レッツ レック とは言わない~私が誰にでもレックダイビングを勧めない理由~

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ただ今、フィリピン滞在中11日目です。
フィリピン時間における原稿の締切の時期がやってきた、らしい、ような、気がするので、締切厳守で原稿を書いています。
ですが、日本時間はどーなっているのか、フィリピンと何時間? 何日? 何ヶ月? 位の時差があるのかは、5日か、6日位前からよく分からなくなりました。

加えて、フィリピンで一週間以上真剣にダイビング業務に勤しんでいると、自分には、ダイビングにかんするする事いがいのいろんなことを過そくど的に忘れるという生理てきなシステムがそなわっているのを思いしらされますが、いまのところ、こん回のげんこうで書きたいことはおぼえている気がしますが、アルジャーノンはたぶんこんな状たいをつう過したのではないかとかれのきもちがわかかるようなきがしますがしたがっててこんかいはそのけんにかかかかかんしてしてかかせていただいくことにしててここまでででけいごはおしまいですす。

そんな訳で、前回、私は、レックダイビングの講習の受講をお勧めする内容の原稿を書いた。
ただし、それは、一般の方々に、内部に侵入するタイプのレックダイビングをお勧めしたという事では決してない。

あくまで、対象はすでに覚悟の上でテックダイブをスタートさせちゃっていて、しかも先に進めば進むほど危険の絶対値が上がり続けてゆくことを重々承知の上で、それでも、先に進もうとしちゃってる聞き分けのない、往生際の悪い方々。
しかも、話の矛先はレックダイブの講習、それもワケの解ったインストラクターが行う上質の講習に限ったつもりであって、レックダイブそのものに万進しましょう、というお勧めでは全くない。

レックダイブの講習が、テックダイブのアウトラインや考え方を、具体性を感じながら理解していただくのに適しているという点のアピールが私の意図。
そこを起点に本格的なレックダイブを目指すべし、という意図は毛頭なかったということを、改めてここに明記しておきたいと思います。

というのも、内部侵入を行うレックダイブの危険の絶対値は非常に高い。本格的なレックへの内部侵入は、本来、いくつものハードルをクリアした後に行うべき活動である。加えて、現在のレックダイブのフィールドとなっている沈船は、戦没船が多く、フィールドとしての成立の前提として戦没者の存在がある場合が多い。

ダイブサイトによっては、レックの内部への侵入口にもケイブのような、トレーニングを受けていないダイバーの侵入を牽制するプレートが配置されている。侵入を牽制しているのは、ここでもやはり死神だ

ダイブサイトによっては、レックの内部への侵入口にもケイブのような、トレーニングを受けていないダイバーの侵入を牽制するプレートが配置されている。侵入を牽制しているのは、ここでもやはり死神だ

このレックで無くなったダイバーのためのメモリープレート。レックでのダイバーの死亡事故はさほど多くはないが、ある程度以上の深刻なトラブルやアクシデントがそれに結びつく可能性の高さは、OWのダイビングよりかなり高いと思われる

このレックで無くなったダイバーのためのメモリープレート。レックでのダイバーの死亡事故はさほど多くはないが、ある程度以上の深刻なトラブルやアクシデントがそれに結びつく可能性の高さは、OWのダイビングよりかなり高いと思われる

もちろん、多くのダイブサイトでダイバーの死亡事故は起きている。
しかし、ダイブサイトとしての成立の前提に人の死が関わっているというのは、レックダイブの特異性ではないかと思う。
それをどう捉えるかに、とりあえず私は口出ししない。
が、いずれにしろ、本格的なレックダイブに踏み出すには、まず、それも踏まえて、自身がその活動をどう解釈するかを明確にすることが不可欠だろう。

本格的なレックダイバーへの道は、レックの講習のずうううっと先まで続いており、まずは講習を受講したとしても、それは単なる入口の鍵の暗証番号を手に入れた程度に過ぎない。
入口を開いたら、まずは戦没船を潜ることが多いレックダイブそのものに対して自分自身の考えを整理し、納得する必要があり、その上で、少し進む度にごく短いステップアップのためのルートマップを手に入れ、そのルートマップを元に経験を積み、その後に、さらに新しいルートマップをゲットしながら先に進む、という行程をくり返してゆく必要がある、と私は考えている。

ただし、そこで難しいのは、多くの、というか、全てのダイビングに共通する見えざる(あるいは見えにくい)罠の存在。
その罠とは、レックの内部侵入に関しても、運良く何事もなく事が進めば”言われたほどの””危険”や”難易度の高さ”を感じることなく、ダイビングを終えることも可能な点である。

