ナイトロックスのウソ・ホント3

ダイビング歴45年・やどかり仙人のアップアップ相談室

■前回は→こちら

酸素が多けりゃいいのか?

ナイトロックスはEANなんていいますな。
エンリッチド・エア・ナイトロックスの頭文字をとっております。
直訳すれば増量空気、酸素を増量しているってわけであります。
話がそれますが、お近くの危ないお国で作っているとかいないとかの濃縮ウラン、
その濃縮もエンリッチドであります。それにしてもなんとも長ったらしいネーミングですな。
高酸素空気とか、低窒素空気といったらわかりやすかろうに……。

これまでのお話は、窒素が少ない、少なくする利点ですが、
では酸素をエンリッチすることのメリットがどれほどあるかということになります。
この相談室は、理屈の話をしているスペースはございませんが、
ちょっと当たり前といえば当たり前のことを、頭に入れていただきたい。

ナイトロックス32、ナイトロックス36は、窒素だけで考えれば、
それぞれ15%、20%をカットしているだけですが、
酸素はそれぞれ1.6倍、1.8倍まで増量されております。
当然、人体への影響度も大きくなる、しかも深度の影響も大きくなるという理屈であります。

どうしても私たちダイバーには、窒素は悪玉(たしかに悪者です)で
酸素は善ダマみたいな、事前インプットが頭の中にありますな。

酸素がいつでも最良の友人でないのは、ナイトロックスの大幅に増量された酸素が、
その分酸素中毒の安全深度領域を大幅に減らすことからもわかります。
特に中枢神経系の酸素中毒は、痙攣とか意識喪失をともなうので、
溺れにもつながるリスクがあります。
計算上では5mほどの深度ミスで危険領域に入っちまう可能性がありますな。

これが、かつてナイトロックスが、リクリエーションダイビングに向いているかどうかの、
業界全体での長い論争の大きな理由の1つでありました。

酸素が多いと、頭すっきり!?
かつては酸素が多いので、頭すっきり、水中で行動力倍増なんて言いましたが、
窒素酔いの影響は少ないでしょうからやや納得でも、
行動力のほうはどうも怪しげですね。

酸素の圧力は空気だって、10mで2倍、20mで3倍になる勘定ですが、
だからといって、スーパーマンになった方はおられません。
酸素ってのは足りないのは困り者ですが、多くあってもあまり役に立ちません。
どこかのダイバーの、視野が広がるとか、はては耳抜きがしやすい?
なんてご感想もあるようですが、
あくまでもご感想なので、まったく否定はできません。

疲労感が少ないは賛否両論
使用後の疲労感が少ないという神話。
これがナイトロックスの利点の1つとされております。
事実多くのダイバーが疲労感の少なさを感じています。

ところが学者の先生の中でも議論があって、
疲労感のなさは証明されていると言い切る先生もあれば、
チャンバーで比較実験をして、区別がつかなかったという研究データもあるようです。
どちらにしても、酸素が多いからという単純な理由ではなく、
ナイトロックスを使うことで、
組織の異物であるマイクロバブルへの免疫作用の影響の結果ともいわれているようです。
まー、科学的真実はどうあれ、本当に疲労感が少なくてすめば、
それはそれでよろしいわけであります。悪いお話ではないのですから。

器材の条件がちょと面倒
これまた酸素濃度が高い分だけ、可燃性についての配慮が必要とされております。
ナイトロックス40までは普通のレギュレーターで対応できるというのが、
一応コンセンサスであります。
それとナイトロックス対応のダイブコンピューターが必要ということになりますが、
それらのお話はまたの機会にいたしましょう。

話があちこちに飛んだりで、走ったりで、申し訳ございません。
そろそろ、ナイトロックス・コースをを受けた方がよいかという、ご質問に戻りましょう。

お勧めします。
ナイトロックス本来のSAFE AIRとして使い方の勉強ができます。
九州や沖縄で、ナイトロックスのデリバリーが、スタートしたようです。朗報ですな。
遠いリゾートでなくても、ウイークエンドで6ダイブなんて頑張り屋が多い時代ですから、
ぜひナイトロックスを空気モードでダイビングしていただければ、
安全マージンがかせげますぞ。

ナイトロックスについてはまだまだ山ほど書き足りないことがありますので、
いずれの機会に。

\メルマガ会員募集中/

週に2回、今読んで欲しいオーシャナの記事をピックアップしてお届けします♪
メールアドレスを入力して簡単登録はこちらから↓↓

登録
PROFILE
1964年にダイビングを始め、インストラクター制度の導入に務めるなど、PADIナンバー“伝説の2桁”を誇るダイビング界の生き字引。
インストラクターをやめ、マスコミを定年退職した今は、ギターとB級グルメが楽しみの日々。
つねづね自由に住居を脱ぎかえるヤドカリの地味・自由さにあこがれる。
ダイコンよりテーブル、マンタよりホンダワラの中のメバルが好き。
本名の唐沢嘉昭で、ダイビングマニュアルをはじめ、ダイビング関連の訳書多数。
FOLLOW