嬉しい誤算とアクアの思い出
学連総会、新入生歓迎会を終えても、晴れることのない思い。
俺、ダイビングのクラブに入ったんじゃなかったっけ?
その思いが少し晴れるときがくる。
いよいよ3点セットとウエットスーツを買いに行くときがきたのだ。
当時OBが働いていたMAUIという器材販売店(今でもここで買い物しております)に連れていかれる。
まず、フィンは“泳ぐ”ということに重きを置いたクラブの伝統で必ずフルフット。
安価でビギナーでも扱いやすいということでGULLのミューを購入。
マスクとスノーケルもGULL。色はレモンイエロー。
ウエットスーツは確かオリジナルだったと思うが、色は黒字にやはりレモンイエローのライン。
ザ・初心者の一丁あがり。今思うと、ちょっと恥ずかしい。
そして、最後にウエイトベルトとウエイトを購入。
今ではウエイトを購入するのは珍しいが、当時は「そんなものか」と疑問を持たなかった。
後になって、伊豆の海洋練習へ参加するため、腰にウエイト6㌔巻いて電車を乗っている時に気づく。
「ダイバーで、ウエイト持ってきているの俺らだけじゃね?」、
「ってか、笑われてね?」と新入生同士でささやきあったものだ。
最初に出会うショップが大事だとわかるエピソードかも(笑)。
孵ったばかりの雛は、目の前のモノを盲目的に信じるしかない。
話を戻して、器材を購入した僕はそりゃやっぱり嬉しい。
さすがに鶏の3歩はバカ過ぎるが、丸一日でだいたいのことを忘れるちょいバカなテラ青年は、それまでのいろいろおかしなことを、嬉しさでとりあえず忘れてしまう。
そして、いよいよ練習が始まる。
クラブは週に2回のミーティングとプールでのフリッパー(3点セットを付けて泳ぐ)練習が必須で、よっぽどのことがなければ休めない。
ミーティングには、先の新入生歓迎会の反省文を提出しなくていけなかったので、「ラベルがこっちを向いていてすいません」的なことと、「髪型はダイビングには関係ないと思います」的なレポートを提出。
上級生からの「お前ら、ビ〜ルをつぐタイミングがよ〜〜〜」というありがたいお言葉は丁重に右から左へ受け流し、プールで3点を使うことのみを楽しみに、圧迫面接のようなミーティングをやり過ごす。
ミーティング後、代々アクアの部員がアルバイトとして働いているスポーツクラブの前に整列。
ちなみに1分でも遅れたら大問題。泣くほど叱られる。
社会人になったおき、定時に来ない編集部にびっくりしたものだ。
すぐに自分もそうなったけど。
話を戻して、ピカピカの3点を抱え整列する僕ら新入生。
先輩たちからありがたいお言葉をいただき、ありがたいので僕らはその都度、新宿に響き渡る声で、「ありがと〜〜〜ございま、したっ!」と叫ぶ。
トレーナーという役職の先輩からメニューが発表され、いよいよプール練習が始まる。
練習は、営業終了後にプールを借りて行なわれる。
アップキック、ダウンキック、サイドキックなど、
フィンキックの基礎をとことこん練習。
さらに、ダッシュやらインターバルやら長距離やら結構泳ぐ。
1年生の僕らにはかなり辛い。浪人生活でなまった僕の体は悲鳴を上げる。
「俺はダイビングのクラブに入ったんじゃなかったっけ?」という疑問が、
新たな疑問へと変わった瞬間だ。
ダイビングって、
こんなに辛い思いしないとできないの?
当時、遅めのチェリーボーイをやっと脱出したばかりのテラ青年は、
ただチャラチャラ潜りたいだけなのだ。
長距離では女性の先輩にもスイスイ抜かれていく。
剣道はそこそこ強かっただけに、とっても惨めな気分。
しかし、抜かれた後に、
かわいい女性の先輩の後にピタッとついていくという楽しみを
早くに見つけられたことは不幸中の幸いだ。
よく考えてみてほしい。
これほどの絶景を誰にも怒られることなく見ていられるのは、
フリッパー練習でしかありえないことだ。
辛い練習。これくらいの楽しみがなければやっていけない。
1500㍍とか20分間という長距離フリッパーのとき、
僕は適当に泳ぎながらも、かわいい女性の先輩に抜かれたときにだけ、
力を振り絞り追走するという独特の泳法を編み出した。
そんな僕の泳ぎを先輩は、
「寺山は、抜かれても歯をくいしばってついていくところが偉い」
と、みんなの前で褒めてくれた。
どははははは。
とまあ、おもしろおかしく書いてきたが、
このときやったことは今でも役に立っているし、
ダイバーは基本的には「泳げないとダメだよな〜」と思うに至る原点でもある。
上下関係や伝統などの問題をなしにすれば、
ダイバーとしての基礎体力が完璧に身に付く理想的な練習だった。
しかし、上下関係や伝統などの問題をなしにできない
多くの同期がやめてしまったのだが……。
※気が向いたら続く。
ありし日の同期12人。死んでないけど。
みんな、何やってるんだろ……。