限られた知識や経験しかなく、それだけをベースとした想像力で、レックダイブをそれなりに解った気になったとしたら、それは罠にハマった兆候のひとつ。
そして、この罠はとても危険で容赦ない。
本来の危険に気付いた時が、その危険の真っ只中で、そこで初めて、今までそれを見過ごしてきたことや、軽んじてきたことが間違いであったことに気付いたとしても祭りの終わりははるか前。
その後の展開は神のみぞ知る、である。

こうした状況が起こりうるのが、運に頼ったダイビングだ。
そして、やっかいなのは、運に頼ったダイビングを行っていること自体を、ほとんどの場合、運に頼ったダイバー自身は気づいていない。

ということで、今回は前回のお話の補足として、レックダイビングの危険の絶対値の大きさ、厄介さの一端を紹介しておきたかったのでありました。

まずは分かりやすいところから。
当然ながら、一番想像しやすい厄介は水面への直接浮上が出来ない点である。
全ての「トラブルが起きたら、浮上して」というオープンウオーターでの重宝な一次対応はこの時点で全滅。
例えば、ガスが残り少なくなっても、はぐれても、不安を感じても、器材の不調があっても、尿意はともかく、強い便意を感じても、キレイなおネーさんとの約束に遅れそうな事に気付いても、全ての天井があるダイビングにおいて、まずは水面に浮上にして、という重宝な一次対応は物理的に不可能だ。

水面までたどり着くには、まず、水面に出ることの出来ない天井付きのルートを戻る、という省略不能な作業が待ち構えている。
しかも、水面に出たいという要求を感じた時点で、その要求が、水面に出るまでの作業に対してのストレス値を気前よくアップする。

加えて、レックダイブの場合、EXのためのルートにあるのは浮上ばかりではない。
逆に潜降が必要となる場合も珍しくないのだ。
例えば横転したり、ひっくり返って沈没しているレックは、出口に向かうルートの深度が最深部より一端深くなっても不思議でない。
場合によっては最深部の深度が侵入口より浅く、途中が極端に深い、なんているパターンだってある。
例えば、そんな中、耳抜きが不調になったから戻ろうと思ったら、出口に行き着くためには、不調の耳でさらに深く潜らなければならない。
最悪の場合の二者択一は、鼓膜を諦めるか、命を諦めるかとなる。

スービックで最も人気の高いレック、戦艦ニューヨークのイラスト。ご覧になって分かる通り、この戦艦は横転して沈んでおり、ペネトレーションのルート上には数メートルの垂直方向の移動や出口に向かうために深度を下げてゆく必要のあるエリアなどが含まれている

スービックで最も人気の高いレック、戦艦ニューヨークのイラスト。ご覧になって分かる通り、この戦艦は横転して沈んでおり、ペネトレーションのルート上には数メートルの垂直方向の移動や出口に向かうために深度を下げてゆく必要のあるエリアなどが含まれている

そこで鼓膜を気前よく諦めたとしても、次には、その後に訪れる鼓膜のダメージによる平衡感覚の喪失状態で無事に出口まで戻れるか、という問題が控えている可能性がある。
頼れるのは、日頃の行い? 運の強さ? 守護霊様?

また、そんな状況では、前回も触れたエア切れ状態もやっかいだ。
エア切れでガスの供給を受けているダイバーは、タンクからのガスでBCやドライスーツへの給気ができない状態で、深度を下げないと(時には大きく下げないと)出口に戻れない可能性アリ。
ここでの対応が完全でないと、エア切れダイバー行く末は、身動きの取れないでっかいウエイトの塊でしかない、かも。

もし、狭い空間や、鋭角に折れたり、複数の角度が連続するルートを抜けて来たとしたら、当然のことながら、帰りはエアをシェアした状態でそれらを逆にたどらなくてはならない。
この過程でエア切れダイバーが身動き不自由なでっかいウエイトの塊となっていたら、というのは想像したくない悲劇だが、ただし、この悲劇が想像できないと、また悲劇はいつか必ず起こりうるという前提に立たないと、悲劇を防ぐための具体的な対策に思いを巡らすことは出来ない。

つけ加えると、ヒットの衝撃や、鋭利な残骸等によるカットによって、器材にダメージを負い、結果、ガスのシェアや浮力喪失系のトラブルに至る可能性が最も高いダイビングがレックダイブだ。

