鹿児島・桜島のお膝元、錦江湾で潜る。溶岩の海の顔、サクランボウとクマソハナダイ(?)の話

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鹿児島(撮影:越智 隆治)

鹿児島県のシンボル、モクモクと噴煙を上げる桜島を取り囲むカルデラ湾が、今回のメインのダイビングサイト、錦江湾(鹿児島湾)だ。

海中は、過去に何度も噴火した桜島から海に流れ込んだ溶岩に覆い尽くされている。こんなに若い活火山島(実際には、鹿児島市と反対側は、陸続きだけど)の裾野に5000人もの人が住み、60万人都市・鹿児島がフェリーで15分しか離れていない対岸にある場所は、それだけで世界的にも珍しいのだそうだ。

鹿児島(撮影:越智 隆治)

今回のロケでは、山頂に分厚い雲がかかり、全容を見ることが叶わなかった桜島

溶岩に覆われた海中は
まるで地獄絵図!?笑

溶岩に覆われた海中と言えば、関東ダイバーなら、伊豆大島や、三宅島なんかをイメージするのかもしれない。

僕が伊豆大島に訪れたのは、Cカードを取得するための海洋実習の時で35年ほど前のこと。台風が接近する中、講習生が男性しかいなかったから、荒れ荒れで、味噌汁のスープ状態にも関わらず、インストラクターに海洋実習を敢行させられた程度の記憶しかない。
三宅島も自分の記憶に有る限り、御蔵島にイルカと泳ぎに行くときに、悪天候のため御蔵島に接岸できないから三宅島で下船して、漁船をチャーターして御蔵島に渡った程度の関わりしかなく、海中は潜ったことがない。この二つの島は、海は外洋に面している。

しかし、今回の錦江湾は、カルデラ地形に囲まれた閉鎖された内湾。「この錦江湾の海水が、全部外洋へと循環するのには、30年ほどかかる」のだそうだ。

そんな海中のイメージとしては、湖なみに、暗い、黒い、海は緑、透明度悪い・・・と取材に来ておきながら、なんかマイナスのイメージしか思い浮かばないが、まあそれが事実。

中には、暗く、緑色の海中で、ムチヤギが潮の流れで暴れる様を見て「地獄絵図」と錦江湾の海中を表現するダイバーもいたとか。ははは・・・。

鹿児島(撮影:越智 隆治)

地元を代表するハナダイの
呼び名の歴史をたどる

今回まずは、そんな独特な海中景観を持つ錦江湾を代表する魚を2種類ほど紹介しよう。

鹿児島市内から桜島に渡るフェリー乗り場からすぐの、霧島錦江湾国立公園内のビーチからビーチエントリーで潜る、「クマソ根」で見られるのが、アカオビハナダイのすっごい群れ!

鹿児島(撮影:越智 隆治) 鹿児島(撮影:越智 隆治)

自分が記憶する限り、国内でも、海外の海でも、これほどの数のアカオビハナダイが群れているのは観たことがない。
水深23mほどの溶岩の根は、このアカオビハナダイに覆われていた。実際に目で見るよりも、ストロボを使って撮影した写真を見る方が、その華やかさは引き立てられる。

しかも、浅いところでは、水深5mくらいから群れているのを見ることができる。

鹿児島のアカオビハナダイ(撮影:越智 隆治)

クマソ根に群れるアカオビハナダイ

「このアカオビハナダイ、この辺では10数年前までは、クマソハナダイと呼ばれていたんですよ」と教えてくれたのは、今回のロケでお世話になったスクーバダイビングサービスSB(スマイルビームス)のオーナーガイドの松田康司さん。

鹿児島(撮影:越智 隆治)

婚姻色を出している、オスのアカオビハナダイもうじゃうじゃ

“クマソ”は、このダイビングポイントの名前、「クマソ根」にもついているのだけど、どういう意味かというと、おそらく、漢字では「熊襲」と書く。
Wikipediaでは、「日本の記紀神話に登場する、九州南部に本拠地を構えヤマト王権に抵抗したとされる人々、また地域名を意味するとされる語である」とある。つまりは、鹿児島や熊本のこと。

アカオビハナダイが、ここ錦江湾では、伊豆や串本のキンギョハナダイばりに、圧倒種として存在しているために、親しみも込めてそう呼ばれていたのかもしれない。

が、実際には、クマソハナダイというのは、別種のかなりレア種で存在していて、何故か「アカオビナハダイ=地元を代表するハナダイ=クマソハナダイ」とあやまって呼ばれていた時期があったのだそうだ。

串本(撮影:越智 隆治)

串本で撮影したキンギョハナダイの群れ

鹿児島のアカオビハナダイ(撮影:越智 隆治)

