減圧症に保険は適用されるのか?ダイバーなら知っておきたい保険の話

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ニューカレドニアの魚の群れ(撮影:越智隆治)

傷害保険が適用される条件とは?

ダイビング中に怪我などをしたとき、傷害保険に加入していれば、傷害保険金が支払われることになります。
ただし、傷害保険金の支払を受けるためには、「急激性」、「偶然性」、「外来性」の3つの要件が必要です。

「急激性」とは傷害が発生するまでの間が短時間であること(急激であること)を言います。
従って、時間の経過と共に徐々に蓄積されたものが症状として出現するような靴擦れや腱鞘炎、疲労骨折などは急激性の要件を満たしません。

「偶然性」とは結果発生が偶然であることを言います。
自分で故意に怪我をするなどしたときは、偶然性の要件が満たされないことになります。

「外来性」とは、身体の外部からの作用による傷害であることを言います。
心筋梗塞などの疾病は身体の外部からの作用によるものでないため、外来性の要件を満たしません。

減圧症に傷害保険は適用されるのか?

さて、ダイビングにおいて多い「減圧症」に罹患した場合、傷害保険金は支払ってもらえるのでしょうか。

この点、「減圧症は傷害ではなく、疾病だから傷害保険の要件を満たさない」等の理由で、傷害保険の支払の対象にならないと考えている保険会社も多いようです。

しかし、「ダイバーが海面近くまで浮上し、水圧がかからなった時に、それまで体内に溶けていた窒素が気泡化して体に害を及ぼす」ものですから、「急激性」の要件は満たされると思います。

また、減圧症に故意に罹患しようとするダイバーはいないでしょうから「偶然性」の要件も満たされます。

「水圧の変化」が傷害をもたらしたと考えれば、「外来性」の要件も満たされることになります。

保険会社ごとに「急激性」「偶然性」「外来性」の解釈が若干異なっており、また、特約などによっても変わりますが、「減圧症」に罹患した場合でも傷害保険の適用があるか、確認をした方がいいかと思います。

保険が適用されなかった外リンパ瘻の例

「外リンパ瘻のダイバーに対し、傷害保険が払われないので相談にのってもらえないか」という相談を受けたことがあります。

外リンパ瘻は、上手く耳抜きができなかった時などに、内耳が破裂あるいはひびが入るなどして、難聴や難聴などの症状を起こすものです。

外リンパ瘻はダイビングの際だけに起きるものではなく、鼻をかんだり、くしゃみをしたときなどに突然発症してしまうものですから、当然、「急激性」の要件は満たされると考えられます。

また、外リンパ瘻を発症させようとしてダイビングをしているわけではありませんから「偶然性」も満たします。
また、「水圧の変化」という外来の要件も満たされます。

どうして保険会社は支払ってくれないのだろうと思い、日本損害保険協会が行っているそんぽADRに苦情の申出をしてみました。

何度か、保険会社と当方のそれぞれの言い分を書面で提出するなどのやり取りがありましたが、双方の主張は平行線をたどり、結局、そんぽADRで解決することはできませんでした。

裁判で保険会社に保険金を請求することも考えましたが、幸いなことに通院日数が少なかったなどの事情もあり、訴訟はしませんでした。

保険金を支払わなかった保険会社の言い分としては、「通常のダイビングで今回の事故は発生しており、ダイビングというスポーツの特性上、今回の症状が予見不可能性、不可避性に基づくものとは言い切れず、偶然性を満たしていないものと判断します」などというものでしたが、このような見解をしてしまうと、ダイビングで発生する多くの怪我なども予見することができたことだったとして、傷害保険金が支払われなくなってしまいます。

今考えても、この保険会社の判断には納得できないものがあります。

プロダイバーが入っておくべき賠償責任保険

ダイビングショップやインストラクター、ガイドダイバーは、ダイビング事故が発生した際、注意義務違反がある場合には、当該事故により発生した損害について損害賠償責任を負うことになります。

万一、死亡や重度の後遺障害が発生する事故が発生すると、高額な損害賠償債務を負担することになります(1億円を超える賠償債務を負うこともあります)。

万一、事故が発生した時に、お客様に対して損害賠償責任を果たすためにも、また、インストラクターやガイドダイバーの皆さん自身の為にも、インストラクターやガイドダイバーなどのプロダイバーの方は必ず賠償責任保険に入っていただきたいと思います。

なお、刑事事件において、ガイドダイバーが賠償保険に加入していなかったことが、「不注意で事故を発生させただけでなく、保険にも加入せず、損害賠償責任も全うできていない」として、不利な事情として斟酌された事例もあります。

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PROFILE
近年、日本で最も多いと言ってよいほど、ダイビング事故訴訟を担当している弁護士。
“現場を見たい”との思いから自身もダイバーになり、より現実を知る立場から、ダイビングを知らない裁判官へ伝えるために問題提起を続けている。
 
■経歴
青山学院大学経済学部経済学科卒業
平成12年10月司法修習終了(53期)
平成17年シリウス総合法律事務所準パートナー
平成18年12月公認会計士登録
 
■著書
・事例解説 介護事故における注意義務と責任 (共著・新日本法規)
・事例解説 保育事故における注意義務と責任 (共著・新日本法規)
・事例解説 リハビリ事故における注意義務と責任(共著・新日本法規)
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