鳥取・田後の未開のダイビングポイント「イトグリ」の全貌を探れ! ~新人ガイド・サオリン奮闘記~

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入社2ヶ月目の新人ガイドに出された
過酷なミッションとは!?

パラオで4年間ガイドをした経験から「Ms.アゲインスト」の異名をもち、鳴り物入りで6月からブルーライン田後のチーフガイドとなった田村沙織さん(愛称サオリン)。
店長の山崎英治氏より入社2ヶ月目の彼女に過酷(!?)なミッションが下された。

イトグリに到着しアンカーを落とす指示を待つサオリン

イトグリに到着しアンカーを落とす指示を待つサオリン

その指令というのは、沖合にある幻のポイント「イトグリ」の全貌を探り、さらに取材中のカメラマン中村卓哉(私)に新ネタを撮らせてきてほしいというもの。
(とにかくネタを探し、カメラを向けられたらモデルを務め、あわよくばイトグリの全貌を解明してこい!こんな感じです)

赤い丸で囲った絶海にポツリと存在する根が「イトグリ」

赤い丸で囲った絶海にポツリと存在する根が「イトグリ」

ベールに包まれたディープポイント
「イトグリ」

イトグリといえば水深50mを越す荒野のような砂地にポツリと存在する沖合の根。
背が低くのっぺりとした尾根が続くディープポイントだ。最も浅く突き出た岩でも水深は33m。流れも速いため目的の場所にアンカーを落とすだけでも難しい。

このポイントの魅力はなんといっても日本海ではレアなサクラダイの群れが見られること(山崎氏がポイント開拓中に偶然見つけた)。
しかし、さらに広範囲を探索しようとするもアンパイのサクラダイの群れからどうしても離れられず未だ全貌を知らずにいるのだという。
そんなこんなの急展開から私は新人サオリンと共に未開のイトグリを攻めることとなった。

アンカーロープをつたい暗い海底を目指す

アンカーロープをつたい暗い海底を目指す

アンカーロープをつたい、薄暗い海底を目指すとそこは日本海とは思えない光景が姿を現した。
根の潮が当たる側面にはシダ類やソフトコーラル、オノミチキサンゴなどが群生し、ごっちゃりとスズメダイが群れている。
キンチャクダイ、ソラスズメダイ、ハコフグなどの季節来遊魚の姿もちらほらと見える。

潮の当たる側面にはたくさんの生えものが茂りスズメダイが乱舞している

潮の当たる側面にはたくさんの生えものが茂りスズメダイが乱舞している

サオリンにモデルとして入ってもらいイトグリの尾根を撮影する中村。尖った根のトップが水深33m。

サオリンにモデルとして入ってもらいイトグリの尾根を撮影する中村。尖った根のトップが水深33m。

サクラダイが群れる場所に山崎氏を残し、ここからはサオリンと共に探索を開始する。
まずは沖の砂地にぼんやりとかすかに見える小さな根を2人で目指すことに。

アゲインストの潮へ向いながら、水深35mの中層からその根を見下ろす。
根のトップは約50m、生えものはほとんどついていない。

そうこうしている間に減圧時間も加算されていく。
新ネタを探すミッションうんぬんより安全に帰還することが最優先だ。

根まで降りるのを躊躇していると、どうしてよいかわからず困ったサオリンが視界に入り少し引き返すことにした。
とりあえずアンカー近くにある未確認の根の周囲を探ってみることに。

すると水深41mのオノミチキサンゴにサクラダイが数匹ついているが見えた。
たった5匹だが、ウミシダやオノミチキサンゴがアクセントとなって華やかだ。
サオリンにモデルで入り込んでもらいシャッターを何枚か切った。

新たに確認したサクラダイのついたオノミチキサンゴ

新たに確認したサクラダイのついたオノミチキサンゴ

山崎氏が見つけた田後で初確認のハクセンアカホシカクレエビ

山崎氏が見つけた田後で初確認のハクセンアカホシカクレエビ

未知数の世界で起こったハプニング

撮影に集中しながらも残圧計とダイビングコンピューターをこまめに確認する。
そろそろ帰らなければと思い引き返しはじめると、カランカランとアンカーが外れる音が海中に響き渡った。
嫌な予感がして山崎氏を探すも、すでにサクラダイの溜まり場には彼の姿はない。

サオリンと元々アンカーのかかっていた場所へ慌てて戻る。
すると水深50mの砂地にアンカーを引きずった痕跡が数本見えた。

その痕の続く先はというと永遠と50mの荒野が続く漆黒の闇。
私はサオリンがパラオ帰りだということを思い出した。
彼女のBCに下がる大きな黄色いフロートを確認するとすぐにその場でゆっくり浮上しながら減圧停止に入る合図を送った。

