シャークジャーナリスト沼口麻子さんとメガマウス・フィーバーを振り返る(第3回)

いくらなの? 利用方法は? 死んでしまったメガマウスのその後 

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引き上げ作業中に外部形態の観察をする沼口さん(写真提供/波左間海中公園)

引き上げ作業中に外部形態の観察をする沼口さん(写真提供/波左間海中公園)

その後、どうなったの?
死んでしまったメガマウス

寺山

死んだ後のメガマウスはどうなったのでしょうか?

沼口

メガマウスザメをどうするかの問題は、長時間話し合いがもたれていました。

荒川さんとしては、本当は、水族館に生きたまま渡したかったけど死んでしまったので、水族館の人に引き取ってもらい、研究に役立てて欲しいという強い思いがありました。

そこからは、水族館同士の交渉が続いていました。

全国各地から水族館関係者が駆けつけており、死んでしまったということで引き上げるところや、血液サンプルを取るなどして帰っていく水族館もありました。残ったのはA水族館で、荒川さんもつながりのある彼らに譲りたいと言っていたのですが、水族館としても冷凍庫やトラックをいきなり用意できないので難しい。
波左間から一番近い水族館であるB水族館のスタッフの方が大型生物の扱いに慣れているということで加わり、そこから6時間ぐらいは3社会談が行われていました。その交渉にあたる荒川さん、スタッフの皆さん、漁師さんもヘトヘトでした。

死んだメガマウスっていくら?
利用方法・価値は考え方次第

寺山

そんな裏のドラマがあったんですね。率直に、メガマウスは高く売れるという勝手なイメージをもっていましたが、相場がまったく想像つかない……。

沼口

相場とかはなくて、もちろん、お金持ちのマニアだったら高くても買いたいという人もいるかもしれませんが、いくらつまれても荒川さんは売らなかったと思います。あくまで、A水族館に有効利用してもらいたいという強い思いがありました。
荒川さんとしては、利益を得るつもりはないけれど、この作業にかかった漁師さんの経費の一部を負担して欲しいと交渉したが、難航していました。

それで、荒川さんもあきれて「沖に捨ててくる」となったのですが、それでも水族館の人たちはやっぱり欲しいので、どうにかみたいな感じで……。

寺山

大変そうな交渉だ……。

よく価値がわかっていないのですが、死んでいても研究としての価値は高い気がするんですが、どうなんでしょうか?

沼口

それは考え方、利用の仕方次第ですが、喉から手が出るほど欲しい研究者もいたとは思います。また、研究でなくても、標本で集客できたりしますからね。
たとえば、東海大学海洋科学博物館には2個体はく製があるんですけど、相場からしてはく製制作費で1千万円以上かかっているのではないでしょうか。それでも元がとれるっていう計算でやっているはずなので、かなり集客になるって水族館側は見ている可能性があります。

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寺山

でも、本来、水族館は研究施設があるはずですよね? 研究にも活かせないのでしょうか?

沼口

研究には活かして欲しいと個人的には思うのですが、なにせ、突然のことなので、そもそも何に使う目的でどう保管したらいいのか、プランや考えがまったくなかったのではないかと思います。小さな生き物であれば、冷凍庫の片隅にいれてから検討できるのでしょうが、大型生物はそれ専用の冷凍庫やトラックを用意しなければなりませんから、いろいろと大変です。
どうすればいいか分からないとなって、結局1日置くことに……。

寺山

置くっていうのは、イケスに放置ってことですか?

沼口さん

そうです。イケスの中にそのまま。結局、会談が終わったのが夜の20時になってしまったので、もう引き上げられないし、決着もつかない。
とりあえず、大型生物に慣れているB水族館が冷蔵庫とトラックを手配できるとなったので、翌日引き上げることになったんです。この時、私も一緒に引き上げ作業に入らせてもらいました。

(写真提供/波左間海中公園 高橋和也)

(写真提供/波左間海中公園 高橋和也)

その後、無事に冷蔵庫に搬入。
しかし、冷蔵庫だと1週間もたないので、すぐに冷凍庫に入れ替えて保管されたようです。

寺山

これがもし生きていたら、結構なお金になったんでしょうか?  お金になるのであれば、今後は捨てられずに、発見も増えるということにはならないのでしょうか?

沼口

漁師さん次第でしょうけど、普通は定置網に入っても、生きたまま水揚げできるというルートがないから、今まで通り、みんな海にリリースするのではないかと思います。やっぱり、大型のサメを丁寧に扱うことができるのは、波左間くらいぐらいじゃないでしょうか。

寺山

なるほど。荒川さんのような方がいないとってことなんですね。
では、泳ぐ姿の映像は、それはそれで研究的価値はありそうですが、どうなんでしょうか?

沼口さん

確かに、日本では、ここまでしっかり撮れたのは、たぶん初めてだと思います。たらればですが、もし生きていて、エサを食べているという映像が撮れていたらもっと貴重。世界的なスクープでした。メガマウスザメがどうやってエサを食べているかって、実は誰も見たことがないんですよ。荒川さんが2日目にエサを用意してスタンバイしていたので、個人的にはにはそれを観察できなかったことが悔しいです。

寺山

お話を聞いていると、幻とまではいかないですが、まだまだ知られていないサメという印象があります。ここからは、メガマウス自体のことをもう少しつっこんで、お聞きしたいと思います。

(続く)

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PROFILE
法政大学アクアダイビング時にダイビングインストラクター資格を取得。
卒業後は、ダイビング誌の編集者として世界の海を行脚。
潜ったダイビングポイントは500を超え、夢は誰よりもいろんな海を潜ること。
ダイビング入門誌副編集長を経て、「ocean+α」を立ち上げ初代編集長に。

現在、フリーランスとして、ダイバーがより安全に楽しく潜るため、新しい選択肢を提供するため、
そして、ダイビング業界で働く人が幸せになれる環境を作るために、深海に潜伏して活動中。

〇詳細プロフィール/コンタクト
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■著書:「スキルアップ寺子屋」、「スキルアップ寺子屋NEO」
■DVD:「絶対☆ダイビングスキル10」、「奥義☆ダイビングスキル20」
■安全ダイビング提言集
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