ユリス・ナルダン、漁網をアップサイクルしウォッチベルトに

「オーシャン・クリーンアップ」の海洋学者ロラン・ルブルトン氏の研究によれば、太平洋ゴミベルトから算出されたゴミの46%は漁網だったという(2018年)。漁具が環境問題に深刻な影響を与える中で、もっとも大きな脅威となっている漁網は、漁業関係者の間でも課題となっているのだ。
 そんな中、時計マニュファクチュールであるユリス・ナルダンは、プラスチックによる海洋汚染に警鐘を鳴らし、漁網をアップサイクルした新たなストラップを発表した。
 

Text:Nodoka Sekido

数字で見る海洋プラスチック問題の現状

·毎年、900万トンのプラスチックが海に流されている(科学)
·1年間に3億5千万トンのプラスチックが製造されている(UNO)
·1990年代以降に流されたプラスチックのほとんどが、まだ分解を始めていない(科学報告書)
·毎年、64万トンの漁網が紛失あるいは廃棄されている(UNO)
·太平洋の渦で見つかったプラスチックの46%が漁網からもたらされたもの(UNO)
·廃棄された網によって、毎年約10万頭の鯨、イルカ、アシカ、アザラシ、カメが死んでいる(世界動物保護協会)
·この文章を読んでいる間に、80トンのプラスチックが海に流されることになるだろう

ベン・ルコントによる海洋汚染の警告

持続可能なラグジュアリーと海洋環境の保護への取り組みを確実に実行するため、時計マニュファクチュールであるユリス・ナルダンは漁網をリサイクルした初のストラップを製造し、スイマーで冒険家でもあるベン・ルコントによる海洋汚染の警告に対する意識を促すことを決定した。最も新しいアンバサダーとして、ベンを「ユリシーズ」ファミリーに迎えるのだ。

 毎年900万トンものプラスチックが海に流されている。スイマーであるベン・ルコントは、その状況を最前線で目の当たりにし、「私はプラスチックが海洋環境に与える影響を見てきました。最も小さな生物から最も大きな生物にいたるまで、そのすべてに影響を及ぼしているのです。」と述べている。

 1998年、ベンは史上初めてビート板を使用せず太西洋横断を成し遂げた人物で、この挑戦はがん研究の資金集めのために行われた。それから20年後の2018年に彼は太平洋横断に挑み、その1,500海里を超える海上で過ごす日々の6カ月目に、彼に伴走したボートに問題が生じたために挑戦を断念した。冒険は終了したものの、彼には海洋汚染に対する恐怖のような気持ちが残ったのだ。
 鯨、イルカ、アホウドリ、美しい海洋生物、そして壮大な自然の力を肌で感じるという忘れがたい165日が過ぎ、ベンの印象に残ったのは、日々海で出会うプラスチックの量だった。
「私はこの壮大でありつつも許しがたい光景に圧倒される思いでした。スポーツとしての挑戦がもはや私にとって目標にはならないことが、このときはっきりとわかったのです。汚染についての意識を高めるという使命が、はるかに重要となりました。」

 2019年、彼はプラスチックが漂う太平洋の渦への遠泳に再度出発。1997年にヨットマンのチャールズ・ムーアが発見した「太平洋ゴミベルト」は、海流が渦巻きゴミが集積する領域だ。

 「ゴミに乗ってさまよう小さなカニが、避難しようと浮遊するプラスチックを残して私のところに登ってきました。カニたちはこのプラスチックによって、海岸から遠く離れたこの場所まで運ばれてきたのです。」
ベンは渦の中心を泳いでいる時、私たちの日常生活で使用する物を含め1分で3個のプラスチックを見つけた。そのほとんどがボトルのキャップだったが、中には釣り道具もあった。「網は大抵ボールに絡まっていて、明らかに船外に投げ捨てられたと思われるロープで一つにまとまっています。」
 悲しいことに、廃棄された網によって、毎年約10万頭もの鯨やイルカ、アシカ、アザラシ、カメが死んでいる。

「大きな塊に直面する時には、ある種の複雑な心境を覚えます。海の生き物たちが私をそこへ導いてくれるからです。彼らには恐れがなく、それ自体はエキサイティングなことです。」

 プラスチックは完全に分解することはない。極めて細かな粒子になるまで小さくなるものの、そのためにさらなる害を及ぼす可能性が高まる。「私は果てしなく続く大量の紙吹雪のようなものを見つけました。マイクロプラスチックが集積しているところを泳ぐことは、まるで吹雪の中を渡るかのようです。実際この薄片は何百万ものプラスチック粒子なのです。これは大問題だと感じ動揺しました。」

 「渦を泳ぐ」というこの使命を遂行する間、ベン・ルコントは300海里以上を泳ぎ、毎年3億トン以上も製造されるプラスチックについて警鐘を鳴らした。彼はプラスチックによる汚染を根本から減らす必要があると確信している。
 

漁網をリサイクルした時計ストラップを発表

 ベンのメッセージに応えるため、ユリス・ナルダンは漁網を完全にリサイクルした革新的なポリアミドの糸を採用し、新しいリストストラップを作り上げた。このストラップはユリス・ナルダン初の100%の防水キャンバス製。エッジの編み込みは頑丈な造りで、ほつれを防ぎ摩耗に耐える(マーチンデール摩耗試験)。
 (100%漁網製の)YTT+糸を供給するJTTi(企業)による押し出し成形の前に染色を行うことにより、ブラックカラーは均一になり製造中に水を使用しないという、環境保護における大きなメリットも得られる。

「ユリス・ナルダンは海洋環境に極めて身近な存在であり、私は人々が長年にわたって使用してきたウォッチがどう進化を遂げるのかを興味深く見守りたいと思います。ビジネス全体は変化し、より循環型のモデルで新しい状況や需要に対応しつつあります。この循環型経済の取り組みを高級品に採用するは極めてユニークなことです。この時計のためにプラスチックが新たに製造されることはありません。なぜなら既存のプラスチックが使用されているからです。海中ではプラスチックは汚染物質です。私の手首ではそれは強力な道具となります。」と熱く語るベンは、今回のキャンペーンのアンバサダーを務めるにふさわしい。

 海を泳いで横断する際、また果てしなく続くように思われるごみやくずの渦を冒険する際、ベンにとって時間は最も重要なもの。したがって、時計メーカーとの協働は彼にとって一層意味のあることなのだ。というのも彼と時間との関係は、彼が泳ぐ時により際立つのだから。
 「私の心と体は分かれています。体は自動操縦モードで泳いでいます。私は泳ぐ時、時間を圧縮します。時間は分になり、分は秒になります。私は呼吸、心臓、そしてその鼓動に集中します。数時間泳いでいる間私は我に返り、そのたびにその時間をビジュアル化します。そしてその必要を感じれば時計を見て、その時刻を頼りに泳ぎを続けるのです。」

深刻化する海洋汚染問題。漁具と聞くと、つい自分たちとは関係性が薄く感じてしまうかもしれない。
しかし、それらの汚染ゴミを活用し減らしていくことは、私たちの生活の中でも実践できる何かがあるはずだ。
ユリス・ナルダン、またベン・ルコントの活動に続き、私たちも一歩ずつ動き出そう。

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