露出した船体の骨組みや配管、折れたり倒れたりした鉄骨、破壊された隔壁、積載物の残骸等、ルート上に、ダイバーの体や器材がヒットしたり、傷つけられたりする可能性がある構造物が多いのもレックダイブの特徴。狭いルートや視界が低下した環境と、こうした構造物の組み合わせを受け入れないと成立しないのがレックダイブだ

露出した船体の骨組みや配管、折れたり倒れたりした鉄骨、破壊された隔壁、積載物の残骸等、ルート上に、ダイバーの体や器材がヒットしたり、傷つけられたりする可能性がある構造物が多いのもレックダイブの特徴。狭いルートや視界が低下した環境と、こうした構造物の組み合わせを受け入れないと成立しないのがレックダイブだ

一方、帰り道の視界が落ちるのはレックダイブのお約束。
レックのタイプやルートによっては、極端な視界の低下も当たり前。
低視界下でも冷静かつ的確かつスムーズに動けるのはレックダイバーとしての、当然の条件だが、レックのやっかいなところは、そんな低視界の状況下で、いろんなところからワイヤーやロープやハーネスが垂れ下がっていたり、鉄パイプが張り出していたり、破損した隔壁が飛び出していたり、という様々な障害物の存在の可能性があることだ。

器材の選択や構成、扱いが適切でないと、絡んだり、引っかかったり、スタックしたり、というトラブルや、ダイバー自身の体がダメージを負う可能性があるのはもちろん、それらが完璧であったとしても、そうしたトラブルに陥る可能性をゼロにすることは出来ない。
例えば、ダイバーの通過や水の動きによって、行きに無かった厄介モンが出現したり、開いていたハッチの開度が変化したり、ラインの上に行きには無かった落下物があって、ラインを下敷きにする、なんていう可能性だってあるからだ。これらは危険を大げさにアピールするためのつくり話ではない。

私は、チューク、ビキニ、フィリピン、パラオ等、複数のエリアの複数のレックの内部で上記の出来事を、そのバリエーションの全てを、実際に体験している。
もちろん、中には沈没以来、数十年間誰も侵入していなかったのだろうと思われる特異なエリアでの出来事もあるが、逆に、多くのダイバーが潜っているポピュラーなルートで、そうした類の状況に遭遇したこともある。

つまり、それらはレックダイバーなら、誰にでも遭遇の可能性があるトラブルなのだ。

そんなこんなで、とりあえず誰もに分かりやすいと思われるリスクを羅列してみたが、いかがでしょう。
しかも、当然ながら、リスクはそれだけに留まりませんよ、と、ここまでの話を聞いた上でもなお、というか、聞いちゃったことで一層、自身を高め続けて本格的なレックダイブにトライしてみたいという聞き分けのない方がいらしたとしたら、もうこれ以上、私はつべこべ申しません。

レックダイバーの憧れの地のひとつ、ビキニの夕景。ビーチに続く海は、アメリカが行った原水爆の実験で沈んだ数多くのレックの墓場となっている。レックの歴史的な背景を知り、その歴史の実際の舞台となったレックを、歴史に思いを馳せながら潜る時の感慨の深さは、正に筆舌に尽くしがたいものだ

レックダイバーの憧れの地のひとつ、ビキニの夕景。ビーチに続く海は、アメリカが行った原水爆の実験で沈んだ数多くのレックの墓場となっている。レックの歴史的な背景を知り、その歴史の実際の舞台となったレックを、歴史に思いを馳せながら潜る時の感慨の深さは、正に筆舌に尽くしがたいものだ

しかるべき適性を持ったダイバーであれば、という但し書きは省略できないが、正しい指導を受け、適切な環境で経験を積み、自身をレベルアップしてゆくことで、レックダイブの危険の相対値を低くしてゆくことは、もちろん可能だ。

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PROFILE
テクニカルダイビング指導団体TDIとサイドマウントの指導団体RAZOR のインストラクター・インストラクタートレーナー。
フルケイブ、レックペネトレーション、トライミックスダイブはいずれもキャリア800ダイブ以上。
-100m以上の3桁ディープダイブも100ダイブ以上、リブリーザーダイブでは1000時間以上のキャリアを持つ等、テクニカルダイビングの各ジャンルでの豊富な活動経験の持ち主。また、公的機関やメーカー、放送業界等からの依頼による特殊環境化での潜水作業にも従事。話題のTV ドラマ『DCU』にもリブリーザー監修として撮影に参加している。

■著書
おタハラ部長のお上手ダイバー養成新書
続・おタハラ部長のお上手ダイバー養成新書
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