がぶがぶ飲めばいいわけではない!? ~水分摂取と減圧症の予防~

2週間のご無沙汰でした。

やどかり仙人コラム

前回のダイビング前後の減圧症への影響に続いて、今回もDANアメリカのエキスパートオピニオンのプレコンディショニング(減圧症を予防するコンディションづくり)から、ごく短くまとめてみました。

水分摂取、ビタミンCなどの栄養摂取、ダイビング前の酸素呼吸など、これまで無条件によいとされていた体調作りの予防策ですが、専門家の間では、それぞれよいか悪いか、さまざまな意見があるようでございます。
ここであらかじめお断りして置きますが、ここで論じられていることはかなり、あくまでも微妙な部分でありまして、大勢としては、これまでの常識は常識であり、十分に根拠がございます。

では前回の続き。

水分摂取と減圧症の予防

Q.
ほとんどの専門家は重度の脱水(デハイドレーション)は減圧症のリスクを高めることを認めていますが、軽度から中程度の脱水デハイドレーションが、減圧症のリスクを軽減するという示唆がされています。
これをどう考えますか?
ダイバーへのアドバイスがありますか?

(要約)
“通常”量あるいは、わずかに血漿量が減ると、ダイビング中の窒素の飽和が減じるという考え方があります。
ここで大事なことは、血漿は急には増えないし、水分摂取が多すぎても尿を増やすだけで、組織に水分補給できるわけではない。
15分から20分ごとににグラス一杯の水を飲むと、血漿の量を増やさずに水分補給ができるというのが私のアドヴァイス。

コンスタンチーノ・バレストラ(DANヨーロッパ水中高圧医学会副会長ベルギー)

(要約)
ダイビング中の運動と温度の減圧症のリスクへの研究から、これまでと矛盾した結果が出ている。
つまり、軽度のデハイドレーションは予防的だった。
ブラトウなどの研究では事前の運動や温度にさらされることによる血液量の減少が、心臓の血液の送り出しを減らし、組織へ運ばれる窒素が減るという説があります。

この説は驚くべきものですが、脱水のリスクは今でははっきりと定義されています。
ダイビング前の水分摂取は害になるよりよいことです。
2008年のゲンプらの研究は”ダイビング前の水分摂取は循環系での気泡を減らす。したがって減圧症のリスクを減じるかなり容易な手段である”と結論づけています。
この研究では、1.3リットルの塩分/糖分を含んだ飲み物が、ダイビングによる脱水を防ぐが血漿を増やすわけではないとしている。
そこで私のアドヴァイスはダイビング前に適度の水分摂取をし、脱水状態のときはダイビングは避けるべきである。

マイケル・ベネット(ニューサウス・ウェールズ大学高圧医学教授オーストラリア)

(要約)
軽度の脱水が減圧症のリスクを減じるを説を支持するデータを私は知らない。
ダイバーはよい水分摂取をすべきである。

ブルバック(ノルウエイ大学環境生理学ノルウェー)

諸先生のご意見をヤドカリなりにまとめてみると、質問はややセンセーショナルでありますが、リクリエーションダイバーがよく心配する、脱水症状がすぐに減圧症に結びつくわけではないことを、全体として示唆されているようであります。

もちろん、激しい脱水症状は減圧症のリスクを高めるのは間違いなく、その一方で、運動や温度の影響で、水分が少々足りなくなったときには、血液量の関係から、気泡形成が少ないのではないかという、実験結果があるということらしいですな。
 
一部のダイバーはダイビング前にガバガバと水を飲んでおられるようですが、先生方は直前に飲んでもオシッコになるだけで、血液つまり血漿は増えない、またあえて通常量よりも血漿量を増やす必要もないのであろうといわれております。

ただ私どもダイバーには、どの程度が激しい脱水なのか、軽度の脱水なのか、血液量が通常量なのか分りません。
その意味では、ベネット先生の15分から20分ごとにグラス一杯の水を定期的に飲んでおくのが、血漿の量を増やさずに、水分補給ができるというのが、ダイバーのよい心がけといえそうであります。

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PROFILE
1964年にダイビングを始め、インストラクター制度の導入に務めるなど、PADIナンバー“伝説の2桁”を誇るダイビング界の生き字引。
インストラクターをやめ、マスコミを定年退職した今は、ギターとB級グルメが楽しみの日々。
つねづね自由に住居を脱ぎかえるヤドカリの地味・自由さにあこがれる。
ダイコンよりテーブル、マンタよりホンダワラの中のメバルが好き。
本名の唐沢嘉昭で、ダイビングマニュアルをはじめ、ダイビング関連の訳書多数。
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