恥ずかしいけど、大きな一歩!? ~前例のないH.I.S.の品質クオリティー基準~

ヤドカリ爺のような半分世捨て人のような存在は、世の中のことはトンと疎いのでありますが、わが愛するダイビング業界が、冷え切っているようではさすがに気にかかります。

やどかり仙人コラム

ヤドカリ爺がダイビングにいちばん熱中していたのは、というより頭に血が上ったような状態だったのは、すでに40年も昔のことで、その頃のいちばん近くて安い外国はグアムでありました。
安いといっても当時は、たぶん現在のセブやバリに行く数倍は高く、そこで窮余の策で、都内のダイビングクラブに声を掛け合って、飛行機をチャーターしたことがございます。
飛行機1機をチャーターなんていうとえらく大仕事のようですが、そうでもしないと懐の軽い当時のダイバーはグアムにも行けなかったのであります。

そのグアムのダイビングサービスで、出会ったのがブリーフィングでありました。
今では誰でも知っているブリーフィングという言葉ですが、当時の日本は、ダイビング前にリーダーが筋道だった順番で、その日の経路、途中の見どころ、大まかな空気消費の予測、ロスとしたときの水面でのボートへの合図のしかたなどを、説明する習慣がなかったのです。
本当にびっくりしました。これはカルチャーショックでした。

もちろんこれもリスクマネージメントの1つであるのですが、ダイビングはブリーフィングという形で具体化する仕事なのだと実感した瞬間でした。
同時にリクリエーションダイビングはアメリカ主導のレジャーでありますが、このときほどアメリカ式を意識させられたことはなかったのであります。

H.I.S.の安全なダイビング宣言

以来、ダイビングサービスやオペレーターのスタッフの最大の職務はブリーフィングだと考えるようになりました。
しっかりしたブリーフィングのできるスタッフは、少なくともそのダイビングについてのイメージをしっかり持っていることがわかります。

それから40年経ちますが、いつでもどこでも内容のしっかりしたブリーフィングが受けられるようになったのでしょうか、またどこででも均一な設備、器材のサービスを受けられるようになったのでしょうか。
さらには多様化するダイビングにサービスも多様化できているのでしょうか。

先日このocean+aで、H.I.S.が手配をする海外のダイビングツアーで、オペレーターの契約基準を定めたことが特集されていました。
実はこの契約基準を検討するときに、このヤドカリ爺もいくつかヒントを出させていただきましたが、今や大手の旅行会社のH.I.S.が、ダイビングオペレーターのスタッフの資格、レンタル器材、ボートの運用、安全態勢など80項目もの具体的な基準を定めるというのは、大変な快挙だと思うのであります。

H.I.S.ダイビングツアーウェブマガジン

違った言い方をすれば、これは旅行業界からの、安全要求条件であります。
同時にこの基準はダイビングのサービス内容の具体化です。

世界中を見ると、民力度も違うし、ダイビング環境も違うわけで、それに一律に基準を定めるというのは、旅行社自体も契約先のダイビングオペレーターも、身動きがしにくくなるわけで、そんな厳しい条件は満たせないというダイビングオペレーターもあるでしょうし、必ずしもすべてのダイビングオペレーターが歓迎しないかもしれません。
旅行業界の横暴ととらえるところもあるでしょう。

最近、万里の頂上のトレッキングで何人かのトレッカーの豪雪での遭難事故がありました。
そのときの旅行社が現地の状況を把握していないことやエスコートのガイドの能力が問われていました。
こんなときに現地の旅行社との間で、あるレベルの安全基準が契約条件として決められていたら、あるいはここまでの不幸な結果にはならなかったかもしれません。

ダイビングボートには、必ず見張り要員がいる、緊急用連絡設備がある、緊急時の搬送体制が決められている。
あるいはサービススタッフの認定資格、使用する器材のレベル、充填空気の純度や設備などなど、どれも最大のサービスであるお客さんの安全につながります。

旅行社がそれを要求するのは、ある意味では当然なのですが、実際に具体的なプログラムを作って実行したのは他に例を聞かないのです。
もちろんこの訴訟社会の今日ですから、旅行会社にとっての、リスクマネージメントであることも当然です。

これを違う角度から見ると、旅行業界が要求するのではなく、ダイビングオペレーターの業界の方が、統一された最低安全基準やサービス基準を持っているのが本来のビジネスのように思えるのです。

あえて言うならば、旅行業界から要求されるのは順序が逆であります。
旅行業界から言われて、その条件を満たすのでは、やや恥ずかしい心地もいたしまする。

例えばダイビング用のボートにはしっかりしたラダー、あるいはプラットフォームが完備しているとか、見張り要員がいる、さらには緊急用の器材があること、また内容のしっかりしたブリーフィングといったサービスが、世界中どこでも受けられることが重要なのであります。

このヤドカリ爺が申し上げたいのは、日本の常識は必ずしも世界の常識でないからであります。
例えば東南アジアの、どこかのダイビングパラダイスに出かけていったときの、あなたの水中ガイドがまったく何のトレーニングを受けたこともない地元のおじさんかもしれません。

また、インストラクションを担当する世界的に有名な指導団体のインストラクターでも、それぞれのお国の事情で、いざというときの賠償責任保険や傷害保険に加入していないこともあるのです。
またダイビング用の空気やタンクの安全基準などがないところが少なくないのです。

最近、ダイビングは広義の旅行ビジネスの一旦ですから、ダイビング業界、旅行業界のどちらが統一サービス基準を作ろうと、安全とサービスの向上につながれば、ダイバーにとってはどちらでもよいようなものですが、リクリエーションダイビングが日本で始まってすでに60年近くになります。やっと具体的なサービスと安全基準が姿を現す、ヤドカリ爺にとっては感無量でありますぞ。

\メルマガ会員募集中/

週に2回、今読んで欲しいオーシャナの記事をピックアップしてお届けします♪
メールアドレスを入力して簡単登録はこちらから↓↓

登録
PROFILE
1964年にダイビングを始め、インストラクター制度の導入に務めるなど、PADIナンバー“伝説の2桁”を誇るダイビング界の生き字引。
インストラクターをやめ、マスコミを定年退職した今は、ギターとB級グルメが楽しみの日々。
つねづね自由に住居を脱ぎかえるヤドカリの地味・自由さにあこがれる。
ダイコンよりテーブル、マンタよりホンダワラの中のメバルが好き。
本名の唐沢嘉昭で、ダイビングマニュアルをはじめ、ダイビング関連の訳書多数。
FOLLOW