになるとの事だ。
DNA解析の結果次第だが、speciosaであったとしても、これほどの深度で、これほどの大群落が発見される事は珍しい。特に、沖縄本島では、1998年のサンゴの白化以降なかなかサンゴの復活が進んでいないエリアでもある。ホーシューと呼ばれる恩納村にあるダイビングポイントの浅場では、小さなサンゴたちが成長を始めてはいたものの、まだまだガレ場の状況を残すエリアの方が多い。
もし、このサンゴが、日本未記録種であった場合には、日本初記録であり、同サンゴの北限を一気に押し上げる結果になる。
いわんやもしも未記載種であれば、さらに注目されることになるだろう。
このリュウモンサンゴ属の周辺にも、多くの種類のサンゴが群生する場所が広がっていて、「これほどの多様性のあるサンゴの群落は、少なくとも沖縄の他のエリアでは、見た事が無い」と、ライマー准教授も驚きを隠せない。
「白化の回復が遅い沖縄本島にあっては、本当に貴重なものなので、このサンゴ群落の環境を守り、見守って行く必要があると思います」とライマー准教授は、このサンゴ群落の重要性を強調し、大切に守って行く必要性を主張した。
西平参与も、「沖縄の海には、比較的身近な海中でも、未知の興味の尽きない奥深さがある事を示してくれています。これをきっかけに、専門のダイバーたちが、いわゆる研究者と連携して、沖縄(日本)のサンゴの知見を集積できるきっかけと励みになれば嬉しい」と語った。
多様性のあるサンゴ群落と、リュウモンサンゴ属のサンゴ一種が隆盛を極めるエリアに2分されるこの海域は、今後沖縄本島のサンゴ分布にどのような影響を及ぼすのだろうか。
DNA解析による結果が今から楽しみだ。