ギンポ天国で撮った、ガイドがうなる一枚 〜海獣カメラマン・越智隆治×はじめての葉山〜
マクロ写真編
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ゲストとしては最高
でも、プロとしてはあと一歩……
天気や海況がイマイチな中、ワイド写真は、何とかチャガラの群れを撮ったところで(前回の記事)、マクロ撮影に専念することに。
さて、今回もダイビングショップNANAのテルさんをうならすマクロ写真が撮れるのでしょうか。
なんせ、越智カメラマンははじめての葉山。
とりあえず、ロケ班を兼ねて、いつものようにネタを見せてもらうことに。
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さすがの葉山、いや、ガイドの力でしょう。
生物は入念に調査されており、まさに次から次へとネタには困りません。
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たくさんの刺し棒と長いピンセット、歯ブラシを常備するテルさん
↓
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越智カメラマンがじっくり撮影している間に……
↓
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被写体を見つけると、次々に目印棒を刺していく
フォト派が多い葉山らしく、「撮らせる」ということに対するプロ意識は高く、4〜6班の受け入れ態勢で、どんな変態フォトダイバーでも対応可能なことはもちろん、水中でも、じっくり撮影している間にネタを探して、次々に目印を刺していくテルさん。
おかげで、被写体には事欠かず、自らがフォト派であることもあって、撮影のポジションや背景まで考えたガイディングをしてくれます。
例えば、テルさんが撮り出したのは歯ブラシ。
これは、葉山の特徴である“ピンクの岩肌”をよりきれいに見せるために使います。
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動かない被写体は、背景と構図が重要になりますが、葉山のピンクの岩肌はフォトジェニック
ちなみに、長いピンセットも「撮らせるアイテム」として便利ですが、今の世の中、なかなか言いづらいので使い道はご想像にお任せということで(笑)。
さらに、正面から撮るのが普通のコケギンポですが、背景を青抜きできるポジションを確保していたり。
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撮る環境としてはベストでしょう。
「越智さんと初めて潜りましたが、1つの被写体にかける時間がそんなに長くなくて(そんなに長く撮る魅力がなかったんだったら、どうしよー!!っていう感じもありつつ)いろんな被写体を撮ってもらえるという印象を初日に受けました。なので、同じ生物でも、違う環境にいる子など、とにかくいろいろと撮ってもらいました」
そんなテルさんの言葉通り、旬なネタを撮りまくったわけですが、やはりワイド写真の時と同様、浮かない顔をする越智カメラマン。
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葉山はウミウシ天国としても有名。この日の主役は、セスジミノウミウシ
確かに、ゲストとして撮影を楽しんだり、葉山の状況をただレポートする分には最高ですが、「ガイドをうならせる写真を撮る」という意味では、おさえている感は否めません。
生態写真もそう簡単に機会があるわけでもないですからね。
ギンポ天国の海で、
これまでにないギンポ写真を求めて
ここらでテーマを絞って撮らねばと、改めて「ずばり、これぞ葉山という生物をあえてひとつあげるなら?」とテルさんに質問すると、「1月からは圧倒的にダンゴウオですが、今撮れて、通年という意味ではギンポでしょうか。種類も数も圧倒的です」との返答。
であれば、ギンポに絞って撮影しようと、まずは、テルさんが「伊豆など、他の海で見られないギンポですが、葉山ではたくさんいます」というイワアナコケギンポ。

確かに多っ! バリエーションも豊富。
顎がしゃくれている感じが可愛いです。
さらに、ギンポの仲間は、種類も豊富。
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上段左から、テルさんがオタフクっぽくて一番可愛いというイソギンポ、リーゼントのような立派なトサカ(皮弁)のアライソコケギンポ、ややトサカが横に広がっているコケギンポ。下段左から、キュートなイソギンポ、浅瀬といえばダイナンギンポ、笑い顔の人気者・テンクロスジギンポ
「1日でギンポを見た数も種類も、これまでで一番」というギンポ尽くしのダイビングとなりました。
NANAでは、ギンポのスペシャルティやタイドプール(潮が引いた後の水たまり)に寝そべってのじっくり変態撮影などもあるので、興味のある方はぜひ。
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ときに、こんな風に撮影することも。越智カメラマンいわく、ギンポ撮影は、「まずは、体をしっかり固定すること。初日は海中も穏やかだったので、マニュアルフォーカスでも、体を固定できたのですが、2日目は、うねりもあり、固定するために片手を使うことも多かったので、オートフォーカスで撮影しました」とのこと」
※
さて、種類と数はたくさん撮った越智カメラマンですが、「ガイドがうなる写真」は撮れたのでしょうか。
「こ、これなんかどうかな……」と自信なさそうに見せたとある一枚のギンポの写真。
それを見たテルさんの表情はパァ〜と明るくなり、さらにその表情を見た越智カメラマンの表情もパァ〜となった写真がこちら。
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コケギンポのペア。
「コケギンポに関しては、2個体同時は撮ったことがありません。あの微妙な6cmくらいの間隔は、マクロレンズをつけていると撮れそうで撮れない嫌な距離感なんです。でも越智さんの写真を見て、その距離感が逆にかわいい写真になるんだと新たな発見でした。これからはなるべく近くの巣穴に住んでいる子を探して、お客様にも紹介していこうと思います」とテルさん。
確かに、この微妙な距離感がいい味出しています。
グラフなら、思わず真ん中にタイトル入れたくなるところです。
越智カメラマンが納得いく写真が撮れた感のバロメーターのひとつに、フォト派のガイドであれば、「翌日、早速カメラを持って同じ写真を撮りにいく」というのがあるのですが、テルさん、翌日、早速コケギンポのペアを撮ってフェイスブックにアップしていました(もう、先にアップしちゃうなんて)(笑)。
はじめての葉山を潜った越智カメラマン
はじめて越智カメラマンと潜ったテルさん
さて、1泊2日と短い期間でしたが、初めての葉山はどうだったのでしょうか?
