DANアメリカの潜水事故レポート翻訳シリーズ(第4回)

強い流れの中での無理なダイビングの結果、複数の怪我を負って溺れた

DAN JAPAN Incident Report

※DANアメリカに寄せられた様々なトラブルレポートから抜粋してご紹介しています。

セブ島ボルホーンのビーチ(撮影:越智隆治)

強い流れの中での無理なダイビングの結果、複数の怪我を負って溺れた。
1本のダイビング中で複数のトラブルに遭遇。

バディと離れ、強い流れに遭遇し、器材の調子も悪く、エア切れになり、負傷…。
結果、溺れてしまった。

報告されたケース

問題のダイビングを始めたのは3:30 p.m.頃でした。
水面はちょっと波立ち始めていました。
ブリーフィングでは、流れに向かって泳ぎ、水中の根(訳注:岩礁)の周辺でマンタを見て戻ると言われました。

まず水深109フィート (33m)に潜降しましたが、最初は問題がありませんでした。
しかし、次第に流れが強くなり、片手で根につかまらないといけない程になったので、水深53フィート(16m)に全員で浮上しました。

この時点で私は、根に両手でつかまっていました。
おそらく根の水深40フィート(12m)のあたりにいたと思います。
ふと周りを見回すと、一緒に潜っていたダイバー達と、4人のダイブマスターの全員がいなくなっていました。
私は進むことも出来ず、手を離すことも出来ませんでした。

この時点で、残圧は1000 psi (68bar)*1でした。
少しの間パニックになりましたが、どう行動するかという考えをまとめ、根を上に向かって登ることにしました。
*1)訳注:1barは約1気圧

ブリーフィングで、根の水深23フィート(7m)のところに強いサージ(うねり)があるので、近づかないようにと言われたのは知っていました。でも、すでにパニックになりそうで、息も切れかけていました。

浅場に達した時、私は岩の割れ目に自分の身体を入れ、冷静になろうとしました。
そして、フロートを上げ、誰かに浮上したことを知らせようとしました。

その時点で、幾つものことが起こりました。根に登る時にぶつけて既にひどく怪我をしていたのに、その上、サージに捕まってひっくり返されました。
右腕の尺骨を折って、さらに、両腕と両足にかなりの裂傷を負いました。

息を吸ってみるとエア切れになっていることが分かりました。
安全停止として水深20フィート(6m) に充分な時間いたと判断し、浮上しました。

その時には、二酸化炭素が体に溜まりすぎていて、かなりパニックになっていました。
BCDや安全ブイに空気を入れようとしてもできず、笛も吹くことが出来ませんでした。

そして、75ヤード(訳注:約68m)ほど離れたボートに気づいてもらうため、何度か叫びました。
ウェイトやBCDを外そうとは考えませんでした。
その時の水面のうねりは4~5フィート(訳注:約1.2~1.5m)で、私は完全に疲れ切って過呼吸になっていました。

その後のことは覚えていません。
恐らく私が水中に沈んでしまったので、ダイブマスターの1人が船から飛び込んで泳いできてくれたのだと思います。

ダイブマスターは私を引き上げ、ゾディアック(訳注:船外機付きのゴムボート)が来るまで支えてくれました。ゾディアックに引き上げる時には器材を外してくれたのですが、その時カメラとGoPro(訳注:小型の水中ビデオの商品名)をなくしました。

その後、酸素タンクの上にうつ伏せになるように寝かせてくれたおかげで、肺から水が出ました。顔色は青いのに、過換気状態でした。
ゾディアックに乗ったのは全く覚えていませんが、バディが言うには船に戻った時にまだ顔色が青かったそうです。
船に移されて酸素を与えられ、ウェットスーツを脱がされました。

6か所に縫う必要のある傷を負いました。
すべてサンゴによってできた切り傷でした。
私は医師としてこれらの傷を縫合しないことにしました。
船にCipro(訳注:抗生物質の商品名)をたくさん持参していたので、飲むことにしました。

また、約20分間純酸素を吸いました。
頭痛がしましたが、生きていることが幸運だと感じました。

私の器材は救助者によって外されていた為、ダイブコンピューターやタンクをすぐに確認することはできませんでした。
後で、私は自分が使っていたBCDにバルブがないことに気づきました。

その日私は、自分の意志に反して浮上を繰り返していました。
1日中バルブなしで潜っていて、これがエア不足になった原因なのかもしれません。
自分のBCDは移動の際に破損してしまい、船で借りて潜っていました。
きちんと器材チェックをしなかったのは、完全なる私のミスです。

