DANアメリカの潜水事故レポート翻訳シリーズ(第11回)

ダイビング後の温水シャワーの後に、発疹、咳、意識消失を経験

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沖縄・恩納村ロケ、スミレナガハナダイの群れ

DAN JAPAN Incident Report

※DANアメリカに寄せられた様々なトラブルレポートから抜粋してご紹介しています。

反復潜水後の温水シャワーの後、チョークスと皮膚の大理石斑、意識消失が発生した。
(2012年、ホンジュラス)

報告されたケース

昨年の旅行の3日目に、3本のダイビングを終了し浮上しました。
そして、自分のダイビングコンピューターを見ると窒素表示が赤に近い黄色ゾーンだったので、不安を感じました。

でも、一緒に潜ったバディ達のダイビングコンピューターも同じ状況だったので、あまり心配し過ぎないことにしました。

その日のダイビングは全て圧縮空気を使用し、3本潜りました。
2本目は水深100フィート(30.6m)、3本目は水深75フィート(23m)に20分潜り、適切な水面休息時間を取っていました。

部屋に戻り、温水でウェットスーツを洗うついでにシャワーを浴びました。
そして、夕食を待っている間、ひどく喉が渇いたので冷たい水を何杯か飲みました。
咳をせずに深い呼吸をすることが困難で、しかも強烈な疲労感があったので、食事が出てくる前に自分の部屋に戻りました。

ダイビング仲間たちは心配し、私が大丈夫かどうか確認をしに部屋まで来てくれました。
「大丈夫?」と聞かれたことは覚えていますが、その後気を失ってしまいました。

彼らが応急処置をしようと私のシャツの前を開けたところ、胸に発疹があることに気付きました。
そのため、リゾートにある酸素を吸わせ、すぐに病院に搬送するように要求してくれました。

病院で精密検査をしたところ、心臓の問題はない、と医療スタッフが判断しました。
そのため、私は20分程離れた再圧チャンバー施設に搬送されました。

再圧チャンバー施設の医師は私を診察し、減圧症の症状のようなものが出ているが、すぐにチャンバーに入るほどに重症ではないと判断しました。

その後、血液検査の結果によると重度の脱水状態だと病院から電話連絡があったので、一晩の経過観察と生理食塩水の点滴のため病院へと戻りました。

その夜遅くに私は再度気を失いましたが、その後は問題がなかったため、次の日の午前中に退院しました。

残りの旅行期間中はダイビングを中止しました。

専門家からのコメント

ダイバーの症状は、減圧症(DCS)の皮膚症状と一致します。

咳き込み(チョークス)と意識消失という症状があることから、神経学的障害が存在した可能性が大きいと思います。

ダイバー仲間たちは救助を求め、大気圧下での酸素供給をし、医師の診断の為に搬送するという、適切な行動をしています。
大気圧下での酸素投与は、症状の悪化を防ぐ助けになり、さらに症状の解消につながる可能性もあります。

そして、このダイバーの症状は心臓関連の問題が原因の可能性があるため、病院の医療スタッフは慎重に心疾患の可能性を排除しています。

ダイビング直後の温水シャワーが、減圧症の皮膚症状を進行させることを示すデータがあります。
この原因は、主に不活性ガス(訳注:窒素)の組織への負荷です。
この負荷が大きければ、減圧症が発症する可能性も大きくなります。

このケースにおいては、シャワーが明確な症状発現の一因となってはいません。
しかし、何らかの関連があるとするのは合理的だと思います。

また、このダイバーは、血液検査で脱水状態だったことに言及しています。

血液検査で、脱水状態関連で確認する可能性が最も高いのは、ヘマトクリット値として知られるマーカーの上昇です。

ヘマトクリット値とは、血液の液体成分(血漿)と固形成分の比率です。
このケースでは、ダイバーが発症後に検査が行われているので、ダイビング前の水分補給状況は不明です。

そして、通常の飲食習慣を持つレジャーダイバーの多くは、ダイビング後のヘマトクリット値の結果に影響する程の脱水症状にはなりません。

しかし、ダイバーが減圧症(DCS)になった場合、血管から血漿が周囲組織に漏れ出し、それをヘマトクリット値の変化として検出することができます。
これが、減圧症(DCS)ダイバーに脱水症状が出現する主原因だと思います。

輸液による急速な脱水状態の改善は、減圧症(DCS)治療における重要な処置の一つであり、静脈点滴が理想的です。

チャンバーでダイバーに治療をするかどうかという最終的な臨床判断は、診断した医師が下します。
医師は、患者の状態と共に、自身の治療経験と専門知識を頼りに判断しています。

一般的に、皮膚症状だけでは高圧治療は必要ないでしょうが、このケースでは神経学的異常を伴う疑いがありました。

高気圧酸素治療医師によるダイバーの診断が行われた時点では、明白な神経症状の証拠が認められなかったのでしょう。
結果が良い事がダイバーにとって最も重要なので、この医師の治療は不適当であったとは言えません。

このダイバーは、慎重を期してこの旅行中はダイビングしないという選択をしました。
その選択は、最も再発を予防する方法でした。

– Marty McCafferty, EMT-P, DAN medical information specialist, dive instructor

◆DAN JAPANの会員専用ページ(MyDAN)にて下記タイトルが読めます。

[Case 33] アワビ採りのダイバーがオオメジロザメに遭遇
[Case 34] 1本のダイビング中に5つの歯の詰め物を失う
[Case 35] ダイビング後の温水シャワーの後に、発疹、咳、意識消失を経験

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