地球の大洋を流れる“還流”はどうやってできる? ~コリオリとエクマン螺旋~
~気象予報士くま呑みの“ダイバーのためのお天気講座”~
これまで、海の「流れ」についてお話をしてきました。
■ダイバーなら知っておきたい離岸流とその対処法
■潮の満ち引きだけじゃない!? ダイバーなら知っておきたい“潮汐流”
■同じダイビングポイントでも二度と同じ流れはない!? 海岸付近の複雑な流れ
前回は、実際に海岸付近でどんな流れが起きるか、という話しでしたが、今回はもっともっと大きな流れ。
黒潮のように大洋の周囲を周っている大きな海流「環流」に目を向けます。
考えてみると、黒潮みたいな流れって、蛇行することはあっても、月の位置や潮汐とは違ってずーっと同じ方向に流れていますよね。
どうしてなんでしょう?
大洋の流れは、風が作っている?
大洋には、大きく周囲を回転するような流れ、「環流」があります。
図1.は、地球全体の大洋を流れる大きな海流の流れの図です。
これを見ると、北半球では主に時計回り、南半球では主に反時計回りの大きな流れがあることがわかります。
こういった流れができる要因として、「低緯度地方には東風の貿易風が吹き、中高緯度地方には西風の偏西風が吹いているからだ」という解説をよく見ることがあります。
しかし、おかしいと思いませんか?
そうだとしたら、なぜ、大洋の西側(東南アジアから日本付近など)は南から北の流れができるのでしょう?
また、大洋の東側(アメリカ西海岸など)は、北から南の流れになるのでしょうか?
先ほどの解説だけですと、これには説明がつきません。
実は、もうちょっと複雑なからくりがあるのです。
コリオリの力とエクマン螺旋
実は、そもそも東風が吹いたら、海の水が西に押し流されるだろう、というのは間違っているのです。
東風が吹くと、たしかに海の表面のごく浅い部分の水は西に向かって押されますが、その時に、コリオリの力が働くのです。
覚えていますか?
コリオリの力。
連載第2回「台風」の話題の時にお話しました、北半球で進む物には、地球の自転の影響を受けて、進行方向右向きの力が働いているように見えるという、あの現象です。
ですので、海面上を風が吹くと、実は、それから右向き45度にずれた方向に、水面付近の水は動くのです。
しかし、それだけではすみません。
さらにその下の層では45度ずれた方向に、そして、その下ではさらに45度……と水が動く方向はずれていきます。
そして、だんだん深くなるにつれて影響が少なくなるので、動きは小さくなります。
図2は、それを模式化して書いた図です。
この図を見ると、まるで螺旋のような図に見えますが、これを「エクマン螺旋」と呼びます。
そして、この螺旋を作る矢印の方向を水深100mまで足し合わせると、全体としての水の動きは、海上風の直角右向きになるのです(図2の大きな、青いブロックの矢印の方向)。
そうすると、結局、低緯度の海水は東風である貿易風の影響で、右向き(=北向き)の中緯度方向に運ばれ、高緯度の海水は偏西風によって右向き(=南向き)の中緯度方向に運ばれ、結果として大洋の中央が盛り上がった形になるのです。
中央が盛り上がっているということは、大洋の外に向かって力がかかるわけです。
そうすると、コリオリの力によって、右向きに力がかかりますから、例えば北太平洋であればその周りを時計回りに回る流れ「環流」ができあがるのです。
大洋の周囲をぐるっと流れる「環流」。
その流れができるのには、案外複雑なからくりがあることがお分かりいただけましたでしょうか。
あー、わかってすっきり?
でも、実は、残された謎がひとつあります。
どうして、黒潮ってあんなに強い流れになるんでしょうね?
次回はその謎に迫ります!