初めてのザトウクジラとの邂逅~岡田裕介の海中時間~
ザトウクジラの撮影の為、トンガ・ヴァヴァウ諸島に滞在しています。
5日間の撮影を終えて、今日、日曜日はキリスト教の安息日でトンガの休日で船が出ない為撮影は中休み、そこでこの一週間を振り返ってみたいと思います。
初日、パラオのロックアイランドにも似た小さな島が点々としている湾内をボートを走らせながら、クジラを探す事1時間。
親子のクジラを見つけ静かに近づきます。
初めて水中で対面するザトウクジラ、わくわくドキドキの興奮状態のなか、船長の合図と共に、子クジラを驚かさないよう静かに水中に入ります。
そこで、まず驚いたのは真っ青な海の色でした。
この海の青の濃さ、これがトンガの海か。
他でもクジラを見る事が出来るけど、海の青さと白いザトウクジラの美しい組み合わせを見れるのはトンガだけだよ、と昔聞き、トンガの海に憧れたのを思い出しました。
静かにゆっくり進んで行くと、ついに親子のクジラが現れました。
ファインダー越しに見るとあまりの大きさと美しさにNHKやBBCのドキュメンタリー番組を見ているよう。
それだけ、現実感がなかったな。
初めてはクジラの大きさと迫力に圧倒されながら夢中でシャッターを押していましたが、多少なれてくると、親の周りで子供が無邪気に動き回る様子は人間や他の動物の赤ちゃんと一緒だななんて思いながら、微笑ましい気持ちで穏やかな時間を過ごすことが出来ました。
その後も僕が乗った、トンガ初めてチームの船はビギナーズラックが続いたのか、ヒートランにシンガー、ボートからは青い空バックにブリーチングやテールスラップなど一通りのパターンを見る事が出来て、クジラとの出会いという意味では大満足の一週間になりました。
しかし初日のゆったりとした様子での撮影とは対照的に、ヒートランの時には興奮状態で泳ぐクジラと一緒に泳いだり潜ったり、止まって歌を歌うシンガーの時には、より深く潜る事が重要だったり、まだまだ素潜りが十分でなく経験不足な僕にとって写真を撮れたかという意味ではまだまだ満足出来ずにいます。
ただ、ずっと憧れていたザトウクジラに実際に海中で会うことが出来たこと、それには本当に幸せを感じています。
始まりは東京都写真美術館で観た中村征夫さんの写真展「海中2万7000時間の旅」でした。
そこでモノクロの原寸大のザトウクジラの母子の写真を観てその大きさと迫力に驚いたと共に、こんなこと出来るんだ、やっていいんだという思いがフツフツと湧いて来て興奮状態のまま会場を後にしたことを覚えています。
その後月日を経ても撮影に至らなかったのは、写真家として一人前になり、しっかりとクジラと対峙できる人間になって、初めて納得の行く撮影が出来ると考えていたからなのです。
そんな理由でなかなか踏ん切りが付かずにいましたが、今年の始めにフォークランドでの撮影中に、多少無理をしたとしても今行かないでどうするんだと思い立ち、フォークランドからトンガ行きの申し込みをしました。
これは、野生の世界は今日そこに存在しているものが明日、突然消えてなくなってしまってもおかしくはないんだなとペンギンを見ながら考えたこと、もしもそうなってトンガでザトウクジラと泳げなくなってしまったら相当後悔するんだろうなと思ったからなのです。
『やっぱりここに来て良かった』それが素直な今の感想。
この世界を見れたこと、それは写真家としてもひとりの人間としても意味のあることでした。
今日はトンガでの越智さんの恩人であり、ホエール船の船長だったオンゴさんのお墓参りに行ってきました。
彼は生前、越智さんに『クジラを見ようとするな、感んじるんだ』と言っていたそうです。
僕もいつかしっかりとした何かを感じられるようになりたい。
もし、そんな日が来たらきっといい写真が撮れるんだろうな。
『クジラを感じる』
その言葉を胸に、ここトンガのザトウクジラとこれからも長く付き合っていきたいと思っています。