カッコよくて快適なダイビングが身に付く「環境にやさしい中性浮力、フィンワーク」コース
普段からサンゴを傷つけないように中性浮力を取り、フィンで蹴らないように気をつけているダイバーも多いだろう。でも中性浮力を身につけるのは一筋縄ではいかないもの。ふいにバランスを崩してサンゴを蹴って「ごめん…!」と心の中で呟くこともあるのではないだろうか。そこで、恩納村のダイビングショップ・ベントスダイバーズで「環境にやさしい中性浮力、フィンワーク」コースが始まったと聞きつけ取材を敢行。いったいどんな内容なのか、そしてオーナーの大原拓氏の想いとは。
「環境にやさしい中性浮力、フィンワーク」で具体的に学べることは?
このコースは環境に優しいダイビングのガイドライン「Green Fins」の考え方とテクニカルダイビングの技術を組み合わせ誕生した。ベントスダイバーズがある沖縄県の恩納村では村全体でサンゴを守っていこうと取り組みが行われており、村内のダイビングショップではガイドラインとして「Green Fins」という国際基準が導入され始めている。このガイドラインを元に環境への知識や、それを守る具体的なスキルの習得まで行ってくれるという。
着底しない、サンゴに触れないことが大事。Green Finsから学ぶ
はじめに大原氏が教えてくれるのはサンゴのこと、そしてサンゴを傷つけないためにダイバーが何を気をつけるべきなのかということ。大原氏は「Green Finsやここ恩納村でのサンゴを守る取り組みを話すんですが、そうすると人の気持ちが変わるというか、興味深く皆さん聞いてくれます」と、「Green Fins」のガイドラインをベースに環境やサンゴを守ることの意義、必要なことをレクチャーしてくれる。
「Green Finsのガイドラインの「ダイバーがしなければならない7つのこと」の中に「中性浮力を磨く」、「フィンワークを磨く」、「器材を固定する」というのがあります。この3つがとても大事なのですが、説明するだけでなく、実践的に学んで身につけてもらうためのコースが「環境にやさしい中性浮力、フィンワーク」コースなんです。内容はテクニカルダイビングから持ってきているので、意外と一般のダイバーは知らないことも多いんです」と大原氏はいう。
効率よく泳ぎ、サンゴを傷つけないトリムを実現する中性浮力調整
水中で浮きも沈みもしない状態を中性浮力と呼ぶが、それにはトリム(姿勢)が大事だという。このコースでは、人が浮きやすく水の抵抗をできるだけ減らした流線型のトリム=ストリームラインを水中で維持するための調整を行っていく。
▶︎ストリームラインとは
大原氏
中性浮力が適正かどうかを見るために、自分の身体や身につけているものの中で、何が浮くのか沈むのかを理解しましょう。たとえば腰にウエイトをつけすぎるとどんなに上手い人でも立ち姿勢になりやすくなります。フィンが沈むようであれば浮くようにしなければいけないですし、タンクも空気が減れば重さが変わるのでそれを見越したウエイト調整が必要です
陸で学んだあとは水中で調整を行っていく。トリムをとって、ウエイトや器材の位置を調整していく。
大原氏によると、フードを着用したりフィンを変えたりすることで、浮力やバランスは微妙に変化するため、良いトリムを取るには常に考えながら潜ることが大事とのこと。一度講習を受けるだけでも大きく意識が変わるので効果的だという。
器材がぶらぶらしない見た目にもスマートなセッティング
「立ち姿勢や器材がぼこぼこ飛び出た状態は水の抵抗があるので泳ぐのには効率が悪く、サンゴも傷つけるし器材を壊すこともあります。たとえば、オクトパスが水底を引きずって砂まみれになってしまって、いざというときに使えないとか困りますよね」と言って大原氏が取り出したのはバンジーコードと呼ばれるゴム紐。
バンジーコードの長さや形を手持ちの器材に合わせて固定することで、器材がぶらぶらしたり身体から無駄にはみ出したりするのを防ぐというわけだ。
こんなの知らなかった!フィンワーク
サンゴを傷つけないフィンワークとして教えてくれるのは「モディファイドフラッターキック」、「フロッグキック」、「モディファイドフロッグキック」、「バックワーズキック」、「ヘリコプターターン」の5種類。なかなか耳慣れないこれらのフィンワークは、テクニカルダイビングで必ず習得するものだそう。狭い洞窟を通ったり、水中の鍾乳石を折らないようにするためには、水平姿勢を保って周囲を蹴らないフィンワークが必須。また、その場に留まったまま向きを変えたり、振り向かずに後ろに進むスキルも。これらを身につけることで、サンゴを傷つけないようにしようというのがこのコースだ。
▼ヘリコプターターン(ヘリコプターターン ~水中で180度の方向転換できるフィンキック~より)
大原氏
写真を撮る方にもこのスキルはおすすめです。ハゼなど撮影した後、バックワーズキックで後ろに下がって、ヘリコプターターンで向きを変えれば、生き物が引っ込まないので、次の人も撮影しやすくなります
「スキルを身につけたダイバーがかっこいいという文化をつくりたい」大原氏の想い
オーシャナ編集部(以下、――)このコースを作ったきっかけはなんだったんですか?
