サイドマウントでのダイビングのメリットとは?初めてのサイドマウント
サイドマウントって何? メリットは?
ダイビング指導団体の最大手PADIのスペシャルティ・コースの登場以来、ずっとやってみたかったサイドマウント・ダイビングを体験してきました。
サイドマウント・ダイビングとは、簡単に言えば、「タンクを、従来の背中ではなく、ダイバーの身体の脇(腕の下)に取りつけて潜るダイビング」のことです。
※タンクを2つ使用するダブルタンクだけでなく、1本使用のシングルパターンもあります。
サイドマウント、しかもダブルタンクとなると、テックダイビングという特殊なダイバーたちの世界の話のようですが、今回ご教授いただいたTDCJ(テクニカルダイビングセンタージャパン) の石井隆さんによれば、「あくまで、“レクリエーションレベルのサイドマウント”、“オープンウォーター環境でのサイドマウント”であり、テックやケーブ、ペネトレーションダイブ(編注:直接浮上できない沈船内などを潜るダイビング)とはまったく別物として意識、指導しています」とのこと。
あくまで、スペシャルティのひとつという位置づけで、実際、オープンウオーターダイバーでも受講可能です。
※1日で講習可能な“体験サイドマウント”、2日間が一般的な認定コース“サイドマウント・スペシャルティ”などがあります。
サイドマウントの7つのメリットとして、以下のようなことが挙げられています。
サイドマウントの7つのメリット
1. 流線型になりやすい
2. 器材の運搬が簡単
3. 多様性
4. 増量されるガス供給
5. 扱いやすいさ
6. 調整しやすさ
7. 問題解決
たったの1日ですが、この7つのメリットをポイントにサイドマウント体験してきました。
セッティングではなく、コンフィグレーション!?
まず、器材のセッティングが一般のダイビングとは異なります。
いや、そもそも単にセッティングするだけ以上の意味を持つ、コンフィグレーションという考え方が採用されているのですが、直訳すれば、“配置、構成、設定”となります。
これはテクニカルダイビングから来た考え方で、自分の頭を使って、器材を自分に合わせて組み、ひと言で言えば、最適化・最大化するということです。
テニスプレーヤーは自分の筋力やプレースタイル、さらにコートによってラケットやガットの張り具合まで調整しますし、スノーボーダーならボードの種類はもちろん、足の位置の角度まで気にします。
どんな遊び、スポーツでも本格的にハマれば市販のノーマルなものを、オーダーメードしたり、カスタマイズしたりと道具にこだわるようになってきますが、同じように、ダイビングでも自分が最も潜りやすい装備を構成しましょう、という考え方がコンフィグレーションというわけです。
ダイビングの場合、安全への最適化として、トラブルが起きたときの“バックアップ”を重要視するところが他のスポーツと違うところかもしれません。
結果、石井さんのコンフィグレーションを見ると、水の抵抗を少なくするため、計器類はプラプラしないように体に密着させ、省エネで操作ができるような位置に固定され、あらゆるトラブル時のバックアップを備えた装備となっています。
確かに、これらの装備を見ただけで、1. 流線型になりやすい、4. 増量されるガス供給、5. 扱いやすいさ、6. 調整しやすさ、7. 問題解決のメリットは十分にありそうです。
ただ、これらの装備を構成するには、最初に器材に対する投資が必要で、デフォルト化するまで、ある程度試行錯誤が必要です。
運搬は楽だが、フィールド次第!?
器材の準備ができたら、いよいよ海へ。
ここは、メリットとして挙げられている“2. 器材の運搬が簡単”に関するところですが、結論からいえば、確かにとても楽で簡単でした。
あらかじめ、タンクがビーチサイドに置かれているので、重いタンクを背負うことなくエントリー口まで歩いていき、エントリーした後にタンクをハーネスに付けて潜るだけ。
これはとても楽ちんです。
ただ、これは環境によるところが大きいのかもしれません。
エントリー付近、あるいは水中にタンクを置いてもらえるような環境さえ整えばとても楽にエントリーできますが、日本ではそのようなフィールドが少ないのが現状です。
逆にいえば、今回、フィールドとなった獅子浜のような、サイドマウントに理解のあるダイビングフィールドが増えればとても有効だと感じました。
また、“背負う”という行為がないので、腰への負担も少なく、とても快適でした。
さらに、狭い船上で装着したり、海に入ってからタンクを装着できるボートダイビングではビーチダイビングより有効かもしれません。
石井さんはこれらのメリット生かす方法として、シニアや身障者の方のダイビングを補助の可能性を指摘します。
「例えばビーチでもインストラクターがタンクを抱えエントリーし、その後ダイバーがエントリーして浅瀬でタンクを装着。こうすると重いタンクを背負ってエントリーしなくて良いので、どなたでもダイビングを楽に楽しめると思います」
たったの1日ではメリットがデメリット。ただし……
いよいよ、初めてのサイドマウント・ダイビング。
正直なところ、器材の装備を見た時に感じたメリット、1. 流線型になりやすい、5. 扱いやすいさ、6. 調整しやすさ、7. 問題解決、を実感するには、1日ではあまりにも時間がなかったように感じます……。
ただ、バランスと慣れない操作にアジャストすることに手こずったものの、徐々にスキルでカバーできるようになり、後半は、いつもと違うダイビングスタイルを楽しむ余裕も出てきました。
また、タンクを抱えることにより妙な安心感を抱いたり、タンクを脇に抱えるだけでなく、前方に突き出して狭い場所をくぐるなど、とにかく新鮮で楽しい!
