最大水深24mで減圧症!? たったの1本で罹患した減圧症事例
第11話の今回からは、数回に分けて、実際に減圧症に罹患されたダイバーの方のダイブプロファイルの中から様々なパターンをあげて、どういう潜り方をすると減圧症に罹患する可能性があるかということをご説明して行きたいと思います。
減圧症罹患の二大要因は
体内窒素蓄積過多と浮上速度違反
さて、皆さんは、減圧症は病気だと思われますか?
確かに、減圧症を治療する観点からすると、怪我ではないと言えるでしょう。
しかし、その発症プロセスを考えると、非常に怪我に近いものだと言えると思います。
減圧症になぜ罹患するのか?
その答えは、体質や体調などの個人差も大きな要因ではあるものの、「何か潜り方に問題があった」ということに他ならないと私は思っています。
ですから、私は減圧症に罹患したダイバーが、どのようなダイビングを行ったかを徹底的に分析していけば、自ずからその発症要因の大部分が究明できると考えています。
これまでの記事でもご紹介していますが、上のランキングは、これまで私が独自に分析して来た減圧症罹患者のダイブプロファイル傾向です。
この中で特に着目して頂きたいのは1の項目です。
サンプル数がそれ程多くないとはいえ、「平均水深15m以上、潜水時間45分以上」のダイビングを行ったダイバーが、実に7割近くを占めるのです。
※私の見ている限りでは、減圧症に罹患した連日のダイビングにおいては、最後のダイビングから3日以内あたりのいずれかのダイビングが減圧症罹患の要因となっていると考えられます。つまり、すぐに発症する場合と、少し間をおいて発症する場合があるのです。
そして、もう一つの大きな要因は教本などにも書かれている通りの3浮上速度違反です。
浮上速度違反を冒すと、体内窒素の蓄積状況が少なくても罹患の原因となり、体内窒素の蓄積状況が多い場合だと非常に危険だと考えられます。
私見ではありますが、体内窒素の蓄積状態に気を使い、浮上速度違反に気を付ければ、かなりの割合で減圧症罹患リスクを減らせると思っています。
ちなみに、「平均水深15m、潜水時間45分」がどのような潜水軌跡になるかというと、模範潜水パターン(段々浅く)ではこのようになります。
縦軸が水深、横軸が潜水時間で、最大水深は30mまで潜った例です。
皆さんは、この潜水軌跡をご覧になってどう思われますか?
冷静に見てみると、平均的なダイビングよりヘビーなのではないでしょうか?
でも、誰もがこれくらいのダイビングはよくしてしまうのでないかと思います。
こう話している私も、減圧症の研究を始める前までは、大体7~8本に1本くらいの割合でしていましたし、現在も目的があればこのラインを超えてしまうことはあります。
私が調べている限りでは、この「平均水深15m以上、潜水時間45分以上」という基準より軽い潜水で潜ったダイバーが減圧症に罹患するパターンは、大きく分けて2つあります。
それは、前述の通り、浮上速度違反をしたダイバーと以前減圧症に罹患した経験があるダイバーの二つです。
浮上速度違反は、体内窒素量の蓄積状況に関わらず減圧症を引き起こしますし、減圧症に罹患したダイバーの復帰ダイビングでは、水深10m以下でも減圧症が再発する場合があります。
それ以外に軽いダイビングで減圧症を発症したダイバーは非常に少ないと思っています。
(※無制限ダイビングなどで軽いダイビングを毎日5本とか数日繰り返し、飛行機搭乗によって発症したケースなどはあります)
あくまでも私の感覚ですが、原因不明なのは10%あるかないかです。
専門医が問題ないと言ったダイブプロファイルで一発罹患
それは何故かを考える
では、いよいよ本題。
減圧症に罹患したダイバーの実例を見てみましょう。
下の図は、とある女性ダイバーのダイブプロファイルをシミュレーターで作ったものです。