その後は無事に減圧を消化してすぐにフロートを確認した船が迎えにきてくれた。
フロートを上げている最中、サオリンは思わず笑ってしまったという。
パラオから田後へ戻りこんなに早くフロートを上げるとは思いもしなかったそうだ。

フロートを打ち上げる姿もやはりかっこいいパラオ帰りのサオリン

フロートを打ち上げる姿もやはりかっこいいパラオ帰りのサオリン

その後、山崎氏に状況を聞くと、アンカーが外れて慌てて私たちの方にライトで合図を送ったが、遠くで私のストロボが光るのが見え気づいていないと思ったそう。
その瞬間大きなアンカーが何度も宙を舞い、慌てて砂地に点在する岩に引っ掛けようと試みたが難しく、先に船に上がり船長と2人でフロートが上がるのを待ったという。

結果的に3人の判断が早かったこと、お互いの行動の意図を水中で理解していたことでハーフドリフトのような潜りで、これもありだねと話す余裕すらうまれた。
そして2本目も懲りずにまたイトグリへ潜ることになった。

結果、少しずつ探索範囲は広くなっているが、まだまだイトグリの全貌は未知数である。
いろいろとあり、中途半端に終わった今回のミッションだが、私的には日本海でこの光景を見られただけでも大満足だった。

次に潜る時は必ずやリベンジを果たしたい。
何よりも冷静だったサオリンのさらなる成長とイトグリでの新ネタに乞うご期待!

*今回このようなハプニングを記事にすること様々なご意見はあると思う。
しかし、最近になってイトグリへ潜りたいというリクエストが多いらしく、簡単には行けない厳しいポイントであるということも伝えたいという山崎氏の思いからハプニングを含めた撮影の裏話を書かせてもらうことになった。

パラオ帰りの新人ガイド田村沙織

パラオ帰りの新人ガイド田村沙織

ミッションを終えたサオリンの感想

ーー

カメラマン中村卓哉をガイドしてどうだったか?

サオリン

わからないことだらけ。このフィールドに来て9割知らないことばかりで何を紹介していいかわからずパニックに。ワイドの画角がわからずどこにはいればいいかわからなかった。

ーー

「Ms.アゲインスト」と呼ばれていたらしいが、田後の海の潮の流れの印象は?

サオリン

ヤマダシというポイントで一度ブン流れの状況に遭遇。素直に嬉しかった。
イトグリは深くて根にたどり着かないと潮を見ることができないし、予測が難しいポイント。

田村沙織(サオリン)の 経歴

高校生時代、地元鳥取のフリーペーパーを見てブルーライン田後を知りオープンウォーターを取得。そのまま翌週にはアドバンスまで取得した。
その後、動植物系の専門学校のマリンアニマルコースへ進学。
水族館へ入社希望だったがダイビングライセンスを取得し好きになったダイビング業界を目指す。
ブルーラインで現地実習を経験中に入社を希望したがオーナーの山崎氏より「1度は外の世界を経験して来た方がいいよ」とアドバイスされ教員からパラオの求人の紹介を受けパラオの現地サービス「オアシス」へ入る。
その後4年間パラオで実績を積んだが、地元鳥取へ戻る。
なんで地元へ戻るのと周囲から言われたが、日本海の海は1年を通して四季があり、春から冬にかけて見られる生物が違う魅力を伝えたいということと、ダイビングの師匠である山崎氏の元で働きたいという強い思いがあったという。
そしてその思いが通じ、2017年6月1日よりブルーライン田後でガイドとして働き始める。

左からチーフガイドのサオリン、店長の山崎氏、丘番長の由香里さん

左からチーフガイドのサオリン、店長の山崎氏、丘番長の由香里さん

ブルーライン田後

〒681-0071 鳥取県石美郡岩美町田後37
お問い合わせ:0857-72-8520

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PROFILE
1975年東京都生まれ。

10才の時に沖縄のケラマ諸島でダイビングと出会い海中世界の虜となる。

師匠は父親である水中写真家の中村征夫。
活動の場を広げるため2001年に沖縄に移住。その頃から辺野古の海に通いながら撮影を始める(現在は拠点を東京に置く)。

一般誌を中心に連載の執筆やカメラメーカーのアドバイザーなどの活動もおこなう。
最近ではテレビやラジオ、イベントへの出演を通じて、沖縄の海をはじめとする環境問題について言及する機会も多い。

2014年10月にパプアニューギニア・ダイビングアンバサダーに就任。

■著書:『わすれたくない海のこと 辺野古・大浦湾の山 川 海』(偕成社)、『海の辞典』(雷鳥社)など。
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