同じようで違う!? ダイブコンピュータ
ダイビング歴45年。やどかり仙人のぶつぶつ多事争論。
日本中が、怖い、心細い毎日を送っている最中、
ダイビングの話などしている場合ではなかろうと、
やや躊躇気味に筆を進めておるヤドカリ爺であります。
今回の大地震・津波はともかく、原子力発電所の事故は、
本当に人智も及ばないほどのレベルであったのでしょうか?
想像もつかない、つまり完全に想定外だったのでありましょうか?
そのあたりのところを、知っておきたいと切に思いますな。
ヤドカリ爺の年齢になると、いかに地震列島の住民であるにしても、
次の地震は、短い余生のうちにあるかなどと、
手前の都合で考えたくなりますが現実はそうはいきません。
しっかりと将来を見据えていかねばなりません。
と長い前置きになりましたが、
今回のヤドカリ爺のブツブツ日記は、”想定外”を考えてみることにいたしまする。
■ダイブテーブルが想定しているのは、どんなダイビング!?
ダイブコンピューターの時代に、ダイブテーブルを使えなどとは言えませんな。
ただ、腹の底では、1日に2ダイブくらいのダイビングなら、
安全マージンの大きいダイブテーブルのほうがよほど安心だと思っておりますし、
はるかに安上がりであります。
ダイブコンピューターは、それぞれに、計算のベースになる、
母なるダイブテーブルを持っております。
まるで姿形は似てはおりませぬが、ご先祖でございます。
世の中のダイバーのダイブコンピューターの普及率は80%やら90%といわれておりますが、
なぜかダイビング団体は、ビギナーコースでは、ダイブテーブルを教えております。
日本のNAUIのコースでは、US・NAVYのテーブルの修正タイプを、PADIは、
独自人開発したリクリエーション・ダイブ・プラナー(RDP)を。
また他の団体は、ビュールマン・モデル、あるいはスイスモデルといわれるダイブテーブル。
イギリスの団体BSACは、イギリス海軍が開発したRNPを使うなど、
まさにさまざ間であります。
それどころか、ほかにも、RGBM、DCIEなどと横文字ばかりが並びますが、
世界各国には多種多様のダイブテーブルが、
それなりの考え方のもとに作られているのであります。
さらに使用目的に合わせて、モディファイドなどと申して、
それぞれに修正ヴァージョンもあるわけでございます。
その一方で、ダイブコンピューターに最も多くの機種に採用されているのは、
スイスのチューリッヒ大学のビュールマン先生が開発した、
スイスモデル、あるいはビュールマンモデルといわれているダイブテーブルであります。
正しく言えば計算式であります。
最近話題になったTUSAのIQ850といったダイブコンピューターも
このスイスモデルの系列に入ります。
ダイブコンピューターはこの母なるダイブテーブルの性格を、
そのまま受け継いでおります。
にもかかわらず、えらく保守的なダイブテーブルもあれば、
とてつもなく楽観的なテーブルもあります。
特に水面休息時間となると大きな違いが出ます。
その違いが、なぜ、どうして、と想像もつかぬほどの大きな時間の違いなのであります。
ここで、おいらはダイブコンピューターしか使わんし、
関係ないからスルーしようと思われる方もおられるでしょうが、
ダイブコンピューターの母なるダイブテーブルの性格の話であります。
頭の端にでも残しておかれると、決してご損のない話であります。
■ダイブテーブルの比較。その驚きの結果
たくさんあるダイブテーブルを比較してみた研究熱心なお方がおられます。
カール・ハギンスとハリス・テイラーというお2方で、
ダイブコンピューターの開発やダイブテーブルの研究で
よく知られているお方のようであります。
比べてみると、どれもよく似たダイブテーブルが、
まるで天と地、月とすっぽんぐらいの結果の違いがあるのであります。
これにはヤドカリ爺もびっくりでありました。
比較したのは10のダイブテーブル。
そのすべてをここでご紹介するわけにもいきませんので、
比較的ポピュラーなUS.NAVY、スイスモデル、RDPのホイール、BSAC
の結果をご紹介しておくことにしましょう。
どんな比較をしたかというと、その基本プランは以下の通りです。
【プラン】
1.第1回ダイブ:26mにそれぞれの無減圧リミット(NDL)までダイビングをする
2.水面休息:2時間40分の水面休息
3.第2回ダイブ:19mにそれぞれの無減圧のダイビングをする
4.第3回ダイブのための水面休息時間:
それぞれ16m/40分の第3回ダイブをするための水面休息時間を計算する。
