ユニバーサル・スタジオ・ジャパンにも潜水のプロ集団がいた。彼らがいないとラグーンが〇〇だらけになる…?
“海に潜る仕事”と言われて何を浮かべるだろうか。きっとダイビングガイドや海上保安庁はすぐに思い浮かぶかもしれない。しかし海をはじめとする水辺にダイバーとして潜る仕事には、私たちのインフラを支えるものから、そんなことまでしていたの!? というような意外なものまで実は多岐にわたる。本シリーズはそんな海や水辺の仕事にダイバーとして携わる知られざる影の立役者にフォーカスする企画。
今回取材したのは皆さんも1度は訪れたことがあるかもしれない、大阪府にあるテーマパーク「ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(以下、パーク)」の潜水チーム。パークの潜水チーム立ち上げの第一人者である山田幸司氏(以下、山田氏)に潜水チーム立ち上げの理由や知られざる活動内容を伺っていこうと思う。
ユニバーサル・スタジオ・ジャパンでダイバーは何をしている!?
編集部(以下、——)
まずパークでダイバーが行う仕事というのは、どのようなものがあるのでしょうか?
山田氏
大きく分けて2つの仕事があります。ラグーン(※1)の浚渫作業(※2)と、ラグーンの落下物の収集・落下者のレスキューです。
まずラグーンの浚渫作業は、一言でいうとラグーンの底に発生する藻をゲストの目に触れる前に回収する、というものです。水深2mのラグーンは淡水で満たされているのですが、ラグーンの底には自然と藻が発生します。この藻は光合成をして、酸素を蓄え成長するといずれ、ラグーン一面に浮いてくるんです。これがまたかなりの量でして。
美しい見栄えのラグーンを維持するために、この藻が浮いてくる前に刈り取って一箇所に集めて、ホースで浚渫艇に吸い上げる作業をしています。この作業は週に5回、ゲストをお迎えする前の朝5時くらいから作業を開始して、1時間半から2時間ほどの作業を行い、開園前に終わらせます。
山田氏
ラグーンの落下物の収集は、ゲストがラグーンに落とし物をしたときに回収してゲストに引き渡すものです。やはり落下物には携帯電話が多くて、他には靴や指輪などを落とされる方がいらっしゃいます。過去には、隙間のあるデッキの上で結婚指輪をプレゼントしようとしたときに落ちてしまったことがありました。大きいものだと船の上からハンドキャッチャーなどで取るのですが、小さなものは潜水して手探りで探すので、なかなか見つからないときもあります。落下物をすぐに見つけるためにも、浚渫作業で藻を回収し、常に綺麗な状態に保っておくことが大切です。
山田氏
落下者のレスキューに関しては、何かの拍子に落水するゲストも稀にいて、そういったときにレスキュー艇を出して迅速に救助を行います。この他にも浚渫艇とレスキュー艇の維持管理やコンクリートの目地の補修なども仕事のひとつです。
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1番大変な作業は何ですか?
山田氏
浚渫作業ですね。広範囲にわたるラグーンの底全体を2名1組でヘラを使って藻を削って、水流を作りながら藻を集めて、それを一気に吸い取るという作業なので、忍耐力と集中力が求められる仕事です。
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なかなか想像がつきませんが、ひたすら藻と向き合い、黙々と作業をするのですね。
※1:パークのほぼ中央にある大きなラグーン(池)。ここは、パークの各エリアから見える場所で、ショーを行ったりもする場所。
※2:河川や港湾などで水底の土砂等を掘りあげる工事のこと。
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“潜水のプロ集団”の結成理由とは?
