ダイビングブームを起こした映画『彼女が水着にきがえたら』のBlu-ray発売
1989年に公開された映画『彼女が水着にきがえたら』のBlu-rayが9月7日に発売された。この映画をきっかけに、主演の原田知世が着ていた白いウエットスーツが大流行し、スキューバダイビングを始める若者が続出。爆発的なダイビングブームの火付け役となったこの作品、当時を懐かしむベテランダイバーはもちろん、最近ダイビングを始めた方やこれから始めてみようと思っている方たちにも是非観ていただきたい。
バブル時代を象徴するマリン・リゾートが物語の舞台
『彼女が水着にきがえたら』は、『私をスキーに連れてって』『波の数だけ抱きしめて』とともに、バブル時代に公開されたホイチョイ・ムービー3部作の第2作。スキューバダイビングが好きなOL役には原田知世、そして湘南の沖に沈んだ飛行機に積まれた宝の謎を追うヨットマン役には織田裕二。2人の恋のゆくえが物語の大きな軸になっている。
相模湾を舞台にストーリーは展開され、全編にわたりダイビングシーンはもとより、ヨットやジェットスキーなど、さまざまなマリンアクティビティが登場する。
三戸浜沖でスキューバダイビングを楽しむ22歳のOL、田中真理子(原田知世)が海底に沈んだ飛行機を発見。それはなんと、朝鮮戦争時、韓国人富豪の宝石を積んで墜落したドラゴンレディ号だった。このお宝を探す青年、吉岡文男(織田裕二)と知り合った真理子は、たちまち惹かれ合うが、ふたりともなかなか素直になれない。やがてドラゴンレディ号は引き上げられるが、宝石類は見つからなかった。さらに何者かが吉岡と真理子を襲撃。ふたりはジェットスキーに乗って大海原を逃げる、逃げる…!
監督を務めたホイチョイ・プロダクションズの馬場康夫氏は、Blu-ray発売を受けてこんなコメントを寄せている。
「バブル絶頂期にスキー場と並んで空前の盛り上がりを見せていたのがマリン・リゾートです。全国でハーバー建設ラッシュが起こり、ジェットスキーが飛ぶように売れ、都会にダイビング・スクールが次々に誕生していました。『彼女が水着に着がえたら』は、そんな時代の日本の海を描いた作品です。今から考えれば信じられないようなあの時代を、この映画でご体験ください」。
ちなみにホイチョイ・プロダクションズとは、馬場監督が代表取締役社長を務めるクリエィティブ集団。漫画や雑誌記事の企画編集、テレビ番組やラジオ番組、広告やWebコンテンツなどの企画制作を幅広く行っている。バブル期には前述した「ホイチョイ3部作」が大ヒットしたが、2007年にはバブル景気を自己言及的に取り上げた映画『バブルへGO!! タイムマシンはドラム式』を公開している。
貸し切りクルーザーでダイビング
1989年はそんなことが当たり前な時代だった
映画が公開された1989年、筆者はちょうどダイビング雑誌を発行する出版社に入社。スキューバダイビングのCカードを取得して、海の世界に夢中になっていた。当然、封切りされてすぐに映画館でこの映画を観た。
そして30年余りたった今、Blu-rayで再び観てみると、懐かしい記憶がいろいろとよみがえってきた。
映画が始まってすぐのシーンで、主人公の真理子と友人の恭世(伊藤かずえ)はダイビングプールで、スキューバダイビングの練習をしている。そして恭世に誘われて、二人はクルーザーパーティに参加する。
ここまで観て、当時都内にはダイビングの講習を受けたり、練習したりできるダイビングプールが何ヶ所もあったことを思い出した。そして、バブルの熱に浮かされたように、クルーザーを持ったり、船上パーティをしたりする人も多かったように思う。
もちろん今でもリッチな人はたくさんいるだろう。しかし当時は、その勢いが違った。誰もが夢を見て、そして実現がたやすくできた時代…。
ダイビングシーンでは、冒頭にも述べたようにその後一大ブームとなった真理子の白いウエットスーツがまぶしかった。また真理子と恭世が海の中でドラゴンレディ号を最初に発見したシーンでは、真理子は当時人気の水中カメラ「ニコノスⅤ」で撮影をしていた。
今では誰でも手軽にデジカメで水中写真が撮れる。しかし当時は、水中専用カメラの「ニコノスⅤ」が主流だった。ニコノスⅤは1984年に発売され、多くのダイバーがこのカメラに憧れたものだった。映画の中でニコノスⅤを海底に落として紛失してしまった真理子に、恭世が「20万したんでしょ、あれ!」と言っていたが、1989年の大卒初任給の平均額は160,900円(厚生労働省のデータ参照)。給料1ケ月分以上はする高価なものだったことがわかる。しかし景気のいいこの時代は、若いOLの真理子もちょっと頑張ればこのカメラに手が届いたのだろう。
また当時は、写真はフィルムでの撮影しかできなかったことを思い出した。1ダイブで1台の水中カメラで撮影できるのは、最大でも36カットだけ。ロケ先で水中カメラマンが「フィルムが終わってから、マンタが出たんだよ…」などと、悔し紛れに言い訳していたこともあったなあ…などと、しみじみ昔と今の水中写真の違いについても考えてしまった。
昔を知る人だけでなく、今のダイバーにこの映画を観てほしい
話を映画に戻そう。映画の主題歌はサザンオールスターズの「さよならベイビー」。そしてほかにも「ミス・ブランニュー・デイ」「思い過ごしも恋のうち」、「みんなのうた」など、懐かしのサザンの名曲たちが物語を彩る。海とサザン、最高のコラボレーションだ。
映画の終盤では、皆が血眼になって海に残された宝を探すが、果たしてその結末は⁉
吉岡と真理子は心を通わせ…、そしてラストシーンへ。
ストーリーは単純明快だが、この映画が当時のダイビング業界に及ぼした影響は計り知れない。それまで、ハードで地味なイメージが強かったスキューバダイビングが、一気にファッショナブルでかっこいいマリンスポーツとして認識されるようになったのだ。
特に映画の中で印象的だったのが、楽しそうに水中スクーターで海の中を泳ぎ回るダイバーたちのシーンだ。今では普通に使われるようになっている水中スクーターだが、当時は画期的なアイテムだった。スタイリッシュなダイビング器材を身につけて、週末にダイビングを楽しむ主人公・真理子のような女性ダイバーが一気に増え、その後ダイビング業界は大いに発展を遂げた。
長くダイビングに関わる仕事をしてきた筆者としては、多くのダイバーやこれからダイビングを始めたい人にこの映画を観てほしいと心から思う。とにかく理屈抜きに楽しんでもらえればいいのだが、この映画がダイビング業界にとってエポックメイキングな作品だったことを頭の片隅に置いてもらえると、さらに違った見方ができるかもしれない。