リクリエーション・ダイビングでは、ごく当たり前のダイビングのスタイルであります。
しかし、それぞれのダイブテーブルで計算してみると、、、、。
【求めるデータ】
① 26mの無減圧リミット(NDL)
② 水面休息2時間40分後の19mの無減圧リミット(NDL)
③ 19m無減圧ダイブ後に16m40分のNO.3ダイブをする待機時間
【結果】 ① ② ③
US NAVY 30分 35分 2時間48分
スイスモデル 20分 21分 4時間
RDPホイール 27分 40分 24分
BSAC 24分 10分 16時間
RDPはPADIの採用しているダイブテーブル。BSACはその名のとおり、
イギリスのブリティッシュ・サブ・アクア・クラブのダイブテーブル。
どちらもリクリエーションダイビングで使用されているテーブルであります。
結果はチョー楽観的なRDP、ウルトラ保守的なBSACという計算結果であります。
NO1ダイブのNDLは27分と24分とわずかな違いでありますが、
NO2ダイブは、なんとNO2ダイブ40分と10分。
ダイビング可能時間が4倍であります。
さらには、NO2ダイブからNO3ダイブまでの待機時間となると、
かたやRDPホイールの24分、そしてこなたBSACの16時間。
これは比較のしようもない大差であります。
ダイビング自体はほとんど同じであっても、この大差。
これではダイバーは何を信じてよいか分かりませんな。
ほとんど信仰の世界のお話のようであります。
■同じテーブルなのになぜこの違い!?
一言で言えば、それぞれのダイブテーブルが体にたまった窒素の排出を、
どれぐらい遅い組織で見積っているかなのでありますな。
例えば、NO3ダイブの待機時間16時間というBSACのテーブルは、
まず基本になっている減圧理論が他の3テーブルとは違っているのと、
基本的に反復ダイビングをしないとうスタンスであります。
RDPホイー
ル、US.NAVYはそれぞれ、60分と120分という組織を
最も排出が遅い組織として想定しており、
これより排出が遅い組織を計算をカットしております。
その理由は簡単であります。
ひとつは現実には、吸収・排出の遅いに窒素がたまるような、
極度に長時間のダイビングはしないだろう、
従って窒素は極端に吸収・排出の遅い組織には、
それほどは溜まらんだろう、という前提にしております。
あまり前回のダイビングの影響に配慮しすぎると、
やたら待機時間が長くなってしまい、
実用的でなくなってしまうからであります。
さらにその考えを推し進めたのが、RDPであります。
リクリエーションダイビングの40m以内の無減圧ダイビングをルールとしているので、
PADIのRDPは、反復ダイビングについてはチョー楽観的、
上の表の水面休息がわずか24分といった結果になります。
つまり、RDPはは短時間の反復ダイビングを繰り返すことを、
想定して作られているということであります。
一方で、ダイブコンピューターに最も多く採用されている、
計算上手なスイスモデルは、かなりコンサバティブになっております。
想定しているダイビングの守備範囲がもう少し広いことになります。
それぞれの想定はともかく、RDPがこれほど楽観的でよいのか、
BSACがこれほどコンサバティブでよいのかと思うわけであります。
もちろん、それぞれのダイブテーブルを開発するにあたって、
いずれも相応のシミュレーションや人体実験をして、
その有効性を確認し、それなりの実績があって、
必ずしもどちらがよいとはいえないのですな。
安全なダイブテーブル、ダイブコンピューターを作ることは簡単であります。
ひたすら時間を削り、深度を削ればよいのですから。
突き詰めていくとダイビングをしないのが最も安全ってことになっちまいます。
RDPがこれほど楽観的でよいのか、
BSACがこれほどコンサバティブでよいのかと思うわけであります。
長々とダイブテーブルのことなど書きましたが、
ヤドカリ爺が心配しておるのは、ダイブコンピューター全盛時代であっても、
ダイブコンピューターのベースになっているダイブテーブル、
正確に言えば、その計算モデル、アルゴリズムに
もう少し気を使っていただきたいと思うからであります。
せめて、コンピューターをお買い求めの際には、
「このコンピューターのアルゴリズムは何ですか?」と、
ダイビングショップのスタッフに確認していただきたいと思うのであります。
ダイブテーブル時代の過去形ダイバー、ヤドカリ爺の心からの提言であります。