この事故で何回か死んでいてもおかしくはなかったと思います。
でも、死ぬ巡りあわせではなかったようでした。水中にはサメがいっぱいで、水深20フィート(6m)にいた時、流れの中に10匹以上のリーフシャークが泳いでいました。
出血していたのですが、サメは1匹も近づいてきませんでした。

この事故の翌日、キャプテンの強い勧めでダイビングを続けました。
結局、9日間の旅程で予定されていた25ダイブ中、17ダイブを潜りました。

ダイバーからの追加の報告

私のバディ達は、私を置いて行った理由を決して言いませんでした。
彼らは根を通り過ぎることは出来ましたが、その後にダイビングを中止し、流されてずっと離れたところに浮上したそうです。

他のダイバー達はただ成り行きに任せ、コントロールされた浮上をするためにBCDに空気を入れて浮上しました。しかし、それでも遠くに流されたそうです。
その後の海況は、おおむね穏やかで、強い流れのダイビングはありませんでした。

事故は全部で6日間のダイビングの最初の日に起きました。
私は、強い流れがあるようなダイビングに申し込むべきではなかった、とブリーフィングの時に心の底から感じました。

しかも、こんな挑戦的なダイビングだということに気付いたのが当日では、遅すぎたのです。
それに、このダイビング会社は「とりあえず海に飛び込んで、終わったら会いましょうね」的な適当な考え方をしていると感じました。
バディシステムについては一切話題に上りませんでした。

この事故の翌日は1日中キャプテンが一緒にダイビングしてくれました(そんなサービスをしてくれるのは今まで聞いたことがありません)。
残りのダイビングはインストラクターと一緒に潜れるように依頼し、一緒に潜れなければ、自分の方から一緒にいるようにしました。

ダイビングクルーズを運営している会社は、事故直後にダイブコンピューターを回収し、タンクを充填しました。両方ともこの会社からレンタルしていたものですが、手元に戻してもらうまで確認をすることが出来ませんでした。
この2つがなかったので、秩序立てて何が起きたのか考えられるようになるまでかなり時間がかかりました。

その晩、より明確に考えをまとめられるようになったので、自分の器材を点検しに行きました。
その時、私のタンクが3000 psi(訳注:約204気圧)に充填され、ダイブウォッチが取り換えられているのを見つけました。

BCDの後ろ部分のバルブがないことを見つけたのも私です。
また、器材を点検している際、BCDからウェイトが1セットなくなっているのにも気づきました。
すぐにキャプテンに見せに行くと、事故の時に外されたに違いないと言っていました。

この2回のダイビングで、エアがあまりにも早くなくなったことや浮き気味だったことなど、様々なトラブルについて説明しようとしましたが、キャプテンは私の主張に同意してくれませんでした。
私がパニックになり、二酸化炭素過剰になったので間違ってBCDの給気ボタンを押してしまっただけで、エア切れではないだろうという意見でした。

今となってはもはや確認できませんが、53フィート(訳注:16m)でゲージを見た時に、1000 psi(訳注:約68気圧)しかなかったことを覚えています。

私は、「エアを大量に消費するダイバー」ではありません。
いつも少なくとも700から900 psi(訳注:約48気圧から61気圧)残して浮上しています。
空気があったら、自分の安全ブイとBCDに給気できていたと思います。

右腕の尺骨は、折れた状態のままダイビングを続けました。
すごく腫れていましたが、重度な血腫だとは2日間気づきませんでした。
骨折はヒビが入っただけでしたので、帰宅してから添え木をしました。

専門家からのコメント

流れの中でのダイビングは、常に危険な活動であり、ダイビング前の適切なリスク評価や十分な計画立案、安全対策が必要です。
ダイビング前のチェックは徹底的かつ綿密に行わなければなりません。

このケースに関しては、私がコメントするのではなく、読者からのコメントを聞く方がよいと思います。
あなたのコメントをDANにお寄せ頂くか、もしくはもし自分が同じ状況になったならどうしたか、を考えてみてください。

– Petar Denoble, M.D., D.Sc.

DAN JAPANの会員専用ページ(MyDAN)にて下記タイトルが読めます。

[Case 12] 強い流れの中での無理なダイビングの結果、複数の怪我を負って溺れた
[Case 13] タンク内ガスの汚染から引き起こされたと推測される、ダイビング後の症状
[Case 14] 浮力チェックなしでインストラクターは最適な浮力が判る?

※こちらからアクセス↓

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