辺野古・大浦湾で潜る 奇跡のサンゴのその後、そして基地建設現場付近の海の「今」

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ユビエダハマサンゴ群集と、繁茂するウミキノコ

ユビエダハマサンゴ群集

ユビエダハマサンゴ群集

クマノミ城から海中を岸の方向に移動していくと、辺り一面の海底を覆いつくす白い枝サンゴの大群集が姿を現します。ユビエダハマサンゴ群集です。
ユビエダハマサンゴは、表面の質感が滑らかな美しいサンゴ。その名が示す通り先端が人の指先のように丸くなっていて、海底から無数の手が生えているようにも見えます。
この日の透視度は約3~5m。このポイントは大浦川の河口が近く、また周囲の海底は細かい砂泥のため、透視度は元々あまり良くないそうで、撮影に熱中しすぎてバディをロストしそうになったこともありました。

ユビエダハマサンゴ群集とデバスズメダイ

ユビエダハマサンゴ群集とデバスズメダイ

ユビエダハマサンゴ群集とホウセキキントキ

ユビエダハマサンゴ群集とホウセキキントキ

しかし透視度は悪くても、生物相はとても豊かに見えます。淡いブルーのデバスズメダイの群れがサンゴの隙間から出たり入ったりする様子は、いつまで見ていても見飽きません。また深紅ボディのホウセキキントキは、モノトーンな海中風景の中でひときわ目立っていました。

ユビエダハマサンゴ群集とミツボシクロスズメダイ

ユビエダハマサンゴ群集とミツボシクロスズメダイ

サンゴの上を群れ泳いでいる6匹のミツボシクロスズメダイを撮影していると、その向こう側に花のような形状をした不思議な生き物の群落が見えてきました。

ウミキノコの群落

ウミキノコの群落

ソフトコーラルの一種である「ウミキノコ」です。
ソフトコーラルは日本語に直訳すると「やわらかいサンゴ」で、一般的に「サンゴ」とよばれている生物は、この呼び方に倣うとハードコーラル(固いサンゴ)になります。ソフトコーラルは骨格を持っておらず柔らかいのに対し、ハードコーラルは炭酸カルシウムを主成分とする固い骨格を持っています。

ユビエダハマサンゴの死骸に繁茂するウミキノコ

ユビエダハマサンゴの死骸に繁茂するウミキノコ

ウミキノコをよく観察してみると、ユビエダハマサンゴの死骸の上に繁茂しているように見えます。
ウミキノコなどのソフトコーラルは、ユビエダハマサンゴなどのハードコーラルよりも環境悪化に耐える力が高いと言われており、環境悪化が原因でハードコーラルが死滅すると、その場所でソフトコーラルが繁茂し、ハードコーラルの再生を阻害してしまうこともあるそうです。

ユビエダハマサンゴ群集とウミキノコの群落を背にして、海の中で静かに繰り広げられる生存競争に思いを馳せながら、僕はふたたびボートが係留されているクマノミ城の方へと戻っていきました。
しかし水温上昇・水質汚染・海洋酸性化などはいずれも人間の活動が深く関わって起きる現象。ユビエダハマサンゴ群集でウミキノコが繁茂してしまう現象は、「自然の摂理だから仕方ない」で片づけられる問題ではなさそうです。

白化現象に耐え、復活したアオサンゴ群集

大浦湾マップ 参考:「辺野古・大浦湾 アオサンゴの海 生物多様性が豊かな理由わけ」(日本自然保護協会・WWFジャパン・国士舘大学地理学研究室・沖縄リーフチェック研究会・じゅごんの里・ダイビングチームすなっくスナフキン)

3月5日午前10時10分。カヌチャリゾートの浮き桟橋に係留してある小さなボートにダイビング器材と撮影機材を積み込み、ボートの縁に腰かけて、昨年12月に出会った「奇跡のサンゴ」との再会を静かに待ちます。ボートで3分ほど移動すると、ダイビングポイント「チリビシ」に到着。バックロールでエントリーして潜降すると、曇天で暗い海の中に、黒い山のようなシルエットが浮かび上がってきました。
大浦湾が誇る、世界最大級のアオサンゴ群集です。

アオサンゴ群集

アオサンゴ群集①

水深3mほどのアオサンゴ群集の上を泳いでいくと、ロクセンスズメダイをはじめとした様々な種類の魚たちが群れ泳いでいます。12月にはじめて見た時の神々しい生命力も健在!
しかし、何よりも驚いたのが…