越智カメラマン
(コメント)
神奈川県出身なので、葉山には海水浴に良く来ていました。
エントリーポイントからも見える赤い鳥居のある名島には、小学生のとき、遠泳で泳ぎに行って、帰りに足がつって溺れそうになった苦い思い出もあります(笑)。
だから、初めてエントリーポイントに来たときに、「わ〜ここなのか〜」と感動していました。
そんな子供の頃の思い出の海で潜ることができたこと自体、実はとっても感慨深くて、人知れず、その海に潜ることができるなんて、とワクワクしていました。
本当はもっと早くに潜りに来たかったんですけど、なかなか機会がなくて。
エントリーはちょっと大変だけど、マクロの被写体には、本当に困らなかったですね。
テル君が、こちらがリクエストする被写体を次から次へと案内してくれるから、息つく暇もありませんでした。
特にギンポ系はさすがに多い。
権太郎岩周辺の岩場は、とにかくギンポだらけ。
1ダイブで20個体近くを撮影したんだけど、テル君が探している間に、何匹か自分でも見つけられるくらいにいたのには驚きました。
フォト派が多いし、通年観られる被写体としては、この個体数の多さは、いいですね。
数ある中から、口を開けたり、アクションの大きな個体や、バックが青抜きにできるシチュエーションなどいろいろ選べるし、ガイドがその場所をしっかり把握している。
それだけでなく、自分で探せる楽しさもあって、地味っぽいけど、飽きないですね。
あの周辺で、何個体撮影できたかって、チーム分けして競争しても面白そうです。
今回は、そんなギンポの多さを強調するために、1個体1個体への撮影時間はあまり取らずに、とにかく数を沢山撮影したけど、できれば、次回は、気に入った個体でじっくり粘って撮影してみたいですね。
あとは、四季を感じに、また来て潜ってみたいです。
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逆に、はじめて越智カメラマンと潜った感想は?
テルさん
(コメント)
越智さんとは5年くらい前にはじめてお会いして、その後、ガイド会のイベントなどで会うたびに「葉山でお待ちしています」という言葉をかけさせていただいていました。
今回、5年越しでやっと実現となりました。越智さんがフルサイズでなく7Dを使う理由やズームレンズのワイドを使う理由に「なるほど〜」という感じで勉強になりました。
陸上同様、水中でも優しい雰囲気で、僕も穏やかな気持ちでガイドさせていただきました(笑)。
おまけ
テルさんが、たくさんいるイワアナコケギンポと共に“葉山らしい”ギンポというのが、こちらはレアなコモンイトギンポ。
大口を開いて喧嘩するシーンはフォト派の憧れなんだとか。
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写真:佐藤 輝
葉山の海をナビゲートしてくれたのは……
ダイビングショップNANA
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葉山生まれ・育ちの佐藤輝さんが率いる「ダイビングショップNANA」。
ガイド会に所属する輝さんはフォト派には心強い存在だが、「いろんなダイバーに潜って欲しい」の言葉通り、4~6班のチーム分け、そして、三浦のボートポイントも潜れる態勢が整っているので、文字通り、Cカード講習、ビギナーから変態フォトダイバーまで、ケアが可能。施設もきれいで、居心地がよく、都内から1時間でアクセス可能とあって、「葉山というよりNANAへ遊びにきている」というリピーターも多い。
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NANAの女将、シカさん手作りのランチが好評。メニューはいろいろあるが、せっかくの湘南、まずはシラス丼はいかがでしょう?
【Photograph】
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