2020年奄美大島ホエールスイムレポート〜ザトウクジラのシャッターチャンスに恵まれた理由とは?〜

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こんにちは、水中写真家の上出俊作です。

今年も1ヶ月間奄美大島に滞在し、ホエールスイムツアーを開催しつつ、自身もザトウクジラの撮影に励んできました。
今日は、奄美で撮影したクジラの水中写真を紹介しながら、今年のホエールスイムの様子について振り返ってみたいと思います。

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冬に奄美大島にやってくる
ザトウクジラを観察

北半球の太平洋に生息するザトウクジラは、冬になるとアラスカ・ロシア近海から、出産や子育て、繁殖のため、奄美・沖縄にやってきます(小笠原やハワイ等に行くクジラもたくさんいます)。

例年の動向を見ると、12月には奄美・沖縄の各地域で最初の目撃情報があり、年末年始くらいから個体数が増え始め、1月には本格的なホエールウォッチング&スイムシーズン突入…という感じでしょうか。

3月になると、北の海に帰り始めるクジラを見かけるようになり、4月には大部分のクジラがすでに奄美・沖縄を旅立っているという印象です。
もちろん年によってずれはありますし、地域や観察している人によっても感じ方は違うと思います。

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僕自身、今年は1月末から2月末まで奄美大島に滞在していました。

丸1ヶ月、毎日海に出てクジラを探していたわけですが、言い方を変えれば、僕が奄美大島にいたのは約3ヶ月間あるホエールウォッチング&スイムシーズンのうちのたった1ヶ月間です。

しかも、ずっと奄美大島南部の瀬戸内町に滞在していたので、奄美大島北部の海には行っていません。
そういった意味でこの記事は、今シーズンの総まとめではないですし、奄美大島を代表して書いているわけでもありません。

僕の限られた経験を基にした主観的なレポートである点を、ご理解いただけると嬉しいです。

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さて、前置きが長くなってしまいました。
ここからは、今年のホエールスイムで感じたことを書いていこうと思います。

例年よりも若干減少(?)したものの
シャッターチャンスは増えた!?

ザトウクジラのシーズンを奄美大島で過ごすようになって今年で3年目です。
ありがたいことに、クジラを通して仲間も増え、シーズンインするとすぐ、奄美からクジラの情報が立て続けに届きました。

もちろん、こんなクジラと出会えたとか、心躍る話もたくさんあったのですが、例年に比べてクジラの頭数が少なめという、ちょっと気になる情報もあったんですよね。

沖縄では1月から例年に近い頭数が確認されていたので、たまたまというか、タイミングの問題なのかなくらいに僕は思っていたのですが。
結論から言うと、僕が奄美で過ごした1ヶ月の感触ではありますが、例年に比べて頭数は若干少なかったように感じています。

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クジラの頭数が少ない分、捜索に苦戦した日が多かったのは事実です。

では、昨年に比べてホエールスイムの成功率が低かったのかというと、実はそうでもありません。
感覚的には、昨年と同じくらいだったと思います。

クジラがたくさんいた方がテンションは上がります。
特に、ウォッチングならその方が楽しいですし、主催者にとっても気は楽です。

でも、スイムとなると、たくさんいればいいというわけでもないんですね。

僕がお世話になっているアクアダイブコホロさんのブログにクジラとの遭遇データが詳しく載っているので、興味のある方は見てみてください。

▶︎アクアダイブコホロBLOG

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さて、僕自身の撮影状況はどうだったのかというと…実は、昨年よりもお気に入りの水中写真がたくさん撮れました。

これはなぜでしょう?
僕が1年間でタケノコのように成長して、撮影技術がグンと上がったからでしょうか?

僕だけが良い写真を撮れているなら、そうかもしれません。
でも実際は違いました。

1ヶ月過ごした中で他の方の写真もたくさん見せてもらいましたし、撮影しているところも見ていましたが、シャッターチャンスは昨年と比べても多かった印象です。

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ちなみに、奄美だけでなく、沖縄で撮影されたクジラの水中写真に関しても、昨年より近い距離で撮影されたものを多く目にしました。

主観的な印象レベルの話ですし、考察に値するのかわかりませんが、せっかくなのでその要因を考えてみましょう。

もちろん明確な答えはありませんが、考えられる可能性を2つあげてみたいと思います。

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ザトウクジラに配慮した
“待ち”のアプローチ

一つ目は、「できるだけ泳がず、泳ぐときには絶対バタバタしない」というアプローチ方法を徹底したことです。

この点に関しては以前から意識していましたが、今年は船長の太田健二郎さんとも再度その重要性を話し合い、ゲストの皆さんにも毎回しつこいくらいにお話して、自分自身もお手本になれるよう努めました。