「あれ?白化現象は??」

アオサンゴ群集

アオサンゴ群集②

アオサンゴ群集

アオサンゴ群集③

そう、昨年の大規模な白化現象からほぼ完全に回復していたのです!
このアオサンゴ群集、12月に潜った時は白化現象で雪が降り積もったように見えていたのですが、この日は所々に白い部分が見受けられたものの、大部分はアオサンゴ本来の色に戻っていて、壊死したサンゴも確認できませんでした。
一緒に潜った超ベテランのプロダイバーが「白化したサンゴがこんなに見事に回復しているのを見るのは、47年のダイビング人生で初めてだよ!」とおっしゃるくらい、すごいことのようです。

白化したサンゴ

白化したサンゴ(2024年10月7日,三宅島)

白化後、壊死が進むサンゴ

白化後、壊死が進むサンゴ(2024年11月13日,三宅島)

ここで、サンゴの白化現象について簡単に説明させていただきます。
サンゴは、体内に「褐虫藻(かっちゅうそう)」という植物プランクトンを共生させています。褐虫藻は光合成で作った栄養をサンゴに提供し、その見返りに、サンゴは褐虫藻に住む場所と二酸化炭素などを提供します。
しかし水温の上昇、強すぎる日射や紫外線、水質の悪化などのストレスがかかると、褐虫藻が光合成の過程で有害な「活性酸素」を過剰に発生するようになるため、サンゴは自衛のために褐虫藻を体外に排出します。褐虫藻がいなくなると、サンゴの体が白っぽく透けて見えるようになり、また褐虫藻からの栄養供給が途絶えてしまいます。これがサンゴの白化現象です。環境が回復すると白化したサンゴに褐虫藻が戻ってくることもあるのですが、多くの場合、白化したサンゴはその前に栄養不足で死滅してしまいます。

昨年は沖縄を含めた日本全国の海で異常な高水温が長期間続き、多くのサンゴが白化現象のために死滅しました。ではなぜアオサンゴ群集は白化現象から生き延びることができたのでしょうか?

アオサンゴは、他のサンゴと比べて以下の点で白化への耐性が高いと言われています。

・高水温になっても褐虫藻が離れにくい(=白化しにくい)
・白化しても再び褐虫藻を取り戻す回復力が高い

これは、アオサンゴ自身の生理的特性に加えて、アオサンゴと共生する褐虫藻の性質も関係していると考えられています。
ちなみにアオサンゴは、他のサンゴと比べて海洋酸性化にも強いとされています。これはサンゴの骨格を形成している炭酸カルシウムの結晶構造が、他のサンゴと異なるからだと言われています。

さて、このように強い環境耐性を持っていると思われる大浦湾のアオサンゴ群集ですが、懸念もあります。

「アオサンゴは雄サンゴが放出した精子を雌サンゴが受け取り体内受精して、卵ではなく赤ちゃん(プラヌラ)を産みます。(中略)ただ、これまでの研究で大浦湾のアオサンゴ群集は遺伝的に単一であることが分かっています。つまり、この大きさになるまでクローンで増え続けてきたということで、学問的にも注目されています。」

(日本自然保護協会HP「辺野古・大浦湾 生きものたちの物語」より)

ある程度安定した環境の下では、環境変化に強い遺伝子を持つ個体をクローン繁殖で増やして群集を作るのは、効率的で理にかなった生存戦略であると言えそうです。しかしこの先、今のアオサンゴが持っている環境耐性でも対応できないような急激な環境変化が起こった場合には、クローン繁殖による遺伝的多様性の無さが弱点になってしまう可能性もあるのです。

アオサンゴ群集の間を泳ぐカスミアジ

アオサンゴ群集の間を泳ぐカスミアジ

大規模な白化から復活したアオサンゴ群集の「強さ」が強く印象付けられた今回のダイビング。エキジットした船の上では、歓喜の輪が広がりました。
しかし前述の通り、大浦湾のアオサンゴには「弱点」もあり、埋め立て工事による水質悪化や基地建設による潮流の変化など、今後想定される環境の変化については、引き続き注視していかなければならないと思っています。

▶︎次ページ:アオサンゴ群集で暮らす魚たち

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PROFILE
海の美しさ・楽しさ、そして環境問題を映像や写真で発信することがライフワーク。
1992年に小笠原でスキューバダイビングとスキンダイビングを初体験して以来、海の魅力にどっぷりはまる。1997年からは御蔵島のドルフィンスイムに通い始め、イルカの魅力に取り憑かれる。2022年末に長年勤めていた科学館を退職し、ダイビングガイドの道に入る。
また2016年に、ドルフィンスイムガイドの草地ゆきと共に「御蔵島のオオミズナギドリを守りたい有志の会」を立ち上げ、鳥を捕食する御蔵島の野生化ネコを捕獲・譲渡する活動を行っている。
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