生態写真を撮るためのテクニック ~川本剛志×越智隆治 撮影プチ裏話~
撮影プチ裏話・前編では、ダイブエスティバン の川本さんと越智カメラマンがどんな思いで撮影に臨んでいるのかお伝えしましたが、今回は、実際に“繁殖”をテーマにした撮影を終えた感想やテクニックなど、撮影について話をお聞きしました!
――― まず、イルカやクジラなど海洋ほ乳類を撮影することが多い越智カメラマンですが、今回は、繁殖行動、生態写真と勝手違う撮影。実際に撮影してみてどうでしたか?
越智
報道カメラマン時代、Jリーグの撮影で、シュートの瞬間を撮っている時と似ているなぁと思いました。
ボールを蹴る瞬間、ゴールに突き刺さる瞬間など、一瞬しかチャンスがないし、その一瞬を逃すと仕事にならない。
撮れている感覚があっても写っていないこともあって、とてもシビアだった。
同じように、繁殖行動は一瞬のできごとなので、精神的にも集中、安定しないと撮れません。
こちらが激しく動くような撮影や動かない被写体を撮る時は、アイデアや構図次第というところがありますが、瞬間を撮るのは職人的なスキルや経験が必要。
性分的には職人でありたいと思っているので、うまくいったときは、職人として嬉しい。
――― 川本さんは、越智カメラマンに生態やマクロを撮影するイメージがなかったとおっしゃっていましたね?
川本
はい。もう少し華やかというか、派手な写真しか撮らない人なのかなーと思っていました。
イルカとか気持ちのいい神々しいイメージの写真しか撮らず、生態写真など、地味な撮影はしないのかな、と思っていたんです。
でも、実際は、求められるものに最善を尽くし、「もうこの辺でいいかな」というのがなく、追及する姿勢に共感しました。
職人的で、こういう人だったんだ、と少し意外でした。
――― 越智さんは、川本さんと潜ってみていかがでしたか?
越智
やっぱり、自分のフィールドを、どこまで潜って調べてんだ、というくらい網羅している。
どこに何がいるというだけでなく、海の変化、生物の状況など、本当に細かい。
繁殖行動にしても分単位で予想を立て、生物によっては、個体による性格まで把握している。
それに、ガイドには、ただ生物を紹介されるだけの場合も多いのですが、川本さんの場合は、珍しいものを見せるだけじゃなく、生態に興味が湧くように話すので、撮る意欲が湧いてきます。
――― そんな二人のコラボで、オスがナズリング(メスに放卵を促す行為)するところや、卵塊が出る瞬間、放精の瞬間など、貴重なショットが撮影できましたが、放精など、一瞬を撮影するような時のテクニックを教えてください。
越智
放精放卵の瞬間は一瞬。
パッとくっついて、パッと離れてしまうので、とにかく撮りたいタイミングで連射できることが重要になります。
そういう意味では、光ケーブルによるストロボ発光(編注:カメラ本体の内臓ストロボの光を感知し、ストロボを発光させる)だと、ビジー(編注:BUSY=カメラ本体のチャージ待ちの状態)になって、撮りたいタイミングでシャッターが切れない。
なので、今回は、電気ケーブルによるストロボ発光(編注:シャッターを押せば、ストロボ発光する)という装備で撮影しました。
――― でも、電気ケーブルだと、TTL(自動に露出を図って適正光量を発光する)使えませんよね?
越智
そうだね。
だから、ストロボはマニュアル発光で撮影するんですが、事前に試し撮りをして調整しておきます。
状況に合わせた機材選びは大事で、今回も何とか撮影できました。
川本
短期間で、これまで自分が撮った写真のストックより良い写真でで、正直、ちょっと悔しかったです(笑)。
越智
いや、それは、川本さんに、放精放卵しそうな個体やその予兆を的確に教えてもらえるからですよ。
川本さんが撮影する時には、川本さんのサポートはないわけですからね。
――― “撮らせる”というガイドの立場からは、何かテクニックのようなものはありますか?
川本
生態の写真はデータの蓄積が大事。
じっくり観察し、まずは予兆を探ります。
その予兆と実際の結果を比べて理解を深めていきます。
そんな予兆と結果の積み重ねで、だんだんわかってくるんです。
フォト派の方に撮っていただく、ビギナーの方にフィッシュウオッチングの楽しさを伝える、繁殖ウオッチングを楽しんでいただくには、テクニックというより、とにかく自分の海のことは何でも興味を持って、把握し、あらゆる引き出しを持っておくことだと思います。
改めて、そんな川本さんと越智カメラマンのコラボで完成したWEBマガジンをぜひご覧ください!
「生命輝く季節・初夏の球美島~久米島ダイビング紀行~」|オーシャナ
https://oceana.ne.jp/webmagazine/201507_kume
ダイブエスティバン
川本剛志さん
世界のトップ水中ガイド集団「ガイド会」の会長。
データをもとに、久米島の海の状況を細かく把握し、フォト派やマニアックな生態観察まで対応可能。
と言うと、敷居が高いように感じるかもしれないが、53フィートの久米島一の大型ボートにスタッフが多数乗船しているので、ビギナーやシニア、フォト派が同船しているような懐の深さが強み。