※現在もこの方は手の痺れなどの後遺症に悩まされ、以後ダイビングはされていません。
この関西在住の20代の女性ダイバーの情報は、たった1本のダイビングで減圧症を発症されたということ。
※非常に軽い2本目のダイビングをされていますが、既にその時点で兆候が出ていたそうです。
そして、最大水深24m、平均水深17m、潜水時間49分で、5m3分の安全停止を実行し、無減圧潜水時間を守り、急浮上もしていないということでした。
実際のダイブプロファイルデータはありませんでしたので、シミュレーターを使って潜水軌跡を描いてみると、このようなデータができ上がりました。
最大水深の割に平均水深が深いことから、かなりの箱型潜水を行ったことが推定できます。
治療を担当した専門医は「ダイビング自体に問題はない」とおっしゃったそうですが、私の分析では「減圧症になっても全く不思議ではないダイビング」と言わざるを得ません。
※誰もがこのダイビングで減圧症になるという意味ではなく、殆どの人は罹患しません。危険なゾーンの入口に入ったという意味です。
図の赤い部分は、TUSAのダイブコンピュータであれば減圧潜水状態なので、若干違う潜水軌跡でも減圧潜水になっていた可能性が高いことを示しています。
ダイビング中の最大体内窒素圧(量)は上のグラフの通りで、TUSAのダイブコンピュータでは、ご覧のように左から三番目のハーフタイム20分のコンパートメント、四番目の同30分のコンパートメント、そして、五番目の45分のコンパートメントの3つがM値(100%)を超えて、減圧潜水となっています。
つまり、TUSAのダイブコンピュータであれば、トリプル減圧潜水状態になっていたのです。
一般的には「減圧潜水をしたかどうか」と言うことが大きな発症要因の基準になっています。
もちろん、これ自体は否定されるべきものではないのですが、メーカーの違いや機種の違いによって、特に浅い水深では減圧潜水になったり、ならなかったりするので、もっと同じ視点で分析できる事に要因はしぼられるべきだと言えるでしょう。
そして、こちらがダイビング終了時点の体内窒素圧状態です。
左から四番目のハーフタイム30分のコンパートメントはM値に対して90%、そして、同五番目の45分のコンパートメントは91%を示しています。
水深15m~19mあたりでは、窒素の吸排出の速いハーフタイム5分コンパートメント、10分コンパートメントあたりは無減圧潜水時間に関与しないために、潜水時間が長くなります。
しかし、水圧は結構あるために、体内窒素は満遍なくたまっていきます。
ダイビングの終盤でやや吸排出が遅いコンパートメントに体内窒素がM値近くまで溜まってから浮上して行くと、安全停止をしてもご覧のように体内窒素圧が高いコンパートメントを抱えたまま浮上してしまうことになってしまいます。
よって、このケースの場合は、体内窒素圧がダイビング中にM値を超えたことと、浮上時点で減圧不足が起きたために、罹患してしまったと考えられるのです。
ちなみに、途中でご紹介した「最大水深30m、平均水深15m、潜水時間45分の模範潜水パターン(段々浅く)」の場合は、浮上時点の体内窒素圧(量)は以下の通りです。
体内窒素圧の最大値は左から五番目のハーフタイム45分コンパートメントの74%と、平均水深と潜水時間が違うこともありますが、罹患例とは全然異なることがよくお分かりではないかと思います。
このように模範潜水パターンで潜ることは、体内窒素圧を無理なく浮上時に下げることができて減圧症予防にとても有効です。
逆に箱型潜水は、中途半端な水深で無減圧潜水時間ギリギリまで潜ると、とても危険になることをぜひ肝に銘じていただければと思います。
さて、今回はここまでです。
次回も減圧症罹患者のダイブプロファイルから、違う事例を取り上げて解説しますね。
★今村さんが書いたダイバー必読の減圧症予防法テキスト