海底の植物栽培プロジェクト「Nemo’s Garden」 ~イタリアの画期的な海底温室〜
イタリアの地方都市・ノーリの海底8mに設置された不思議なドーム。
これは、海洋の自然属性を利用して、さまざな植物を栽培する温室で、植物栽培に革命的な衝撃を与えると期待されています。
「ネモスガーデン」(Nemo’s Garden)と呼ばれるこのプロジェクトは、大きな風船のような形をした5つの海底温室からなっています。
ダイビング用品を販売する企業Ocean Reef Groupが開発し、ここ4年間、運営。
レタス、イチゴ、バジル、豆等を育てています。
ガラスやビニールで覆う事で、温まった空気を内部にとどめる構造ですが、下部には海水が入っています。
コップを逆さまにして水の中に沈んだ感じで、空気と水の層が存在しています。
内部では、空気に触れた海水が継続的に蒸発することで水分が供給されるようになっており、豊富な水分を与えられた植物は速く成長します。
また、高濃度の二酸化炭素が充満するようになっていて、植物にとってステロイドのような効果があるため、地上よりも速いスピードで成長するそうです。
温室内のセンサーは、湿度、気温、二酸化炭素濃度等のデータをリアルタイムに提供しています。
なぜこういったプロジェクトが進んでいるのでしょうか。
Ocean Reef Group社長の息子ルーカ・ガンベリーニ(Luca Gamberini)氏にお話をお聞きしました。
※
―――ルーカさん、今日はありがとうございます。早速ですが、ネモスガーデンは、誰のアイディアですか?
ルーカ
ガーデニングとダイビングが大好きな父が、温室を海底に沈めて植物を育てるアイディアをバカンス中に思いついたのです。
最初は実験のような感じで、一回やって終わりにしょうと思っていましたが、2012年の夏頃、長期的に何かできるかもしれないと考え、開発し始めました。
その後、植物をいくつか水中へ持って行って、育てることに成功したのです。
―――お父さま、面白そうな人ですね。プロジェクトの名前ですが、ディズニーアニメのニモ(Finding Nemo)と関係があるのでしょうか。
ルーカ
同じ質問をする人は多いのですが、まったく関係ないです。
ジュール・ヴェルヌのサイエンス・フィックション小説「海底二万里」の主要登場人物ネモ船長(仏語Captaine Nemo)に基づいた名前です。
―――その小説のテーマは、謎とか、冒険ですね。海底温室も謎が多く、冒険みたいで今後どうなるか分からないからNemoという名前を選んだのでしょうか。
ルーカ
その通りです。
海底温室はいいアイディアだけど、 多くの謎もあり、今後何が起きるかわからないという不安感もあります。
冒険みたいなものですよね。
名前を考えていた時、ジュール・ヴェルヌの話は頭にありました。
また、ダイビング自体も冒険みたいですよね。
だからディズニーのニモではなく、Nemo’s Gardenが最も相応しいと思いました 笑
―――話は変わりますが、 Ocean Reef Groupは、どんな企業ですか?
ルーカ
ダイビングのブランドを持ち、ダイビング用品を作って販売しています。
うちの技術はまさに海底温室など、海での冒険や探索、水中エンジニアリングなどのために開発されたので、Ocean Reef GroupはNemo’s Gardenのようなプロジェクトに最適だと思います。
技術、精神、開発すべてを整えており、努力のかいあってNemo’s Gardenが存在しています。
―――Nemo’s Gardenの開発にあたって、最初はどんな苦労、チャレンジがありましたか。
ルーカ
昨年温、室の構造で問題が少しありました。
また、植物も3つぐらい死んでしまいましたが、今年9月下旬の収穫量は多かったです。
バジルよりもライフサイクルが長い豆類を育てています。
理想的には、水中でできた種や水中で生まれた植物がいくつか欲しいです。
成功できるかは植物によると思いますが。
もう一つのチャレンジは、すべてが水中で行われる事です。
ダイビング器材を使っていて、水中でコミュニケーションがとれて、技術の知識はありますが、構造の開発や水中環境、強い流れ等で大変な時も多く、今後もいろいろな課題があると思います。
最も大きいのはシステムの「開発」です。
植物のためにどうやって安全な場所を作るか疑問も多く、最も適した方法を見つけるには更なる努力が必要です。
―――水中で生まれた植物が欲しいということは、最終的にそれを売るのですか?
ルーカ
売らないです。
今は研究のために植物を育てていますが、食べたりもしますよ!