おそらくもう1日もらえれば、ウエイトバランスを調整して、問題なく潜れるようになる気がします。
さらにコンフィグレーションの試行錯誤と操作とバランスに慣れるために10本程度の経験を積めば、通常のダイビングと変わらずに潜れると思われます。
もちろん、これはインストラクターの資格を持っている自分のレベルでの話で、オープンウオーターになり立てのダイバーはさすがに厳しいでしょうが、中性浮力が問題なく、自分のことは自分でできる程度のダイバーであれば、何度かの経験で適応できるようになるでしょう。
率直なツッコミ、“そのメリット必要か?”
実際に体験してみて、確かにメリットは感じられました。
それに、少しの経験を積めば適応することも難しくないとも思いましたが、ここで思わず自問自答。
現状のバックマウントダイビングでよくないか?
ダブルタンクが必要か? サイドマウント必要か?
テックダイバーが、サイドマウントやリブリーザー、ダブルタンクを選択するのは、それが最も効果的、あるいは、目的達成のために必要であるからです。
しかし、通常のファンダイビングを楽しむのに、そこまで流線型を追求する必要もなく、タンクも2本もいらず、これまでの器材で十分快適に潜れてしまっているという現状があります。
これまでの技術の蓄積や慣れを捨ててまでバックマウントからサイドマウントに鞍替えする大きな理由は見当たりそうもありません。
率直な好奇心、“やってみたい”“おもしろい”
経験を積むということは、ダイビングの選択と幅を広げるということ。
つまり、いろいろな細かいメリットより、7つのメリットの中で、最も大きなメリット、というか楽しさは、“3.多様性”ではないでしょうか。
自分の場合も、そもそも単にやってみたかったし、実際にやってみて、いつもと違う潜り方が新鮮でダイビング自体を楽しめました。
サイドマウントのコースが発表された時も、「やってみたい」「カッコいい」という声が多く聞かれましたが、その好奇心こそサイドマウントの肝なような気がします。
石井さんも、
「サイドマウントがなぜ必要かと聞かれると困りますが、自分はサイドマウントが楽しいので必要です(笑)。強いて言えばレクリエーションでのダイビングの楽しみ方が増えたという事でしょうか。例えば、ウィンタースポーツではスキーが主流だったのに、スノボーが増えたみたいな感じに」
と、まずは楽しいからやってみようよ、というのが入り口だと強調します。
結果、学べる点も多くあります。
オーシャナで連載中の日本を代表するテックダイバー田原氏もその連載の中で、再三、テックダイビングのリスクを指摘し、安易に踏み入れるべき領域ではないと言っているように、テックダイビングは万人が受けられるものではありません。
しかし、コンフィグレーションをはじめとするテックダイビングの考え方は、きっと通常のダイビングにも役立つはずです。
最初はダブルタンクや、タンクの取り付けなどに戸惑うかもしれませんが、インストラクターや先輩ダイバーの助言を得て器材を改良していく。
レクリエーションに無かった、スポーツの世界では当たり前の楽しみ方の一つとも言えます。
また、実際に、「自分だけの器材構成を組む」ことは、ダイビングのストレスを取り除き、安全に快適に潜るための本来の大事な考え方でもあります。
サイドマウントでのダイビングを試してみたまとめ
1.レジャーダイビングにおけるサイドマウント・ダイビングのメリットは確かに感じられた。
2.しかし、ある程度の投資をし、これまでの慣れ親しんだバックマウントのスタイルを捨ててまで、サイドマウントをデフォルト化するほどの強いメリットは感じられない。
3.しかし、しかし。ダイビングの幅を広げるために有効だし、何より楽しい。もちろん、実際のメリットもあるので、デフォルト化するのも当然あり。
最後に石井さんよりひと言。
「シングルタンクのサイドマウントで潜ってみて、とにかく興味のある方はまずは体験してみて欲しいです。そして、自分に合いそうだな?と思ったらPADI サイドマウントSPにステップアップする。こんな感じで挑戦していただけたらと思います」