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今お伺いしたラグーンの浚渫作業と、ラグーンの落下物の収集・落下者のレスキューは「潜水チーム」が行っているとのことなのですが、この潜水チームを結成した理由を教えてください。
山田氏
潜水チームが結成される前は、レスキュー艇などを運転する「操船業務」と浚渫作業を行う「ラグーン管理業務」があり、別のアトラクションのセクションがこの業務を行っていました。しかし、パークの中心にあるラグーンから1番近くて、かつ24時間対応ができるのが、私が所属しているロジスティックセクション(※3)なので、このセクションに船舶免許とダイビング資格、そして潜水士免許を持った操船と潜水のスペシャリストを集めたら、常にきれいなラグーンを提供できるんじゃないか?と思ったのが潜水チーム結成のきっかけです。ラグーンも1つのアトラクションのような感じで、ゲストに感動を与えたいという思いがあったんですよね。現在、結成から約3年が経ち、チーム員は5名で、最近は少しずつ20〜30代の若いスタッフも増えました。
——
なるほど。ロジスティックセクションの中に結成された潜水チームなのですね。今後の目標などはございますか?
山田氏
今、ラグーン以外にも水を扱っているアトラクション(ジュラシックパークやウォーターワールド、ジョーズなど)がありますが、管理は各アトラクションのセクションに所属する潜水士が私たちの潜水チームとは別で担っています。そういった潜水士を集めて、一括でパーク内の水辺を統括できれば、技術的にも安全性的にもさらに良くなっていくのではないかと思っています。
※3:アトラクションやショー、施設などのメンテナンスに必要なさまざまな部品・資材を管理しているセクション。潜水業務以外の時間は、ロジスティック事務所や社外倉庫などにて、受入検品及び入出庫業務等も行う。
ユニバーサル・スタジオ・ジャパンの影の立役者ならではのやりがい
山田氏
所属はロジスティックセクションではありますが、“潜水チーム”として潜水作業を行うことで、チームメンバーのプロ意識やモチベーションは高く保てていると思います。特に、浚渫作業は重労働ですが、清掃すればするほどラグーンが目に見えて綺麗になっていき、それを見たゲストやクルーから「ラグーン綺麗になったよね」という声をいただくと、最高のやりがいを感じますね。
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やっぱり皆さんラグーンの綺麗さに気づくんですね。パークの中心部にあるラグーンが、ゲストに癒しや非日常的な感覚を与えていると思うと、やりがいになりますね。
山田氏
そうなんです。あと、落下物の収集は、ゲストの目の前で作業をすることになるので、指輪や大切なものなどを、ゲストにお返しできたときは、ゲストも本当に喜ばれるので、その姿を見るだけでこちらもとても嬉しくなりますね。
今後は、海洋保全にも貢献していきたい
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潜水チームでパーク内だけでなく、海洋保全といった地域貢献も考えているとお伺いしました。
山田氏
はい、潜水チームを設立した際に、ゆくゆくはそういった活動もできるチームにしようと考えていました。パークには世界中からゲストが訪れるので、そんな方々が大阪の海を見たときに綺麗と思ってもらえるような環境を作っていきたいですね。パークのある場所自体が海を埋め立てている場所でもありますから。
——
パークだけでなく、“大阪の海全体を綺麗に”ですね。
山田氏
そうですね。ユニバーサル・スタジオ・ジャパンは地域の理解があってこそ成り立っているものなので、例えば子どもに無料で食事を提供する「子ども食堂」だったり、大学にユニバーサル・スタジオ・ジャパンの観光学を出前授業させていただいたり、他にも難病の子どもたちをパークへ招待したりと、地元の子どもたち支援を中心に地域貢献活動を行ってきました。しかしまだ、海洋保全などの海に関する分野は着手できていないところがあるので、大阪湾での海底清掃や藻場の再生活動などを通じた地域貢献の取り組みにも、今後拡大していければと考えています。
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ocean+αともコラボして、海洋保全ができたらなと思います。山田さん、ありがとうございました。
次にユニバーサル・スタジオ・ジャパンに行くときには、ぜひラグーンに注目して見てみよう。ゲストにラグーンもアトラクションの1つとして楽しんでもらいたいという山田氏の想いから結成された、潜水チームの努力がきっと目に見えてわかるはず。今後も地域に密着したテーマパークとして、潜水チームの活躍を追っていきたい。