大原氏
SDGsに関わるショップとして、観光関連のメディアから取材を受けた際に、Green Finsのこととか環境のことを色々説明したところ、知らなかったという方が多くて、とても喜んでいただけました。そこで、もう一歩踏み込んで、説明するだけでなく自分は何ができるか考えた時に、テクニカルダイビングを応用したらどうかなと思い、このコースを作りました。
ーーテクニカルダイビングが応用できると思ったのはなぜですか?
大原氏
テクニカルダイビングというのは、ケーブ(洞窟)ダイビングから始まっているのですが、ケーブの中ではそれまでのダイビングの常識が通用しません。なぜならケーブの中にある鍾乳石は一度折れたら二度と元に戻りません。つまり、器材がぶらぶらしていたり、きちんとトリムが取れないと潜ってはいけないのです。また、泥が沈澱しているため、着底したりフィンで水底を蹴ったりして砂を巻き上げてしまうと視界がゼロになり大変危険です。だからこそ、それに合わせた中性浮力やフィンワークを身につける必要があるのです。
ーーまさにGreen Finsの中にある「中性浮力を磨く」、「フィンワークを磨く」、「器材を固定する」と考え方が合致しますね。
大原氏
そうなんです。でも具体的な方法がここに書いてあるわけではないので、頑張ってもできないっていう人に教えてあげるためにこのコースを作りました。
ーーなるほど。実際に受けた方の感想はいかがでしたか?
大原氏
すごく喜んでいましたね。やっぱり知らないので面白いと思っていただけるみたいで。400本くらい潜っている方に教えた時もすごく上手になったので、上級者向けの「リュウグウ」というポイントにお連れすることもできました。
ーー確かに、今まで持っていなかった視点だったのでお話を聞いていても面白かったです。今後、このコースを受けてもらうことでどうなっていくと良いかなど、展望を教えてください。
大原氏
私としては、中性浮力とかトリム、ストリームラインができているダイバーがかっこいいとみんなが思える文化にしていきたいと思っています。かっこいいと思えばそれを目指す人が増えて、それが普通になって、サンゴをバキバキ折って潜るダイバーもいなくなります。なので、普段のファンダイビングでもフィンワークや中性浮力のコツについてはアドバイスしますし、どんどん質問して欲しいと思っています。コースではじっくりスキルを身につけたい人のためにマンツーマンかグループで対応していますので、環境に配慮したい人はもちろん、中性浮力が取れないとかエア持ちが悪くて困っている方もぜひ受けにきてください。
取材協力:ベントスダイバーズ
恩納村で22年のキャリアを持つガイドの大原さんが運営するベントスダイバーズ。シュノーケリングや体験ダイビングからファンダイビング、テクニカルダイビングなど幅広く案内する。海や生き物へのリスペクトを忘れない、穏やかな大原さんとダイヤモンドビーチを望む絶好のロケーションはダイバーを惹きつけて離さない。