微笑ましい子クジラの行動と、タイガーシャーク。トンガホエールスイム9日目

トンガホエールスイム(撮影:越智隆治)

9日目、雨模様の天気。
雨雲を避けて、クジラを探す。

かなり南にあるファトマンガという島でシングルのクジラのブリーチングなどを見ていたが、サブマリンロックという岩礁近くで、親子とエスコートと泳いでいる別の船との無線のやり取りで、次に泳がせてくれることになり、そちらに向かう。

止まってはいないけど、泳げるということだったので、順番を待ってエントリーしてみると、なんと船の真下で親子とエスコートが止まっていた。
皆は体側の白いエスコートに気を取られていて、こんなに巨大にも関わらず、親子を見失っていた。

自分が指差して親子の方に向かっても、誰も気づいてくれない。
「灯台下暗し」とはこのことだな。

結局、タイミング良く、この親子とエスコートが水中で休んでくれるようになり、休息、浮上、少しだけ移動、潜行、休息を繰り返す間、何度かエントリーして観察した。
子クジラが何度も浮上してくるのだけど、まだ警戒していて、こちらには、そんなに近づいては来ない。

トンガホエールスイム(撮影:越智隆治)

誰かが子クジラに接近しようとすると、母親もすぐに浮上してきて泳ぎ去ってしまう感じだったので、とにかくその場を動かずに、親子の営みを観察していた。

ほとんどの場合、子クジラは浮上して、しばらく水面で遊んだ後、また母親の元に戻り、お腹の下に隠れて顔だけ出して上の様子を伺っている。
その仕草が可愛らしい。

この子クジラ、何回目かには間違ってエスコートの方に戻ってしまい、子クジラがお腹の下に隠れようとして驚いた様子だったのだけど、もっと驚いたのは、母親の方。
「それはママじゃないわよ!」と慌てて子クジラをエスコートから奪い返すように、連れ立って移動を始めた。

以前にも2回程、母親とエスコートを間違えてしまった子クジラを見たことがある。
そのときのエスコートの行動、母親の行動はどのときも、ほぼ同じだった。

「母親との区別がつかないのかしら」と聞かれたけど、人間の子どもも、何かに夢中になりながら父親や母親だと思って知らない人の手を握ってしまったりして、それに気づいた母親が「す、すみません」と慌てて飛んで来ることがある。
そんな感じだ。

きっと子クジラは、僕らがいる水面の方を気にしていて、ちゃんと確認できずに、母親と勘違いして、エスコートのお腹の下に潜り込もうとしたのかもしれない。
でも、そんな子クジラの失敗が、見ていてとても微笑ましいと感じてしまう。

その親子とエスコートを他の船に譲って、ランチ休憩を取って、またしばらくクジラを探す。

すると今度は、朝にクジラを譲ってあげた船から、「別の親子と泳いでいるから泳ぎ終わったら譲る」と連絡をもらった。
この親子は、フンガ島という外洋に面した島の海岸線の浅いエリアギリギリを北から南へ移動するようにゆっくりと泳いでいた。

なので、外洋側から親子の前に回り込み、静かに船からエントリーして、親子が通過するのを撮影するといった感じで、何回か海に入った。
浅く、透明度が良かったので、皆も奇麗な写真が撮影できて、喜んでいた。

何度目かのエントリーのとき、トンガ人ガイドが、どう考えてもクジラが入ってくるには浅過ぎるだろうという場所で、「今だ、入れ!」と合図を出した。
ちょっとおかしいなと思いながらも、エントリーしてみると、船のエンジンで泡立っていた海中から、こちらに向かって来たのは、3m級のタイガーシャークだった。
一瞬「おお!」と驚いたものの、すぐにカメラを構えて撮影。
しかし、あっという間に踵を返して、泳ぎ去ってしまったので、後姿しか撮影できなかった。

トンガのタイガーシャーク(撮影:越智隆治)

どうやら島の岩場でフロートを持った漁師たちが魚を突いていたので、その匂いを嗅ぎ付けて、接近してきていたようだ。
その漁師たちと、タイガーシャークの間に、僕らの船が入り、そこでエントリーしてしまったというわけ。

まあ、漁師たちにとっては、命の恩人?ということになるのかな?

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PROFILE
慶応大学文学部人間関係学科卒業。
産経新聞写真報道局(同紙潜水取材班に所属)を経てフリーのフォトグラファー&ライターに。
以降、南の島や暖かい海などを中心に、自然環境をテーマに取材を続けている。
与那国島の海底遺跡、バハマ・ビミニ島の海に沈むアトランティス・ロード、核実験でビキニ環礁に沈められた戦艦長門、南オーストラリア でのホオジロザメ取材などの水中取材経験もある。
ダイビング経験本数5500本以上。
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