とても美味しくて、僕達もとてもポジティブです。
今後はデータを正式にいろいろ公開する予定ですが、海底温室のバジルは特に美味しいと自信を持っています。
水中にいるから地上で成長したものより美味しいかもしれません。
―――味の他に、何が重要でしょうか。
ルーカ
水中で育ったバジルの例を挙げますと、まずは色や形などの特徴、種類そして匂いを確認する必要があります。
それが地上で育ったバジルと同じか違うのか、確認しなければいけません。
研究してくれている科学者によりますと、水中のバジルは地上のバジルに比べて精油が多く、葉がスムーズで味も強いです。
その理由は水圧など、水中環境の条件かもしれないです。
―――Nemo’s Gardenを通して、今後どういう風に世界に貢献したいですか。
ルーカ
様々な市場や可能性があると思います。
海底温室があるリゾートなど、観光地を作るのも一つの選択です。
リゾートで潜って植物を見に行くことも可能になりますし、海底温室を通して植物保護への認識も高めたいです。
持続的な養殖、海の中の植物水族館、いろいろな可能性やアイディアがあります。
もう一つの考えは、農業や水産養殖ができる場所を増やす事です。
地球のほとんどが水で、農業に利用できると思います。
資源を保護する必要もあり、従来の農業はこれを果たしていないと僕は思いますので、海底温室を通して資源をどう保護するかも調べたいです。
農業による汚染も多いです。
また、Nemo’s Gardenは地上の温室とほぼ同じ仕組みですが、地上の温室はコストが高いです。
海底温室には多くの可能性があります。明るい将来を予想しています。
―――他には、生物学や遺伝子組み換え生物等の研究にも貢献できると思いますが、いかがでしょうか。
ルーカ
そうですね。
植物がどういう風に水中で成長していくかの研究もできます。
そんな研究が可能なのは世界でここだけです!
遺伝子組換え生物に関連した開発研究も可能ですし、そこも様々な議論があると思います。
人間は、厳しい自然環境で長生きして、速く育つ植物が欲しいと思いますが、そういう植物は今後僕達にどういう影響をもたらすのか、様々な課題があります。
―――Nemo’s Gardenは、周りの海洋生物にどんな影響をもたらしていますか。また、海洋生物もNemo’s Gardenにどんな影響があるか教えてくれますか。
ルーカ
いい影響ばかりです。
毎年、海底温室を分解しますので、周りの海洋生物への影響は数ヶ月だけです。
腐りや汚染もありません。
考えてみれば、沈船のような構造はすぐに海洋生物、ソフトコーラル等でいっぱいになりますよね。
生物は自然にそこに集まり、成長していきます。海底温室も同じです。
温室はドーム型で生物は実際くっついていないのですが、近くにはタツノオトシゴが多く、妊娠中のもいます。
タコ、カニ類や様々な魚もいます。
場所は平で、砂や小石が多いです。
近くはすぐ深くなっていき、何もない場所ですが、なぜかタツノオトシゴが来てくっついてくれます。
多いと言いましたが3~5匹ぐらいでしょう。
少ない数だけど、滅多に見えない生物なので、ダイバーにとっては多いかもしれません。
残念ながら、一回だけイワシの群れが現れて、海底温室の近くで死んでしまったのです。
隠れようとしていたか、何かに追われていたのかもしれません。
―――温室を分解するとおっしゃいましたが、一年中設置するわけではないのですか。
ルーカ
イタリアには、特別な許可がないと水中に永久構造物を設置することができないのです。
このため、海底温室は暖かい時期の5月から9月の間のみ設置しています。
本当は、もっと長い間設置したいのですが、Ocean Reef Groupは中企業で、お金の問題もあり、冬にダイビングするのは寒いので難しいです。
また、釣りに来る人もいますので、釣りの季節に海底温室をキープすることができないです。
永久的な海底温室を設置するには、システムをもっと開発しなければいけません。
設置する時はノーリの地方自治体から許可を得ています。
―――釣りの季節はいつですか。
ルーカ
海底温室が設置されているエリアは、9月末から冬にかけてです。
イタリアのビーチは一般公開されています。
観光客は5月から9月末まで海水浴に来て、その後釣りの許可が個人に渡され、釣りがスタートします。
―――財政的支援はどうやって獲得していますか。
ルーカ
一切もらっていないです!
自分達の仕事から得た利益を使って温室の開発に取り組んでいます。
さまざまなエリアに高額の投資をしましたが、利益がなかったです。
マーケティングや宣伝を通していくつかの人や企業と接することができましたが、お金はあまり入ってきていないです。
宣伝だけでは足りません。
温室を売る機会もありましたが、まだ開発中で、開発中のものは売りたくないです。
EUからの支援など、もっと相応しい方法はあると思いますが、ビジネスやお金、利益の面はとても大事です。
将来的にはもっと人を雇いたいし、利益は欠かせないです。
―――Nemo’s Gardenへの関心は高いですか。
ルーカ
そうですね。大学からの問い合わせがいくつかあり、オーストラリア等の国、ワシントンポスト等のメディアと連絡を取っています。
中国や日本とはまだあまりコミュニケーションをとっていないです。
日本はオーシャナが初めてです。
お金を求めている会社からの問い合わせもありますが、それにはまだ対応できないです。
―――将来の計画やプロジェクト等について教えてくれますか。
ルーカ
前にも言いましたが、企業はスキューバのブランドがあり、僕達の技術はまさにこういった、海底温室のような、少し変わった探検や冒険、面白いプロジェクトに最適です。
今までの努力のおかげで海底温室が存在していますので、今後がとても楽しみです。
―――ルーカさん、本当にありがとうございます。頑張ってください。Nemo’s Gardenがどう発展していくか、とても楽しみにしています!
ルーカ
ありがとうございました。
海の中で植物を育てるのは、成長速度を速めるのは確かに有効なメリットです。
このプロジェクトがどんどん開発していけば、イタリアで大規模な水中温室をもっと作るのでしょうか。
こんな近未来の農園ドームが海にあると想像するだけで、ワクワクします。
■情報・写真:Luca Gamberini
■Nemo’s Gardenウェブサイト:http://www.nemosgarden.com