サメは危険は本当? 専門家とサメの素顔に迫るPart1
今年の夏以降、千葉や茨城などの国内で「サメが出没」「サメに襲われた」というニュースをよく耳にする。その影響から遊泳禁止になってしまう海水浴場もあるほど。しかし、サメは「人をも襲う凶暴な生き物」というイメージだけが先行し、実際の性格や人に噛み付く理由などの情報を知る機会は少ないのではと感じている。そこで今回、世界屈指のサメの研究を行う「沖縄美ら島財団総合研究センター」の上席研究員である佐藤圭一先生(以下、佐藤先生)に、サメ出没の原因についてお話を伺った。海の食物連鎖の頂点に君臨するハンター“サメ”の素顔に迫っていこう。
オーシャナ編集部
サメが私たちの身近な海域に出没する回数は増えているのでしょうか?
佐藤先生
実は出没する回数が増えているというわけではなくて、サメに関するニュースの報道回数が増えただけなんです。むしろサメの数自体は減っています。
オーシャナ編集部
報道される回数が増えた??
佐藤先生
報道される回数が増えている一因として情報通信やSNSの発達が考えられます。海でサメを目撃したら、スマホを使ってすぐに情報を発信し、瞬く間に世界中へと情報が広がっていきますからね。
オーシャナ編集部
水温の変化によるサメ出没範囲の変化はあるのでしょうか?
佐藤先生
水温の変化は少なからず関係しています。水温が1度2度違うと、私たち人間にとっては大差ないのですが、魚類にとっては大きな差になり、生息域がかなり変化します。水温の上昇により、サメが捕食する魚が北上し、それを追ってサメも北上。そうすると今までいなかったようなサメが出没する可能性はありますね。
オーシャナ編集部
サメには「怖い」というイメージが浸透していますが、本当のところどうなのでしょうか?
佐藤先生
サメの存在自体はそこまで危険ではないと思っています。サメが人間にどのぐらいの被害を与えているか考えたとき、不意打ちのようなシャークアタック(サメの襲撃)によって、大きな怪我や死亡したりする件数は1年間に世界で1桁ぐらいです。
オーシャナ編集部
そんなに少ないのですね!他の生き物と比べてもサメによる被害は少なさそうですね。
佐藤先生
はい、熊であれば日本だけでも世界のシャークアタックの数を超えます。ハチに刺されて亡くなる方も世界で何千人もいるはずです。毒のあるクラゲもサメより多くの死者を出し、ダニも感染症を引き起こすので、非常に危険だと思います。他の生き物と比べるとサメによる被害はとても少ないことがわかります。そもそもサメに出会う確率ってものすごく低くて、会いたくてもそんなに会えるものではない。それを考えると、そこまでサメを怖がる必要があるのだろうかと思っています。
オーシャナ編集部
サメの被害は少ないとのことですが、その中でもサメが人間に噛み付いてしまう理由は何でしょうか?
佐藤先生
サメは水面に浮かんでいる生き物を積極的に食べる傾向があります。サメの胃袋を調査していて、よく出てくるのがウミガメやイルカ、鳥など。鳥は水面に浮かんでいるところ、イルカは弱って浮かんでいるところを食べられたのだと思います。死んで漂流しているクジラを群がって食べていたりもします。つまり、水面や水中でプカプカと浮いているものというのはサメの興味を惹くのです。なのでサーファーが水面で波を待っている状態はサメの興味をそそってしまい、噛み付いてしまうのではないかと考えられます。
オーシャナ編集部
人間に噛み付くサメの種類は多いのでしょうか?
佐藤先生
サメは約500種類以上いますが、そのうち人間に噛み付くサメは恐らく1割にも満たないです。さらにシャークアタックをしてくるサメというと、ホホジロザメ、メジロザメ、イタチザメという3種類ぐらいしかいません。ホホジロザメは本州付近に生息してはいますが、かなり数も減っていて、いまでは見たくても見られないほど貴重な生き物になってしまっています。メジロザメとイタチザメは比較的暖かい海を好むので沖縄にはいますが、沖縄に20年住んでいる私でさえ、シャークアタックの件数は数えるほどしかないですね。 サメが直接の原因で死亡した例もないです。
オーシャナ編集部
サメは攻撃的ではない、ということなのでしょうか?
佐藤先生
確かにサメに面と向かって遭遇してしまったら、怖いと思います。私でも怖いです。しかし、もしそのよう場面に遭遇してしまってもサメが積極的に人を襲ってくるということはないです。実はサメは、かなり神経質ですし、少しのことで驚いて逃げてしまうくらい臆病なんです。なので、サメと人間が遭遇したとき、人間だけでなく、サメもビックリしているんですよ。だからサメが人間に噛み付くことは滅多にしません。
オーシャナ編集部
ダイバーに対しての攻撃は…?
佐藤先生
ダイバーもサメに噛まれることは少ないと思います。ダイバーが潜るのは、ある程度透明度が高くて、サンゴ礁がある海が多いですよね。そういった海はサメが食べる大型の生き物も生息していないので、人を襲うようなホホジロザメといったサメが登場するような場所ではないのです。また、ダイビングは2人以上で行うことが、ほとんどだと思います。そのときにサメと遭遇したとしても、サメ側が人間の多さにビックリしているので、積極的に攻撃してくることは滅多にないですね。
オーシャナ編集部
海水浴場でサメに遭遇したときの対処法はありますか?
佐藤先生
海水浴場にサメが出たとしても小さいものがほとんどだと思うので、もし遭遇してしまった場合は冷静にその場を離れるのがいいと思います。こちらから何かしなければ噛まれたりすることは、まずないかと。ただ、サメは頭のところに敏感なセンサーがたくさん付いていて、レーダーのような働きをするんです。なので、そこに手や足を出すと、サメは反射的に噛み付く性質を持っているので注意が必要。怖がる必要はないですが、小さいからといって、ちょっかいを出すのはやめてくださいね。
オーシャナ編集部
サーファーができる対象法はありますか?
佐藤先生
確実な対処法というのは難しいですが、一番はサメがたくさん出る場所には行かないことですね。それでも、いい波を求めてサメが出やすい場所にどうしても行く場合は、1人で絶対に行かないこと。複数人いた方がサメの発見も早くなりますし、万が一噛みつかれたときにすぐ対処ができます。日本では、ホホジロザメが出現したりするような場所は数少ないですが、数年に一度はサーファーが足を噛まれたという事故があるので、危険性があることは頭に入れておいて欲しいです。
取材してみて
サメが神経質で臆病な生き物ということは知らなかった。決して甘く見るわけではないが、サメに対して可愛いという気持ちさえ芽生えてきた。私と同じように、イメージが変化した方もいるのではないだろうか。「相次ぐサメの出没。専門家にお話を伺い、サメの素顔に迫るPart2」では、数が激減してしまっているサメの実態について、ご紹介していく。お楽しみに!
佐藤圭一先生について
専門分野は、軟骨魚類学。研究内容は、軟骨魚類(サメ・エイ類)の生態・生理・繁殖学的研究。