“ダイコンおじさん” 今村昭彦氏が伝授 減圧理論を知って、減圧症を予防(第3回)

【連載vol.3】ダイブコンピュータのデータを読み解き、効果的な減圧症予防法を知ろう

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減圧症を防ぐためのリスクマネジメント

減圧症罹患事例を見てもわかるように、減圧症を防ぐためにはいくつかのポイントがある。ここにリスクマネジメントに必要な9つのポイントをあげているので、ぜひ参考にしていただきたい。

①浮上速度違反は最大の罹患要因の一つ。浅い水深ほど水圧変化が大きいので次第に浮上速度をゆっくりと浮上すること。安全停止後に浮上速度違反が多くみられるのも注意が必要である。
②ダイビングの始めに最大水深に達し、後はゆっくりと浮上して行くフォワード潜水パターンが、浮上時点での体内窒素圧を最も下げる。
③平均水深15m以上かつ潜水時間45分以上のダイビングを行うと、浮上時点で体内窒素圧が85%を超えるので、ここが危険な分岐点となる。

④ダイブコンピュータが示す無減圧潜水時間に対して、水深が浅くなるほど早めに浮上してマージン(余裕)を持たせる。メカニズム上、浅い水深では余裕がないのを忘れずに!
⑤浅い水深ではファジー(あいまい)なので、絶対に減圧潜水を行わない。しかし、深い水深の場合は早く浮上するように指示が出るので、体内窒素圧を下げることが可能ではある。
⑥反復潜水を行う場合は、水面休息時間を90分以上取ること。ダイブコンピュータの速いコンパートメント5分組織と10分組織は計算上ゼロになり、4番目までの組織はほぼ同じ状態になる。

⑦潜水後の車の山越え(標高300m以上)には5~6時間(東名高速の御殿場付近で標高は454m)空けること。伊豆の西海岸は要注意で、すぐに山越えするのは厳禁。面倒でも海沿いを通って帰宅することが大切である。また、飛行機搭乗する際にはその前にどんなダイビングをしたかが肝心。体内窒素圧はシミュレーターでないと計れないので、少なくともダイビングを2本したら18時間以上、3本したら24時間以上空ける姿勢が肝心である。
⑧安全停止は少なくとも3分することが必要であるが、遅い組織に体内窒素圧が溜まっている場合には5分、10分と延長しなければならない。
⑨無制限(連日に連続)のダイビングをする場合には、3日に1日の割合で軽く抑える必要がある。1日で排出し切れない窒素は溜まっていくので、排出の遅い組織に思わぬ残留窒素を残すことがあり、飛行機搭乗時に危険である。

ダイビングを末永く楽しむためにも、ダイブコンピュータを正しく使いこなせるようになろう

ダイビングを末永く楽しむためにも、ダイブコンピュータを正しく使いこなせるようになろう

医学的な見地から必要だと言われていること

最後に医学的な見地から、減圧症を予防するために心がけておきたいことを紹介しよう。

◎潜水前・中・後の激しい運動は避ける
 急激な血流変化は減圧症を引き起こす原因になるのでNG。
 体力のない人は潜水中に流れに逆らって泳ぐことにも注意。
◎脱水症状にならないように水分を十分に摂る
 カフェイン(コーヒー、ソーダ、アルコール、緑茶など)を含まないミネラルウォーターや麦茶などがおすすめ。
24時間前から最低8杯の水を飲み、適切な水分補給を開始する。
◎低水温・低体温に注意
 血流が悪いと減圧症発症の要因となるので、水温が低い場合は、保温対策をしっかりする。
◎ケガや病気、疲労しているときはダイビングを控える
 無理はしない!ダイビング前日は、充分な睡眠時間をとる。
◎アルコール摂取・薬の服用に注意
 前夜の深酒は避ける。服薬している人は、ダイビングに支障がないかを主治医に確認しておく。
◎日頃から栄養管理をきちんとする
 栄養バランスがとれた食事を心がけよう。青魚や玉ねぎなどは血流改善に効果的。
◎二酸化炭素の増加に注意
 ダイビング中の息こらえは避ける。
息が長持ちしない人はグループの一番上(浅い水深)にいて、空気の消費量を抑える。
◎肥満しないように体重管理を
 肥満は減圧症のリスクを高める。ウェットスーツの締め付けは、血流を悪くするので注意。
◎高齢のダイバーは健康管理を心がけて
 定期的な健康診断を受けて、体調管理を万全に。持病がある方は特に要注意。
◎禁煙を心がける
 ニコチンは血管収縮剤。ダイビングを続けたいなら禁煙を。
◎運動不足にならないようにする
 息が上がるくらいの運動を一日15分以上する習慣を。
◎エキジット直後の熱いお風呂は避ける
 急激に血流がよくなると、減圧症のリスクが高まる。入浴する時は段階的にゆっくりと。
◎水面休息時間中、潜水後のスキンダイビングは避ける
 ダイビング後のスキンダイビングで減圧症を発症することもまれにある。

ここまで3回にわたり、減圧症予防のためのダイブコンピュータの使いこなしのコツや、減圧理論に基づいた安全ダイビングについて紹介してきたが、いかがだったろうか?

減圧症にはめったに罹患しない。だから、減圧症に今一つ関心が向かないのは仕方がない。

しかし、減圧症の再罹患率は10~15%といわれている。一度かかってしまうと、ダイビングができなくなってしまうこともあるので、十分に注意していただきたい。

「予防に勝る治療はなし」。日頃から安全ダイビングを心がけて、減圧症を予防しよう。

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PROFILE
某電気系メーカーから、TUSAブランドでお馴染みの株式会社タバタに転職してからダイビングを始めた。友人や知人が相次いで減圧症に罹患して苦しむ様子を目の当たりにして、ダイブコンピュータと減圧症の相関関係を独自の方法で調査・研究し始める。TUSAホームページ上に著述した「減圧症の予防法を知ろう!」が評価され、日本高気圧環境・潜水医学会の「小田原セミナー」や日本水中科学協会の「マンスリーセミナー」など、講演を多数行う。12本のバーグラフで体内窒素量を表示するIQ-850ダイブコンピュータの基本機能や、ソーラー充電式ダイブコンピュータIQ1203. 1204のM値警告機能を考案する等、独自の安全機能を搭載した。現在は株式会社タバタを退職して講演活動などを行っている。夢はフルドットを活かしたより安全なダイブコンピュータを開発すること。
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