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皆で流木のように水面に浮いて、クジラが近くに来てくれるのをじっと待って…

そんなアプローチを続けたことが、多くの人がクジラの近くでシャッターを切れるという結果に結びついたのかもしれません。

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もちろん、静かにクジラを待っていれば、必ず寄って来てくれるわけではありません。

遠くを通り過ぎることもあれば、全く見えないこともあります。

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クジラがリラックスしていて、人間に興味を持っているように見えた時だけ、奄美大島では少し潜ってみたりもしています。

実際にクジラがどう感じているのかはわからないので、慎重に様子を見ながらなのですが。

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ちなみに、僕が関わらせていただいている沖縄本島のホエールスイムでも、「追いかけないで待つ」というスタイルが実践されています。

もちろん、それぞれの船長さん、ガイドさんが色々工夫されているのでしょうが、やはりこれを徹底したことはひとつ大きかったのではないでしょうか。

結局、他の生き物を撮影する時も同じですが、追いかけても良い写真は撮れないですもんね。

状況によっては泳いで合わせにいくこともありますが、そんな時でもできるだけクジラにとって邪魔にならない動きをして、控えめに回り込むといった配慮が必要だと感じています。

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ザトウクジラが徐々に
人間に慣れてきた!?

二つ目の要因は、「クジラたちが少しずつ人間に慣れてきているのかもしれない」ということです。

これに関しては、正直全く自信はありません。
ですが、可能性としては十分あり得ると思います。

冒頭で、ザトウクジラは冬になると寒い海から沖縄・奄美や小笠原にやってくるという話を書きました。
回遊ルートに関してはわかっていない部分も多いようですが、毎年のように沖縄奄美周辺海域で目撃されているクジラもいます。

つまり、僕たちはホエールスイムを通して、水中で毎年同じクジラと出会っている可能性もあるということです。

クジラからしたら誰と出会ったかは問題ではないでしょうが、毎年人間と出会うことで、「なんだか邪魔だけど、攻撃してくるやつらではなさそうだ」くらいに認識し始めている可能性はありますよね?

この辺りの話は、ホエールスイムの歴史が長いトンガの海を知っている大先輩方からも、お話を伺ってみたいものです。

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可能性の話ばかりで恐縮ですが、もし「クジラが徐々に慣れてきている」というのが本当だとしたら、まだホエールスイムが始まって数年しか経っていない今の時期が特に大事なのかもしれません。

クジラに向かってガンガン突っ込んでいったり、クジラを執拗に追いかけまわしたりすれば、敵だと見なされることは容易に想像できます。

僕自身、撮影したい気持ちが強く出すぎて、ついつい行き過ぎた行動をとってしまったこともありました。

あれだけのインパクトのある被写体を目の当たりにした時、自制心を失ってしまう気持ちは良くわかります。
自分の行動を振り返ってみれば、反省すべきことがたくさんあります。

みんなでクジラに優しい
アプローチをしていけたら……

これから少しずつクジラとの関係を築いていくことができれば、リラックスしたクジラを観察するチャンスも、近くで撮影するチャンスも増えていくことでしょう。

そんな日が来ることを願って、前に出たい気持ちをグッとこらえて、みんなでクジラに優しいアプローチができたらな、なんて思っています。

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この記事では、昨年よりも近い距離でクジラの観察・撮影できていたことの要因として、「アプローチ方法」と「クジラの人に対する慣れ」をあげました。

もちろん、これらが真実なのかはわかりませんし、他にも要因はあるはずです。
そもそも、昨年の方がゆっくり近くで観察できたという方もいるかもしれません。

ザトウクジラのことをあーだこーだ考えたり話したりするのもまた楽しみのひとつなので、今日の話はひとつのネタくらいに思ってくださいね。

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僕のブログの方には、「こんなクジラと出会った」とか「撮影時にこんなことを意識した」という話を綴っています。
もし興味があれば、覗いてみてくださいね。

▶︎2020奄美大島ホエールスイムツアーレポート前編~クジラの水中撮影に適したシャッタースピードとは~

▶︎2020奄美大島ホエールスイムツアーレポート後編~クジラの水中撮影に適した絞り(f値)とは~

それでは、今日もここまで読んでくださりありがとうございました!
少しでも皆さんの参考になれば嬉しいです。

取材・撮影協力:アクアダイブコホロ

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writer
PROFILE
1986年東京都生まれ。
2014年、かねてから抱いていた沖縄移住の夢が抑えられなくなり、沖縄本島の名護市に移住。
「水中の日常を丁寧に切り取る」というテーマで、沖縄を中心に日本各地の水中を撮影。
ブログ「陽だまりかくれんぼ」や写真展などのイベントを通して、水中写真と沖縄の海の魅力を発信し続けている。
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