2本目が深いと不利なわけ

この記事は約4分で読めます。

■前回→Q.2本目が深くなってしまうのですが……

ダイビング暦45年・やどかり仙人のアップアップ相談室

まず、現在のダイビングのもとになっている減圧理論のおさらい。

人の体には窒素が溶け込みやすい組織と
そうでない組織があると考えられています。
例えば、骨のような窒素が溶け込みにくい組織は〝遅い組織〟、
血液のように溶け込みやすい組織は〝早い組織〟といった風に。
これもあくまで理論上の話ですが。

そこで、窒素の吸収と排出のスピード
(つまり時間差と、また耐える圧力差)によって、
人間の体をいくつかのグループに勝手に分けて計算しているのです。
あくまでも勝手に分けた、理屈上の話であります。

そして、
深いダイブをすれば、人体は早く窒素を溶け込ませる。
また長いダイビングをすれば、多くのグループにまんべんなく窒素がたまる
という、非常にかんたんな原理とだけご説明しておきましょう。

結果、浅ければ長くダイビングができ、
深ければ短時間のダイビングしかできないということになります。

問題はこの深いダイブと浅いダイブの組み合わせ方で、
ひどく効率の悪いダイビングになっちまうことなのであります。

では、ご質問の浅いところを先に潜るダイブと
深いところを先に潜るダイブをダイブテーブル(PADIのRDPで)で
計算して比較してみましょう。

■1回目12m/60分(浅くて長い)のダイビングで2時間お休みした場合、
2回目24mで潜れる時間は最大21分。1回目と2回目のトータル81分です。

■1回目24m/21分(深くて短い)のダイビングで2時間でお休みした場合、
2回目12mは最大124分。なんとトータルで145分という勘定になるわけです。

これじゃ、どう考えても、
深いほうを先にやるフォワードプロファイルのほうが効率が良く、
わざわざ浅い方を先にする理由はないということになります。

それだけじゃありません。

1回目の12mを空気がもつからといって長くすれば、
2本目の24mは限りなく短くなり、
現実的には時間制限の枠をいとも簡単に越えてしまう
リスキーなになるというのが、
リバースプロファイル禁止ルールの理屈です。
ま、言ってみれば「わざわざすることないよ」というのが、
どんどんエスカレートして「してはいけない」となっていったらしい。

でも、間違ってはいけないのは、
これが即「浅いダイビングから始めると危険」ということではないことです。

現在、浅い方を先にやるダイビングも、深いほうを先にやるダイビングも、
しっかりとダイブテーブルあるいはダイブコンピューターで指示され
た時間と深度を守れば、人体への生理的な影響の違いはない

ろう
といわれています。
ただ人体が窒素を貯めておける許容量に達する時間がまるで違うってことです。

ちょっと難しい表現になっちまうけど、こんな風にもいえます。

浅くて長いダイブで飽和に近づいている組織に、深い再ダイブは、
深度の増加による、さらなる飽和を押しつけることになる
(DANヨーロッパ)。

しちゃいけないわけではないことが分かったところで、
では際限なく2回目が深くてもよいのかとなると、
安全なリバースプロファイルの深度差は12mぐらい
(例えば1本目が12mだとしたら、2本目は24mいないが安全)
だという学者しかも大先生もおられるので、
こんなところを心得ておいたほうがよろしかろうと思うのであります。

最後に。

出たとこ勝負のコンピューターダイビングは1回のダイビング中にも、
このフォワードとリバースプロファイルを繰り返しているようなもので、
深いダイブを先にやるほうが良い点が見えにくくなっているのも事実。
心すべしであります。

コンピューター全盛の昨今でありますが、
たまにはダイブテーブルでプラニングやダイブ後のチェックを行なうと、
全体的なダイビングのイメージができて、より視野が広がるとも思うのですがね。

余計なお世話って言われそうですが……。

\メルマガ会員募集中/

週に2回、今読んで欲しいオーシャナの記事をピックアップしてお届けします♪
メールアドレスを入力して簡単登録はこちらから↓↓

PROFILE
1964年にダイビングを始め、インストラクター制度の導入に務めるなど、PADIナンバー“伝説の2桁”を誇るダイビング界の生き字引。
インストラクターをやめ、マスコミを定年退職した今は、ギターとB級グルメが楽しみの日々。
つねづね自由に住居を脱ぎかえるヤドカリの地味・自由さにあこがれる。
ダイコンよりテーブル、マンタよりホンダワラの中のメバルが好き。
本名の唐沢嘉昭で、ダイビングマニュアルをはじめ、ダイビング関連の訳書多数。
FOLLOW