事故者の落ち度とされたアドバンス講習中のダイビング死亡事故

この記事は約5分で読めます。

アドバンス講習中の事故

今回ご紹介するのは、1泊2日のアドバンス講習中に発生したダイビング事故です。

セブ島の魚の群れとダイバー(撮影:越智隆治)

2グループに分かれ、1グループの人数は受講生は3名、インストラクターは1名の割合でした。
(このインストラクターを、インストラクターAとします)

事故者は半年ほどブランクがあったため、インストラクターAは慎重に監視をしてましたが、1日目には特段の問題はなく、中性浮力も問題なくとれ、ナイトダイビングでも落ち着いて行動をしていました。

2日目はボート講習が行われました。
この日の海洋状況はうねり1メートル、流れ若干、水温は24度で、透明度は3メートル程度でした。

事故者が乗船していたボートには他のグループも乗っており、またその他にもボートが出ていて、少し現場周辺は込み合っていました。

先にエントリーした他のグループのダイバーが少し流されぎみになっていたため、インストラクターAはブイ集合を指示し、「流されないように必ずロープをつかんで下さい」と声をかけ、その後、3名の受講生はエントリーしました。

エントリー後に海面移動を行って受講生3名ともブイにつかまった後、インストラクターAは「ブイのロープにつかまって水深3メートルまで潜降してください」と指示をしました。
インストラクターAは先に潜降して海中で待っていましたが、受講生らが降りてこないため、水面まで浮上し、様子を確認しました。

受講生3名はまだブイにつかまっていましたが、他のグループも同じブイにつかまっていたため、ブイ付近が混み合ってもたついている状況でした。

インストラクターAは再度、受講生に潜降の指示をした後、海中で上を見ながら受講生が降りてくるのを待っていました。
まず1名の受講生が降り、続いてもう1名受講生が潜降し始めましたが、半分位降りたところで、ロープから手を離してしまいました。

インストラクターAは受講生のところまで泳いで行って、ロープまで受講生を戻しました。
そしてその時、当該受講生のバディである事故者がロープを伝わって潜降していないことに気づきました。

バディの受講生にハンドシグナルで尋ねても分からず、海面にはまだ数名のダイバーがブイに掴まっていたため、事故者がその中にいるかもしれないと思い、インストラクターAは再度、海面に浮上しました。

そして海面で、別のグループを引率していたインストラクターBから、事故者がブイではない別の場所から潜ってしまったことを聞いたのです。
 

別グループのインストラクターBが見た状況

インストラクターBは船の上からブイまで泳いでいくダイバーらを監視していたのですが、ブイから少し離れた地点にいた事故者に気付くと「大丈夫ですか。BCに空気を入れてください」と声をかけたということです。

しかし、それを聞いた事故者はOKとハンドシグナルを出した後、左手でパワーインフレーターを上に持ち上げ、BCの中の空気を抜いて、ブイから少し離れた地点で潜降してしまったのです。

予想外の行動をした事故者にインストラクターBは少し驚きましたが、事故者がパニックを起こしている状況ではなく、潜降する前にOKサインを出していたこと、事故者が潜降した海面付近にダイバーが出す泡が浮かんでいたことなどから、事故者を引率していたインストラクターAがすぐ下にいるのだろうと考えたということです。

しかし、インストラクターAは事故者が潜降した場所にはおらず、事故者もそのことは知っていたはずでした。

捜索が行われ、水深37.9メートルの水底で事故者が発見されました。

事故者はレギュレーターは口から外れていましたが、マスクは装着したままで、残圧も130残っていました。

この事故訴訟についての総括

この件は、インストラクターAに責任がなく、不処分相当であるという意見書を提出し、また、検察官にも直接お会いしてその旨の話をしました。
刑事処分も受けていませんし、また、民事でも特段の請求を受けませんでした。

「必ずロープに掴まってください」「ロープに掴まって降りてください」というインストラクターAの指示を無視し、事故者がどうしてロープを手から離してしまったのかわかりませんが、Cカードを有していたダイバーであれば必ず守ることができたはずです。

また、インストラクターBが「BCに空気を入れてください」と海面での浮力を確保するように指示をしたのに対し、OKサインを出しながら、BCからエアを抜いてしまった理由もわかりませんが、これも事故者の落ち度です。

パワーインフレーターを上に上げていたことから、事故者は明確にその場所で潜降する意思があったのだと考えられ、また、万一、操作を間違えたとしてもBCにエアを入れて浮上することもCカードを有しているダイバーであればできるはずでした。
海中ではぐれた際の1分間ルールに反していることも明らかです。

前日の講習でスキルをこなしていたために、自信があったのかもしれませんが、インストラクターの指示をきちんと守らなかったがために事故に遭遇し、命を落としてしまいました。

このような事故では、インストラクターの責任を問うことはできません。
ダイビングの基本は「自己責任」であることを再確認しましょう。

■その他の潜水事故に関する過去記事はこちら

\メルマガ会員募集中/

週に2回、今読んで欲しいオーシャナの記事をピックアップしてお届けします♪
メールアドレスを入力して簡単登録はこちらから↓↓

writer
PROFILE
近年、日本で最も多いと言ってよいほど、ダイビング事故訴訟を担当している弁護士。
“現場を見たい”との思いから自身もダイバーになり、より現実を知る立場から、ダイビングを知らない裁判官へ伝えるために問題提起を続けている。
 
■経歴
青山学院大学経済学部経済学科卒業
平成12年10月司法修習終了(53期)
平成17年シリウス総合法律事務所準パートナー
平成18年12月公認会計士登録
 
■著書
・事例解説 介護事故における注意義務と責任 (共著・新日本法規)
・事例解説 保育事故における注意義務と責任 (共著・新日本法規)
・事例解説 リハビリ事故における注意義務と責任(共著・新日本法規)
FOLLOW