ダイバーなら知っておきたい離岸流とその対処法
気象予報士くま呑みの“ダイバーのためのお天気講座”
皆さんは、エキジットで浮上した後で岸に近づこうとしたら、なんだか、いっくら泳いでも岸が近づいてこない、あるいは、場合によると逆に沖に押し流された……なんて経験はありませんか?
それは、岸から沖に向かって流れる流れ、「離岸流(リップカレント)」に乗ってしまっていたのかもしれません。
この離岸流というやつ、実はあまり幅が広いことはないので、落ち着いて横に泳げば大概はすぐに流れから抜け出せるのですが、ちょっと焦りますよね? どうして、こんな流れができるのでしょう?
沖に向かって流れる離岸流
海にはさまざまな流れがあります。
黒潮のように大きく大洋を巡る海流や、主に潮の満ち干が原因でできる潮流など。
これらの流れは、すべて気候的な原因で作られています。
今回は、その中でも、比較的小規模な流れ“離岸流”のお話です。
離岸流というのは、主に波があることで作られる流れなのです。
波というのは基本的には水の上下(または鉛直の円)運動であり、水自体は流れてはいないのですが、浜に近くなって波が崩れた先では、水は浜に向かって押し寄せるようになります。
そうすると、波打ち際では常に水が押し寄せてくるわけですから、どこかでその水が沖に帰っていかなくてはなりません。
それが、離岸流です。
図1のように、まっすぐ直線的な浜であれば、ところどころにできます。
が、海底地形がある特定の形をしていたり、河口があったりすると、常にそこが離岸流になりやすいなどということもあります。
例えば、サイパン島の有名なビーチポイントで「オブジャン(Obyan)」というところがあります。
珊瑚の環礁の中にできたきれいな白い砂浜があり、環礁から向こうは急に海の色が青くなるという、観光客にも人気の場所です。
環礁の部分で波が砕けて、静かな波頭しか内側に入って来ず、環礁の内側は静かで、初心者でもエントリーがしやすいところです。
ダイビングはそのリーフエッジの環礁の切れ目から潜降することが多いのですが、そこにはいつも比較的強い離岸流があります。
というのも、外海から環礁を越えて入った波頭の水が、地形的にその切れ目から集中して外海に流れ出すからです。
そのためエキジットは、流れに逆らって水中のロープを手繰って進む感じになります。
忘れもしません、私のオープンウォーターの講習はオブジャンでした。
初めての水中でしたから、その流れは、非常に強く感じたことを覚えています(当然、その後、もっともっと強いカレントを経験することになるわけですが)。
そして、オープンウォーターの講習や、高校の遠泳の合宿で習った「離岸流」ってこれなんだと納得したのを覚えています。
離岸流への対処法
そのオブジャンビーチで、ある時に潜ったら、普段はそのリーフの切れ目からすごい勢いで流れ出しているはずの流れがまったく無かったことがありました。
その日はベタ凪。
つまり、リーフを超えて波がラグーンにまったく入って来ていなかったのです。
ですから、切れ目から水が出て行く必要がなくて、流れがありませんでした。
これは、実は一般の浜でも同様で、押し寄せる波の大きさによって離岸流の強さは変わります。
また、河口の沖などにも離岸流ができやすいのですが、その場合は潮の満ち干によっても変わります。
このことは逆に言うなら、もしかすると、以前来た時は、いつも離岸流があるところでも、たまたま無かったということもありえるかもしれません。
つまり、以前にそこに流れが無かったから、今日もないはず、とは言い切れないということです。
波の高さが日々、刻々変われば、離岸流の強さも、刻々変わるのです。
そしてご存知のように、波は天気の善し悪しだけではなくて、遠方からのうねりで作られることもあります。
「今日は天気が良いから、離岸流もないだろう」などとは思わないでくださいね。
なお、離岸流というのはそういうわけで、通常はそんなに大規模な流れにはなりません。
周囲の水に対しては進んでいるはずなのに、岸が近づかないなぁ……って思ったら、がんばってフィンキックを続けるのではなく、ちょっと海岸と平行に泳いでみてください。
離岸流だったら数十メートルもずれれば、離岸流から逸れて楽になるはずです。
ただし、島や半島などで、潮流の流れによって沖に流されているときはまた別ですから、注意してくださいね。
次回以後は、そういったもう少し大きな流れのお話をしたいと思います。