アカオビハナダイの群れ

錦江湾の海中の顔
ネジリンボウの「サクランボウ」

もう一種は、ネジリンボウ。
これもアイドルではあるが、伊豆なんかでも普通に見られる魚。

しかし、錦江湾で見れるネジリンボウは、見た目が他とはちょっと違う。
そして、見られる水深が、なんと5mほど!とメチャクチャ浅く、しかも、今年はフットサルコートより若干小さい感じの範囲に、30個体15ペアくらいが生息しているのだそうだ。

見た目の何が違うかというと、写真でもわかるように、普通に見れるネジリンボウよりも、身体が赤身を帯びているのだ。

黄金崎のネジリンボウ(撮影:越智 隆治)

伊豆の黄金崎で撮影したネジリンボウのメス

鹿児島のネジリンボウ(撮影:越智 隆治)

桜島で撮影したネジリンボのオス、通称サクランボウ

桜島に生息してるだけに「サクランボウ」ちゃんの愛称で親しまれる「錦江湾の海中の顔」だ。

学者の方からはお叱りを受けそうだけど、ネジリンボウも「サクランボウ」の愛称で親しまれているので、個人的にはアカオビハナダイもこれだけ圧倒種として群れが見れるなら、この地域だけ愛称的に「クマソハナダイ」って呼んじゃってもいいんじゃない?、とか思ってしまったくらいに、圧倒的な数が群れていた。こちらも、まさに「錦江湾を代表する海中の顔」だ。

おまけ
水深5mであの大物にも会えるとか!(驚)

松田さんに色々錦江湾の魚の話を聞いていて、驚いたことが一つ。
桜島には、噴火したときに船をつける港として、島の周囲に20の避難港があり、それぞれ番号がついていて、島民が釣りを楽しんだりしている。
今回サクランボウを撮影したのは、その避難港5番の目と鼻の先の水深5mのフラットな砂泥地。

「秋頃には、ここでネジリンボウ撮影をしてるときに、たまにニタリが姿を見せるんですよ。」って「えええええ〜???、ニタリザメが?こんな浅い場所にですか!?」と普通にニタリザメが水深30mとかで見られるサメだと認識してる僕にとっては、「それって、嘘でしょ? あるいは、たまたま一回だけ迷い込んできただけでしょ?」と疑いたくなるような話だ。

証拠写真でもあるのか?と問い詰めたいところだけど、ここを潜るときは、いつもゲストにサクランボウを撮ってもらってるから・・・当然ちゃんとした写真は無いのだそうだ。「尾びれがうっすら写っているような写真はありますが・・・」と見せてもらったのがこれ。

鹿児島のニタリ(提供:スマイルビームス)

海底水深5mに出現したニタリザメ

確かに!
「今回、サクランボウ撮影だけだから、マクロだけでいいですかね?」と言う問いに、「はい、マクロだけで」と言われてマクロしか持って行かなかったけど、う〜ん、そうなると、サクランボウちゃん撮影に集中している場合じゃないかもしれないじゃないですか〜。

にしても、透明度は悪そうだから、実際に出たらちょっとビビりそう〜。

■supported by Scuba Diving Shop SB (スマイルビームス)

鹿児島(撮影:越智 隆治)

松田康司さん、環さん御夫婦とスタッフガイドの射手園さん3名のアットホームなDS。鹿児島市内にあるダイビングショップで唯一、自社ボート(ブラックパール号)を所有。船長は松田さんのお父さんの俊一さん。
桜島を仰ぎ見て潜る超個性的で独特な海、錦江湾だけでなく、外洋で透明度の高い南薩摩の海専用の小型ボートも所有。

ボートダイビング、ビーチダイビング両方対応してもらえる数少ないDSだ。オーナーの松田康司さんは、ガイド会にも所属し、錦江湾の海中の四季を捉えた写真は、他の海ではあまり目にすることがない不思議な光景で、とても興味深く、撮影意欲を掻き立ててくれる。

錦江湾でのマニアックなダイビングから、南薩摩の明るい海でのファンダイビングまで、どんなダイバーにも、対応してくれるダイビングサービス。

〒891-0144 鹿児島市下福元町7641
TEL/FAX:099-262-5838
営業時間:10:00~19:00
店休日:毎週火曜日(夏季7月~9月無休)
http://sb-diving.sakura.ne.jp

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PROFILE
慶応大学文学部人間関係学科卒業。
産経新聞写真報道局(同紙潜水取材班に所属)を経てフリーのフォトグラファー&ライターに。
以降、南の島や暖かい海などを中心に、自然環境をテーマに取材を続けている。
与那国島の海底遺跡、バハマ・ビミニ島の海に沈むアトランティス・ロード、核実験でビキニ環礁に沈められた戦艦長門、南オーストラリア でのホオジロザメ取材などの水中取材経験もある。
ダイビング経験本数5500本以上。
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