シャークジャーナリスト沼口麻子さんとメガマウス・フィーバーを振り返る(第4回)

メガマウスQ&A5 ~どこにいる? 何食べる? 名前は?~

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メガマウスザメの歯(写真提供/沼口麻子さん)

メガマウスザメの歯(写真提供/沼口麻子さん)

1.サメの3%しかいない
ネズミザメの仲間

寺山

正しくメガマウス知ってもらうためにも、メガマウス自体についてお聞きします。
幻とは言えないまでも、数は少ないサメなんでしょうか?

沼口

サメは509種類いますが、種数で言えば、およそ半分がメジロザメ目なんですね。サメを見たらだいたいメジロザメというくらい。その次が、ツノザメ目という深海性のサメで、大体メジロザメ目とツノザメ目でサメはできているといってもよいかもしれません。

サメの8目(注:9目とする研究者もいる)の種数の内訳は、56%メジロザメ、24%ツノザメで、カス(コロザメ、カスザメなど)4%、ネズミ3%、ネコ2%、ノコギリザメ1%、テンジク(ジンベエザメとかトラフザメなど)8%、カグラザメ(ラブカなど)2% 。

ネズミザメの仲間は、カスザメ、コロザメよりも種数が少ないですし、外洋性で大型のものが多いので、人間の目に触れる機会は少ないと言えるかもしれません。

寺山

前回の記事で、サメの中でも特徴的だという話がありましたが、そんなネズミザメの中でも、メガマウスは1科1属1種という存在なんですね。

2.神出鬼没!?
メガマウスの見られる海域とは

寺山

メガマウスは、一般的にどういう海で見られるのでしょうか?

沼口

神出鬼没です。

昔、生物学で魚は変温動物って習ったと思います。冷たいところに行くと、自分で保温できなくて死んでしまう。ですから、魚を飼育する方は、水温にはとても気を使いますよね。

でも、ネズミザメ目の場合は、自分で体温調整できる種類がいて、例えば、ホホジロザメとか、アオザメとか、オナガザメ系でいえばマオナガなど。

メガマウスザメはよくわかりませんが、仮に調整できる種だとすると、水温にあまり関係なく、深いところにもいけるし、ワールドワイドどこでも行ける可能性はあります。

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寺山

わりと適応できる水温の幅が広く行動範囲が広いということもあり、「この辺にはいる」「このルートを回遊している」などの情報がなかなかないんですね。そういう意味では、幻のサメって言いたい気持ちもわからなくはない。

沼口

メガマウスザメは、報告されていないものを含めると200尾以上になると思います。それを多いとするのか少ないとするのか。ちなみに、波左間のメガマウスザメ以降に全世界では少なくとも8個体のメガマウスザメが発見されています。

メガマウスザメの場合は、定置網に入ったり、ストランディング(注: 海生哺乳類が陸地に打ち上げられる、もしくは浅瀬や湾に迷い込んで身動きがとれない状態になること)で見つかることが多いので、定置網漁がある国の発見例が多かったりします。

日本や台湾からの報告例が多くあり、そのほかには、ハワイ、スリランカ、インドネシアなどから発見されています。これは決して、日本や台湾近海にメガマウスザメが多く生息しているのではなく、たまたまメガマウスザメが泳ぐ水深帯に網を置いている文化があるところで発見例が多いだけなのだと思います。

3.意外と浅いところにいる!?
“深海ザメ”の真実

寺山

“深海ザメ”というキャッチコピーを否定していましたが、生息する水深についてはどうなんでしょうか?

沼口

深海魚というのは定義がないので、深海ザメじゃないと否定するのもどうか、とは思います。
ただ、今のデータだと、深くても170mくらいしか潜ってないというデータがあります。

1997年にメガマウスザメをトラッキング調査した結果、夕方6時〜朝方6時までは表層におり、日中は水深120〜166mあたりにいることがわかった。海底の水深は800m前後の海域だったが、166mより深くにはいっていない。(*1)

1997年にメガマウスザメをトラッキング調査した結果、夕方6時〜朝方6時までは表層におり、日中は水深120〜166mあたりにいることがわかった。海底の水深は800m前後の海域だったが、166mより深くにはいっていない。(*1)

ですが、こちらもサンプリングが多いわけでもない。
また、メガマウスザメの肝臓を調べたら、深海ザメより表層のサメの組成成分に近かったという結果もあって、そうした今わかっているデータからは、“深海ザメ”というキャッチコピーはないんじゃないのかという……。

寺山

200mってのが、一応区切られている深海との境界線ってイメージでした。

沼口

そうですね。そのイメージで良いかと思います。葉緑体持った生物が光合成でるかできないの境が200mです。太陽光が届くかどうかで環境が大きく変わるので、200mより深いところを一般的に深海と呼ぶことが多いようです。深さによって生態系がまったく異なっていて、例えば1000mくらいまでをトワイライトゾーンと言い、発光生物が多くいたりします。

4.ヒゲクジラのように食べる!?
謎のメガマウスの捕食

寺山

前回、メガマウスの捕食シーンの映像はないとおっしゃっていましたが、沼口さんの想像では、メガマウスはエサをどのように食べていると思いますか?

沼口

ヒゲクジラの仲間と同じように食べているのではないかと言われています。口を広げて、オキアミなどを“こしとる”というのが、構造、形態学的な特徴から推測されている食べ方です。

例えば、ホホジロザメやアオザメ、オナガザメの仲間は胸ビレがシャキーンとついてるんですね。積極的に付け根部分から動かすことはなく、舵のような役割だと思っていいかと。

しかし、メガマウスザメは、筋肉の付き方が他のサメとは異なり、ヒレの付け根の可動域が広い。そんなことからも、ヒゲクジラに近い食べ方をしているんじゃないかと研究者の間では言われていて、それがもし撮れていたら世界初の凄い映像でした。

寺山

メガマウスの口の形を見ると、ジンベエザメのようにプランクトンをこして食べるような感じなのでしょうか?

