とある視点 【サメの商業捕獲】

最近話題のパラオのサメの商業捕獲問題。

簡単に言えば、サメの商業捕獲を認める法案を通そうという動きがあり、
7月14日に討議されたが、とりあえず平行線の様子。

また、以前から、フカヒレのためにヒレだけ切り落とすという
「フィンニング」を問題視する声も。

当然、反対の声も多く、ゴット姉さんも反対の立場。
http://www.moeabletype.org/mt/2009/07/post-399.html
http://diving-commu.jp/divingspirit/item_2561.html

まず、こうした問題で目につくのが情動的な反応。
こんなのです。

僕はこうした映像を見ると、どちらかというと、
その映像を作っている人の意図と背景にまず興味がいく。
「残酷だ!」という感情的な意見にはどちらかといえば冷ややか。
干潟保護団体が「僕たちを助けて!」と魚を擬人化する手段は、
もうそれだけで話す気にもならない。

こうした、クジラとかサメとか干潟とかエコとかに関しては、
政治的背景、つまり誰が得をするかとデータをまず考えるべきでしょう。
そして、多角的なアプローチが大事なのは間違いない。

「斜に構えやがって」とも言われますが、
自分が感情に流されやすい人間だと自覚しているので、
すんごく気をつけているだけです。

例えば、フカヒレだって、ひょっとしたら自分のヒステリックな善意が、
ローカルの豊かな暮らしを奪うかもしれないと思うから。
歴史ある食の文化を奪うかもしれないと思うから。
こんなに遠くから人様の国に文句を言うにしては、
自分は何も知らないのではないのだろか?と自分を疑うから。

また、この手の映像を見て「なんて残酷だ!」という人には、
豚の屠殺を見せて「どう?」って聞いてみたいです。
何度かこの目で実際に見ていますが、どちらもそんなに変わりはしない。
むしろ同じ哺乳類の分だけ豚の方がえぐい。

そういう意味では、フカヒレがダメで豚がいいという理屈は、
肉屋のせがれとしては許せません(笑)。

では、どういう意味なら豚がいいのかと言えば、家畜だからです。
ここに異を唱える人はベジタリアンになってください。
それも不浄なら死んでください。

つまり、家畜はデータに基づき、生態系や種の保存の問題をクリアし、
完全に資源管理されているのでいいわけですが、
サメに関しては、ここがグレーゾーン。

水産庁も、資源的価値が低いことから、
統計的データが少ないことが最大の問題だと明言しています。
もちろん、減っていることがはっきりしている種もありますし、
フィンニングは資源管理の面で問題があるので(取り過ぎる)、
フカヒレの量に見合ったサメ肉の水揚げ義務などの規制もあったりもします。

そして、もうひとつの問題が、職業的・イデオロギー的自然保護団体。
彼らが、クジラやカメの次にサメに目をつけたのは明らかであり、
善意あるガイドさんやダイバーさん、動物や自然を愛する方々のブログを見ると、
残念ながら、こうした団体の主張とまったく同じだったり……。

水産庁も「環境保護団体の根拠のない(データの一部側面のみを利用し
誇張した)攻撃が行われる傾向にある」と警戒しているのですが、
わかりやすいことを難しく書く学者や官公庁のデータより、
彼らの方がキャッチーで効果的なPR方法に長けています。

こんなキチガイも、水産庁より圧倒的に検索上位(笑)
http://www.afpbb.com/article/environment-science-it/environment/2617892/4326718
捕鯨問題で大活躍(皮肉)のシーシェパードがここにも……。

自分の善意がこいつらに利用されたら嫌じゃありませんか?
善意は時に危険でズルい。

さて、話を戻してパラオ。
今までは、サメの捕獲を禁止することで評価を得てきた側面もあるのに、
真逆のことをしようとしているのはなぜなのか?

正確にはその政治的背景を取材しないことにはよくわからないのですが、
ネット検索だけの僕の妄想的推測を紹介します。

今年のパラオの大きなニュースといえば、まずはアメリカの財政援助の終了。
今、パラオは経済的自立が求められています。

もうひとつの大きなニュースは、トリビオン新大統領の誕生。
調べれば、彼は元駐台湾大使で、今年叙勲も受けています。
今年のニュースを見ると、台湾から経済的援助を引き出している。
もちろん、台湾の背後には中国。
そんな台湾(中国)やこれまでも依存度の高かったフィリピンから、
パラオは漁業提携を求められている。何をかいわんやです。
http://www.pic.or.jp/news/palau2009.htm

もっと単純な理由で、完全な妄想の可能性も高いですが、
アプローチとしてはこうしてお金や政治からの視点がないと
実態を把握できないのは間違いありません。
まあ、取材しなけりゃ話にならないのですが……。

密猟や乱獲が問題なら、場所や漁獲高を厳密に決め、
合法的な資源管理が行われるのは悪くはない選択の可能性もあります。
「獲ってはいけない」状況では、密漁者に対しては道義的な反感ですが、
「獲ってもいい」状況では、密漁者に対しては自分の利権を犯す存在ですから、
目の色変えて取り締まる気もします。

観光資源としてナポレオンやサメを大事にしてきたパラオですが、
それをねぐってまで法案を通そうとするのは、
それ以上の利益が国に落ちるのでしょうか?
それとも、一部の人が潤うだけなのでしょうか?

まずはここを知りたいです。

う〜ん、「和尚もこの暴挙をみんなに知らせて!」と言われていたのに、
また多くのダイバーに怒られる……(泣)。

※当たり前ですが、現地の方の意見と僕の意見は、
当事者と傍観者の意見ですから、意味が違います。

\メルマガ会員募集中/

週に2回、今読んで欲しいオーシャナの記事をピックアップしてお届けします♪
メールアドレスを入力して簡単登録はこちらから↓↓

登録
writer
PROFILE
法政大学アクアダイビング時にダイビングインストラクター資格を取得。
卒業後は、ダイビング誌の編集者として世界の海を行脚。
潜ったダイビングポイントは500を超え、夢は誰よりもいろんな海を潜ること。
ダイビング入門誌副編集長を経て、「ocean+α」を立ち上げ初代編集長に。

現在、フリーランスとして、ダイバーがより安全に楽しく潜るため、新しい選択肢を提供するため、
そして、ダイビング業界で働く人が幸せになれる環境を作るために、深海に潜伏して活動中。

〇詳細プロフィール/コンタクト
https://divingman.co.jp/profile/
〇NPOプロジェクトセーフダイブ
http://safedive.or.jp/
〇問い合わせ・連絡先
teraniku@gmail.com

■著書:「スキルアップ寺子屋」、「スキルアップ寺子屋NEO」
■DVD:「絶対☆ダイビングスキル10」、「奥義☆ダイビングスキル20」
■安全ダイビング提言集
http://safedive.or.jp/journal
  • facebook
  • twitter
FOLLOW