同じダイビングポイントでも二度と同じ流れはない!? 海岸付近の複雑な流れ

気象予報士くま呑みの“ダイバーのためのお天気講座”

ラジャアンパットの青い海(撮影:越智隆治)

前々回と、前回から、海の「流れ」についてお話をしています。

前回は潮流についてお話しましたが、今回はそれが実際に海岸付近でどうなるかです。

みなさん、不思議に思ったことはありませんか?

潮の満ち干きが月の引力によって起きるなら、どうしてこんなに複雑な流れになるんだろう? って。

だって、月からの距離は変わらないんだし、確かに大潮と小潮の変化はあっても、毎回ボートダイブのたびに、潮流がどうかをガイドさんが確かめてから潜るって、もっと予想ができないのかな? って。

私が小学校のころに読んだ海洋冒険小説で、ある川と別の川が合流しているところで、川によって満潮時刻が1時間ずれるって書いてあったんです。
それこそ月からの引力は変わらないはずなのに・・・って不思議でしかたがなかったです。

今回は、そんな、潮流が複雑になる理由をお話します。

海岸付近の流れはどうして複雑なのか

海岸付近の流れは、主に潮流によって作られますが、それだけではありません。

前に書いたように、離岸流ができることもあります。
これは、波の大きさで変わる可能性があります。
また、河口付近では、川の流れの強さによって変わります。
ということは、その前に川の上流に降った雨の量で変わる可能性があるということです。

さらには、強い風が吹けば、水はそれに押し流されます。
それも、風の向きに対して、コリオリの力が働くので、風向きから右方向に水は流れます(正確には深さによって流れる方向が違う、“エクマンの螺旋”という動きになるのですが、これは次回お話しします)。

なので、例えば海岸に沿って沖に向いて右から左に向かって風が吹くと、海の水は(大きくは)沖出しの流れになります。
また、海岸付近では、海底からの湧き上がる流れになり、上下の流れまで絡んできます。
さらには、海流が強い地域では、海流の蛇行などの影響も受けます。

つまり、海岸付近では、太陽と月の位置による、大潮/小潮の差に加えて、押し寄せる波の高さ、雨の量や風向き、風の強さ、その日の海流の状況など、非常に多くの要因によって流れが変わるのです。

半島や、小規模な湾の周囲の流れ

そして、特徴的な流れは、地形によっても作られます。

例えば、半島があった場合に、その半島の片側に潮流が当たれば、半島の先端付近で複雑な流れができることになります。

例えば、大瀬崎の先端には駿河湾の潮流が当たることがあり、そうすると、先端からちょっと湾内に入ったところでは、流れが穏やかなのに、いわゆる先端部分は、危険なほど沖出しの流れが強くなることがあるわけです。

湾の流れ図(提供:くま呑み)

図1 小規模の湾の中の流れの例

また、例えば図1のように、小規模な湾の外側を、湾内から見て左から右に強い流れがあるとすると、湾の右側の半島で一部が分流して湾内に流れ込み、時計回りに湾内を流れる潮流になることもあります。

そうすると、上手に潜ると、湾の奥から、左側の半島に沿って沖に向かい、沖の流れで右側の半島のところまで行き、分流に乗って湾内の奥に戻ってくるという、ずっと楽々なダイビングもできることになります。

実際に、八丈島のナズマドなどでこれを体験していて、安全にガイドをしてもらって楽々だったのですが、うっかり右の半島を過ぎてしまったら帰るのが大変だろうと思いました。
つまり、このような流れを利用する場合には、本当にポイントを知り尽くしている必要があるわけです。

島でも同様で、島の周囲に強い海流や潮流がある場合、その潮が当っているところとか、その潮の当たり方が切り替わるところでは特に注意が必要です。

具体的に言うなら、ある島の周りを東から西に向かって大きな流れがあるとすると、島の南端や北端では、潮の当たり方が変化する場所ですから、流れが複雑になります。

例えば、最南端の岬の西側で穏やかに潜っていて、岬の先端を超えたとたんに、強い流れに持って行かれるといったことも起こりえるわけです。

また、「潮裏」にあたる西側では、基本的に穏やかなはずですが、ちょっとボートで沖にでると、島の南と北を回ってきた潮が合流して、強い流れになっている場合もありえます。

隠れ根に注意

潮の流れを作るのは、なにも、島や半島ばかりではありません。
水中の「根」の周囲でも潮の流れは複雑化します。

例えば、強い流れがあると、普通はさざなみが立っているように見えることが多いのですが、そこに根がある場合、根の上はさらに強い流れになって、かえって水面は平らに見えることもあります。

そのような根のところは、潜ると、根の上ではすごく流れが強いのみならず、流れの下手側は、根に塞がれて穏やかな場所もありえる一方で、根の上を超えてきた流れがダウンカレントとなっている部分もあり、あっという間に深場に持って行かれてしまうこともありえます。

このように、海岸付近の流れというのは、様々な要因によって変わるのみならず、変わった結果、同じ場所でも、二度と同じ流れがないくらいに変化するのです。

※さて、次回は、流れの最終回。もっと大きな流れ、「海流」を見てみましょう。

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PROFILE
日本気象予報士会会員。
国際基督教大学(ICU) 理学科物理卒。
1995 年 よりダイビングを始める。
外見が「熊」なダイバーなので、魚の名前に因んで「くま呑み」を名乗る。

中学の理科の授業で、先生が教卓で雲を作る実験をしてくれたのを見て以来、気象学、天文学、地学に興味を持つ。
ダイビングを始めてからも海と空を眺めるのが好きで、2002年、気象予報士を取得。

ダイビングのスタイルは、「地形派」。
ドロップオフやカバーン、アーチや地層の割れ目などを眺めるのが好き。
特に、頭上のアーチなどをくぐった先で、水面からの光が見える瞬間に萌えてしまう。

ダイビング以外の趣味は、オーガナイズド(組織)・キャンプ、合唱、キャリア
・カウンセリング。
現在は、国際基督教大学にて学生や子ども向けの組織キャンプのディレクターも
努める。
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