沼口

そんな感じなんですけど、私の中ではちょっとあれ?と思う部分があります。

プランクトンフィーダーのサメの特徴は、エラにプランクトンをこす鰓耙(サイハ)があります。

メガマウスザメの鰓耙。一番内側のモップの毛みたいなのが鰓耙で、外側の白い部分がエラ。 東海大学海洋科学博物館にて撮影(写真提供/沼口麻子さん)

メガマウスザメの鰓耙。一番内側のモップの毛みたいなのが鰓耙で、外側の白い部分がエラ。 東海大学海洋科学博物館にて撮影(写真提供/沼口麻子さん)

プランクトンフィーダーと呼ばれているサメは、ジンベエザメ、ウバザメ、メガマウスザメの3種類で、ジンベエザメは明らかにネットみたいな鰓耙があるので、構造上、小さいプランクトンもこし取ることができることがわかります。

ウバザメの場合は、定置網に入った個体を解剖したことがありますが、彼らの鰓耙はヒゲクジラのヒゲのようなもので、プラスチックみたいなクシ状の細いのがぶわーとあります。

ウバザメの鰓耙。沖縄美ら海水族館での撮影(写真提供/沼口麻子さん)

ウバザメの鰓耙。沖縄美ら海水族館での撮影(写真提供/沼口麻子さん)

今回のメガマウスザメの鰓耙なんですが、硬くもない、絨毛突起みたいなブニブニしているやつがちょっとあるぐらい。水中で荒川さんが口の中を撮った写真をみるとそれが少しわかります。

メガマウスザメ口の中。鰓耙が見える(写真提供/波左間海中公園)

メガマウスザメ口の中。鰓耙が見える(写真提供/波左間海中公園)

他のサメと違って鰓耙があまり発達していないよう見えることから、プランクトン以外の何かを食べているんじゃないかなというのが個人的な感想です。

ただ、私もメガマウスザメは2回解剖したことがあって、その時はやっぱりオキアミとかサクラエビがいっぱい入っているから、プランクトンを食べていることは確かですが、果たしてプランクトンだけを食べているかというと疑問です。

彼らはプランクトンフィーダーのそれら3種類のサメの中でも歯は一番鋭く、作業中にそれが手に刺さり、流血してしまったスタッフもいました。

寺山

え?(笑)
ジンベエザメは目の前で口も中を見ましたが、“歯無し”というイメージ。

撮影/寺山英樹

撮影/寺山英樹

メガマウスは、結構鋭い歯なんですね。

沼口

米粒より大きいと言っても、1.5㎝ぐらいなんですが、わりと尖った歯がキュッと反り返っているように生えています。

写真提供/沼口麻子さん

写真提供/沼口麻子さん

5.正しい名前は“メガマウスザメ”

寺山

最後に基本的な話になってしまいますが、メガマウスに和名はありますか?

沼口

メガマウスシャークが一般的な英名で、和名は結構変遷があります。

最初は、オオクチザメと呼ばれていたようなのですが、定着しなくて、論文ではメガマウスが使われていました。そのあと、サメの研究者がメディアでメガマウスザメの話しする時に、メガマウス「ザメ」と言ったのです。

それ以降、みんながメガマウスザメを使うようになり、今は、図鑑などではメガマウスザメになっています。これが標準和名でしょう。
今回の報道では、最初にNHKがメガマウスと言ったからか、みんなメガマウスと出ていますが、メガマウスザメの方がよいかもしれませんね。

寺山

え! メガマウスって和名だったんですか! 正しくはメガマウスザメですけど。知らなった。それが一番驚きました(笑)。勝手に、マンタ的なものだと思っていました(注:マンタの和名はオニイトマキエイ)。

沼口

そう。英名そのまんま、でっかい口のサメなんですよ(笑)。

(続く)

(*1)
引用元:論文タイトル An acoustic tracking of a megamouth shark, Megachasma pelagios : a crepuscular vertical migrator
著者 Donald R. Nelson1, James N. McKibben1, Wesley R. Strong, Jr.2, Christopher G. Lowe1, Joseph A. Sisneros1, Donna M. Schroeder2& Robert J. Lavenberg3 1Department of Biological Sciences, California State University, Long Beach, CA 90840, U.S.A. 2Department of Biological Sciences, University of California, Santa Barbara, CA 93106, U.S.A. 3Natural History Museum of Los Angeles County, Section of Ichthyology, Los Angeles, CA 90007, U.S.A.
雑誌名 Environmental Biology of Fishes 49 : 389-399, 1997.

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PROFILE
法政大学アクアダイビング時にダイビングインストラクター資格を取得。
卒業後は、ダイビング誌の編集者として世界の海を行脚。
潜ったダイビングポイントは500を超え、夢は誰よりもいろんな海を潜ること。
ダイビング入門誌副編集長を経て、「ocean+α」を立ち上げ初代編集長に。

現在、フリーランスとして、ダイバーがより安全に楽しく潜るため、新しい選択肢を提供するため、
そして、ダイビング業界で働く人が幸せになれる環境を作るために、深海に潜伏して活動中。

〇詳細プロフィール/コンタクト
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〇問い合わせ・連絡先
teraniku@gmail.com

■著書:「スキルアップ寺子屋」、「スキルアップ寺子屋NEO」
■DVD:「絶対☆ダイビングスキル10」、「奥義☆ダイビングスキル20」
■安全ダイビング提言集
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