シャークジャーナリスト沼口麻子さんとメガマウス・フィーバーを振り返る(第5回)

繁殖に時間のかかるサメの保護で大事なこと

DSC_6185

サメは繁殖に時間がかかるので
乱獲するといなくなってしまう

寺山

話が少し逸れますが、沼口さんが一番会いたいサメって何ですか?

沼口

ずっとウバザメに会いたい思いが強かったんですが、この前、ついにスコットランドで会うことができました。生きているメガマウスザメも貴重ですが、絶滅危惧種にリストアップされているウバザメは、なかなか出会うことができないのですごく貴重な体験でした。

そのときの様子です。

寺山

ウバザメの方が貴重なんですね。確かに、日本で見たというのは聞いたことがないかも。

沼口

今現在では残念ながら貴重なサメとなってしまいましたが、実は、昔は日本近海にもたくさんいたらしんです。ただ、日本では、ウバザメの突きん棒漁(注:泳ぐ獲物を銛で突いて捕る漁)を結構やっていたんですよ。

肝油も取れるし、肉も美味しいし、ヒレも売れる。その上、ウバザメは“バカザメ”とも呼ばれていて、自分から船に近よってくるので、今の感覚でいえば、乱獲されてしまった。

文献によれば、1960〜1970年代、三重県波切という場所でかなりの数が漁獲されていたようです。

寺山

日本にそんなにいたなんて! サメの場合は、繁殖するのに時間がかかりますから、一度、捕ってしまうとなかなか元に戻すのは難しい。

沼口

はい。サメというのは長寿で、成熟年齢が遅い。そのうえ子供も少ないので、人間が介在してとっちゃうと、すぐ絶滅しちゃう。

ウバザメは最大12m。5〜6mの成熟になるまでとても時間がかかるので、その前にいっぱい殺してしまうと、先につながらない。

寺山

メガマウスも同じですよね?

沼口

メガマウスザメは妊娠個体がまだ見つかってないので、分からない部分も多いですが、多分、ウバザメと同じように多産ではないと思われます。

サメの保護は必要だけど
科学的視点が大事

寺山

最近、サメは保護活動も盛んですよね。

沼口

フカヒレを象徴としたサメの漁のほか、マグロのように狙ってとっているわけではなく、たまたま定置網に入ってしまうケースも多い。はえ縄でとれてしまう二次的なものなので、そこをどうコントロールするのかはなかなか難しい問題です。海外からすれば、はえ縄をやめろという話かもしれませんが、生活かかっている方たちもいますからね。

寺山

加えて、イルカやクジラのように、サメも愛護やイデオロギーなど、宗教観による国民性の違いなど、いろんな問題がのってきやすいので、冷静にどうやって調整していくかは難しい問題ですね。「もうフカヒレ食べない!」と脊髄反射する人とは、なかなか話ができないとは思いつつ、あのヒレを切られて捨てられる絵力は強いですからね……。

寺山

科学的視点が大事だと思いつつも、そこまで生態も知られておらず、データも把握されていない印象も受けます。メガマウスでもそうでしたが、もともと人間が住む場所でなく、流動性の高い海の場合、サンプリングとか分布の把握は難しい……。

データを集めることが難しいといっているうちに手遅れになってはいけないですが、海の世界はわりと情動的にいきがちなので、科学者や沼口さんのようなジャーナリストの存在は大事です。

沼口

ただ、有名な過激団体はともかく、最近は、ダイバーや研究者でも愛護心が多い人がいて、エビデンスより感情が先にたって怖いというのは結構聞きます。

寺山

そうなんですか……。

イルカやクジラなどの哺乳類って擬人化しやすいですし、欧米の自然観では人間に近い仲間という感覚があったりしますが、海洋哺乳類を撮る最前線カメラマンである越智さんが面白いのは、ご都合主義の擬人化を避け、ありのままの自然を見つめるまなざしがある。こういう視点が大事だなと思います。

例えば、著書であるクジラをテーマにした子供向けの絵本の中に“死”という言葉が普通に出てくる。それに、本のタイトルが「まいごになった子どものクジラ」にもかかわらず、「迷子ということ自体も、ひょっとしたら人間の勝手な思い込みかもしれない」と自分で突っ込みをいれています。

御蔵島観光協会の小木さんなんかも、「イルカが笑っていてかわいい」と喜ぶ観光客を横目に、「笑っているのはこちらの解釈で、行動生態学の見地からは……」と冷静に返ってくる(笑)。

水中カメラマンや研究者、沼口さんのようなジャーナリストなど、影響力ある方の立ち位置や発信は大事ですよね。まあ、それを拡散するメディアもですけど。

DSC_6156

沼口

メディアの存在は大事です。メガマウスザメの時に実感しました。
ただ単に、一匹のサメでこんな風になるんだなって。しかも、間違った情報とイメージも一気に広がってしまい、ちょっと怖いですよね。
ですので、こうやって冷静に振り返ることはとても大事だと思います。

寺山

ここだけの話、僕らが現地取材しなかったのは、呑気にしてたら、盛り上がりに乗り遅れたってのが真実ですけどね(笑)。でも、おっしゃる通り、冷静に振り返って正しい情報を発信することは大事ですね。

沼口

今回、メガマウスザメについて、きちんとお伝えすることができてよかったです。今後ともよろシャークお願いします。

寺山

僕も裏側が知れておもしろかったし、知らないことも多く、とても勉強になりました。
ありがとうございました。そして、今後とも、よ、よろシャークお願いします(照)。

(終わり)

\メルマガ会員募集中/

週に2回、今読んで欲しいオーシャナの記事をピックアップしてお届けします♪
メールアドレスを入力して簡単登録はこちらから↓↓

writer
PROFILE
法政大学アクアダイビング時にダイビングインストラクター資格を取得。
卒業後は、ダイビング誌の編集者として世界の海を行脚。
潜ったダイビングポイントは500を超え、夢は誰よりもいろんな海を潜ること。
ダイビング入門誌副編集長を経て、「ocean+α」を立ち上げ初代編集長に。

現在、フリーランスとして、ダイバーがより安全に楽しく潜るため、新しい選択肢を提供するため、
そして、ダイビング業界で働く人が幸せになれる環境を作るために、深海に潜伏して活動中。

〇詳細プロフィール/コンタクト
https://divingman.co.jp/profile/
〇NPOプロジェクトセーフダイブ
http://safedive.or.jp/
〇問い合わせ・連絡先
teraniku@gmail.com

■著書:「スキルアップ寺子屋」、「スキルアップ寺子屋NEO」
■DVD:「絶対☆ダイビングスキル10」、「奥義☆ダイビングスキル20」
■安全ダイビング提言集
http://safedive.or.jp/journal
  • facebook
  • twitter
FOLLOW