蒸気式電子タバコとダイビング

2017年1月、本誌『Alert Diver Monthly Vol.1「新しいタイプのタバコとの付き合い方」(山﨑内科医院 山﨑博臣先生)』にて新しいタイプのタバコは、肺機能を活発に使うダイバーにとって問題となり得ることが指摘されました。一見、匂いや有害物質が少なく感じられる新しいタイプのタバコは、海外でも同様に議論となっています。DANメンバーよりいただいたVAPE(ベイプ)(蒸気式電子タバコ)についての問い合わせへのDANアメリカのFrauke Tillmann博士による回答をご紹介します。

※本記事はDAN JAPANが発行する会報誌「Alert Diver Monthly」2019年12月号からの転載です

VAPEとは?

多様なフレーバーリキッドを電力で気化させ、その蒸気を吸って楽しむ蒸気式電子タバコ(電子タバコの一種)。ただし、タバコ葉を使用しないのでニコチンとタールを含まないことが特徴です。

 

ダイビングインストラクター

私はダイビングインストラクターです。蒸気式電子タバコの喫煙がダイビングに与える影響について調査した論文はありますか? あるようでしたら、蒸気式電子タバコを吸っている講習生に参考として文献を提供したいと考えています。講習生に喫煙とダイビングの研究について情報を提供しても、蒸気式電子タバコに特化したものではないとして、聞き入れてくれません。

Frauke Tillmann博士

現状、蒸気式電子タバコのダイビングへの影響を調べた論文は存在しません。しかし、蒸気式電子タバコそのものの身体への影響を研究した論文はあります。ダイビングに特化した研究ではありませんが、その研究結果はダイビングの際にも考慮するべきでしょう。

不完全燃焼の残留物質(一酸化炭素、二酸化炭素)は、電子タバコにおいて大きな懸案事項ではありませんが、蒸気式電子タバコの蒸気には推定発がん物質(多環式芳香族炭化水素、高濃度のナノ粒子)と毒性化合物(カルボニル、金属、揮発性有機化合物)が含まれています。蒸気式電子タバコに関連する、慢性閉塞性肺疾患(COPD)などの慢性疾患や、発がんに関する長期的な影響についての研究結果はまだありません。

これらの長期的な研究結果が発表されるまで、電子タバコからのエアロゾル※1が肺にどのような影響を与えるか、完全に理解することは不可能です。その他、電子タバコにおいてダイバーが考慮するべき点としては、最近論文で議論されている、減圧症(DCS)に関連する研究です。

※1 エアロゾル=気体中に浮遊する微小な液体または固体の粒子

●心血管症状
電子タバコの使用後、重症度の異なる心血管症状(特に青年期の)が発生します。マウスとラットを使用した動物実験では、蒸気にさらされた動物の動脈硬化が増加していることが判明しました。心血管の健康は潜水適性検査の必須条件であり、DCS及び素潜りにおける内皮(血管の内層)機能への影響について多くの研究が実施されているため、この発見はダイバーにとって興味深いものです。血量依存性血管拡張反応試験(FAD)※2では、ダイビング自体がすでに動脈機能を低下させることが示されています。

●炎症
電子タバコのエアロゾルに関して、炎症を引き起こし免疫システムの効率を低下させることを示唆する十分なデータがあります。免疫システムと炎症プロセスが、減圧により引き起こされるストレスを理解するうえで重要な役割を果たしていることが過去数年間で明らかになってきています。

●遺伝毒性※3
蒸気式電子タバコによる蒸気は、酸化ストレス(活性酸素・フリーラジカルの過剰生産)を引き起こしている可能性があることが判明しています。活性酸素・フリーラジカルが過剰に生産された場合、DNAの損傷を引き起こす可能性があります。電子タバコの場合、特に肺ではDNAの修復能力が低下することが示されています。人体における酸化ストレスと酸化損傷の影響は多様で予測不可能であり、細胞膜の可逆的な相互作用から、慢性疾患または変性疾患の発症にまで及びます。

●肺と呼吸
蒸気式電子タバコに関する文献では、気道抵抗の増加と、上気道及び下気道の炎症が示唆されています。肺、及び肺活量を変化させるものはすべてダイビングでは有害となる可能性があります。

※2 血量依存性血管拡張反応試験(FAD)=血流量の増加により刺激された血管内皮から血管拡張物質亜鉛化窒素が放出され、血管が拡張する反応を動脈硬化度の測定に用いる検査方法。被験者の腕部にカフで5分間完全駆血し、駆血解除後の血流をエコー検査で診断し血管の拡張率を数値化する。拡張率が低いほど動脈硬化の危険度は高いと考えられている
※3 遺伝毒性=遺伝情報を担うDNA(遺伝子や染色体)に変化を与え、個体に悪影響をもたらす性質

Frauke Tillmann博士

現時点では、ダイビングと蒸気式電気タバコの直接的な影響に対する見解を示すことはできません。しかし、電子タバコによる蒸気(多くの点で紙巻きタバコの煙ほど有害ではありませんが)は、現在予想されているよりも多くの懸念があることを示す根拠があります。すべての種類のタバコをやめることは、間違いなくダイバーにとって最高のリスク軽減策です。

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