半ソデ半ズボン

この寒空の下、
本鵠沼で半ソデ半ズボンの小学生くらいの子を見た。
触発された僕は、編集部で半ソデになって働いていると、
社員の方たちから怪しい目で見られ、
そして何より寒かったので、すぐに上着を着た。
そのとき、「昔、そういう子いましたよね〜」と皆が言っていたが、
思い起こせば、確かにそういうおバカな子ってのは学年に一人くらいいた。
はい、おバカな子でした。


小学1年生から5年生まで雨にも負けず、風にも負けず、
雪の日だって半ソデ半ズボン。
おまけに校内では裸足。それを許した当時の先生は素晴らしい。
しかし、6年生で色気づき、
横浜でサーフィンなんかしちゃっている
5つ上の親戚からもらった革ジャンを着るようになってしまった。
半ソデ半ズボンの体育着の上にブカブカの高級革ジャン。
かわいそうな子である。
「どうして半ソデ半ズボンだったの?」とよく聞かれるが、
深く心の奥を見つめれば、自己愛や自尊心など、
“自分の存在”という類の話になっていくわけだが、
もっと簡単に言えば、
引っ込みがつかないのだ。
皆、同じ人間。多少の差はあれ、雪の日は誰だって寒い。
半ソデ半ズボンの子に大人がかける「すごいわね〜」という言葉が、
「おバカね〜」という意味だと今なら知っているが、
童貞で“女性は素晴らしいものだ”という幻想にすら気がつかない
ピュアな心を持つテラ少年は言葉通りに受けとめる。
「すごいわね〜」と言われれば、
そりゃ「たいしたことないやいっ」って目をキラキラさせちゃうわけである。
愛い奴じゃ。
ちなみに、僕は義務教育9ヵ年皆勤賞だが、
これも引っ込みがつかなかったからに他ならない。
確かに健康優良児ではあったが、それでもたまには体調を崩す。
そんなときは、同じく引っ込みがつかなくなった家族が完全サポート。
例えば高熱が出たとき。
父スズオは肉屋の配達用の荷台に僕を押し込み、
僕を学校に運んで門の前で待つ。
僕はフラフラになりつつも朝の朝礼に5分だけ参加し、
事前に連絡を受けていた同じく引っ込みのつかなくなった
先生に抱えられて車に戻る。
5分しか学校にいなくてもこれで早退扱い。
本末転倒だが、引っ込みがつかないのだから仕方ない。
そんな引っ込みがつかない少年から
引っ込みをつけることが多い大人になってしまった僕には、
きっと寒くてしかたない本鵠沼の彼がキラキラまぶしく見えた。
いや、まぶしいは大げさだが、
かわいそうな子の大先輩としては、
「すごいね〜」って言ってあげる義務があったとちょっと後悔。
照れつつも誇らしげに「そんなことないです」って言う顔を見たかったなぁ。
そういえば、Tシャツ短パンで潜っている欧米人ダイバーも
ただ引っ込みがつかないのかもしれない(笑)。

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PROFILE
法政大学アクアダイビング時にダイビングインストラクター資格を取得。
卒業後は、ダイビング誌の編集者として世界の海を行脚。
潜ったダイビングポイントは500を超え、夢は誰よりもいろんな海を潜ること。
ダイビング入門誌副編集長を経て、「ocean+α」を立ち上げ初代編集長に。

現在、フリーランスとして、ダイバーがより安全に楽しく潜るため、新しい選択肢を提供するため、
そして、ダイビング業界で働く人が幸せになれる環境を作るために、深海に潜伏して活動中。

〇詳細プロフィール/コンタクト
https://divingman.co.jp/profile/
〇NPOプロジェクトセーフダイブ
http://safedive.or.jp/
〇問い合わせ・連絡先
teraniku@gmail.com

■著書:「スキルアップ寺子屋」、「スキルアップ寺子屋NEO」
■DVD:「絶対☆ダイビングスキル10」、「奥義☆ダイビングスキル20」
■安全ダイビング提言集
http://safedive.or.jp/journal
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